- すべからく読み終えたのち
- 世界は崩れ堕ちた
叙述トリックには読者を騙すというだけでなく、ときおり世界が崩壊するかのような錯覚をもたらす効果がある。
そういった「騙り」と作品のテーマが一致した時、深い感動を与える傑作が生まれるのだという。
この本で感動はしないと思うが、
確かに世界が崩れる錯覚は味わった。
私がミステリーやホラーを好むのは、
こういう感覚を味わいたいからなのだと思う。
3人の視点が入れ替わり立ち代わり
複雑に構成される本作。
連続猟奇殺人事件の犯人である蒲生稔とその母。そして定年した元刑事の樋口。
犯行シーンの描写があまりに残忍で卑猥。半ばいき過ぎ感のあるグロテスクな表現は逆にその本を低俗たらしめる要因となり兼ねない。
私も3件の殺害シーンには辟易した。
それでも読み進めたのは、紹介してくれた方の読書歴を信じての事である。
きっと最後に驚愕の結末があるはずという一縷の期待感を抱いて。
読みながらある程度の予想はたてていた。
タイトルから察するに、病が伝染してその母や樋口も殺人を犯すのではないか。
蒲生稔という人物そのものが存在しないのではないか。
時間や人物トリック、あるいはテクストトリックが仕掛けられているのではないか。
しかし、そんな私の予想を遥か超えて…
天を仰ぎたくなるような結末だった。
二重三重にトリックが仕掛けられている場合、構成が複雑になりすぎて謎解きのカタルシスが水増しされてしまう場合がある。
その点において、本作はあるトリック1本にのみ注力して書かれており、その作者の並々ならぬ気迫に唯々圧倒されてしまう。
思えば、伏線は確かにあった。
冒頭いきなり添えられるエピローグ。
第2の犯行に及ぶゲームセンターでのやり取り。
大学教授が嬉々として語る犯人の人物像。
週刊誌に掲載される幾つものあやふやな目撃談
最終章で終に交錯する3人。
そこで伏線を経て感じた疑問は確信へと変わる。
その結末に不覚にも私は暫し呆然とした。
読み終えたのは電車の中だった。
その日はなんだか何も手につかなかった。
余談だが、私の考える最も恐ろしい殺人鬼とは、平然と日常生活を送るような人物である。
その点において、平凡な家庭の中に身をおく本作の犯人は、実に私好みの殺人鬼だ。
ただ、残念な事に少し冷静さに欠けている。
至高の快楽と自身の神格化で犯人の思考が埋め尽くされてしまっているからだ。
氷のような冷徹さで殺人を犯す。
些かの躊躇もなく…
同情の余地など一切入らない完全体。
それが私の理想とする人物だ。
P.S ヨシキティさんへ
本当に感謝です。ただ、無闇やたらに人へ薦める事は出来ませんね♪
最後まで読んでくれないと人間性や品性みたいなものが疑われる、実際に私も少し疑いましたよ、読み終えるまではw
読書家を気取るシロクロさんより

