儚い羊たちの祝宴 | My favorite is …

My favorite is …

好きな音楽や本、映画に出逢った時、そこに関わるエピソードが必ずあります。

人間は時間的存在である。

それゆえに、過去の断片化した記憶を綴り、書き記していこうと思います。

サンルームは荒れ果てている。

数年前に存在した大学の読書サークル
「バベルの会」の成れの果て。

私のお嬢様も籍を置いていた
上流階級の令嬢たちが集まる優雅な会。


それは、幻想と現実を混同してしまう
儚い者たちの聖域。

同じ宿痾を抱えた者たちの集まり。


5つの物語をゆるく繋ぐその会が催すのは、
儚い羊たちの祝宴。








~ 身内に不幸がありまして ~


丹山家の吹子様は、それはそれは気品に満ちた方であったと聞いております。

慎み深く教養豊かで、所作の一つ一つが美しく、どこか超然としていたと。


吹子様には、付き人がおりました。
丹山家のような上流階級の家柄ともなれば、さほど珍しい事ではありません。

その付き人が秘密の書棚を作ってくれた話をお嬢様に嬉し気に語ってくれたそうです。


丹山家といえば、数年前ある事件を機に毎年7月30日に決まって家の者が亡くなっているという噂を耳にした事があります。



バベルの会は、毎年8月1日より避暑を兼ねての読書会を蓼沼の湖畔にて行っておりました。


身内に不幸が続いた吹子様がその会に参加される事は終ぞなかったとか。




~ 北の館の罪人 ~


古くは紡績業を、そこから製薬会社に転身し富を築いた六綱家。

その六綱家の詠子様とは、私のお嬢様も懇意にして頂いておりました。



毎年行われている蓼沼の湖畔での読書会では、お二人はいつもご一緒でした。



その六綱邸には北の館とも黒窓館とも呼ばれている曰くつきの別館があるそうです。

その別館と本館にそれぞれ飾られている2つの絵画に描かれた4人の人物。


露草の青と紅の赤を混ぜて作られた紫の色は数年の時を経て褪色し…やがて赤が勝ると聞いた事がございます。


この絵を描かれた詠子様のお兄様は、一説には誰かに殺害されたと噂されておりました。

その犯人は数年後、飾られた絵が証明してくれるとか。








~ 儚い羊たちの晩餐 ~


- バベルの会はこうして消滅した。

その言葉から綴られる1冊の日記は、会を除名された大寺家のご令嬢のものでした。

その日記は、以下のように書き連ねてあります。


家に来た新しい人は厨娘という特別な料理人。

羊頭、長葱、鵞鳥、宴に出される料理は
この上なく美味だった。


その厨娘は調理の度に大量の食材を買い込み、
芳崖なお心付けを申し出た。


アミルスタン羊、その雌の一名を不羨羊。

羊よりもなお味がよく、
調達するには狩るよりほかない。

私はこの羊をつかった料理が食べてみたいと
パパと厨娘に話した。


狩場には蓼沼の湖畔を勧めた。

あの場所には毎年の夏か弱い羊たちが
群れを成して集まる。


- 私の夢想に捧げられた
- 夢見る儚い羊たち、

- 悉く狩りつくされ、
- 後には一匹も残らない。


………
……




さて、前述の日記がなぜ今この円卓に
放置されたままなのか。

それは、羊の皮を被った狼を
私がこの手で狩ったからに他ならない。



- ああ、お嬢様、私のお嬢様。

- 私はこの紫の手袋を血に染めて
- 貴方の復讐を遂げました。

- お嬢様に仕える事が出来て幸せです。
- こんなに甘美な行いが果たせたのですから。



祝宴は本当の意味で終わりを迎える。


いつか訪れる儚い者が本書を手に取った時、
宴はまた始まるであろう。












P.S 2011年 作家が選ぶ作家1位の米澤様

ミステリーの醍醐味といえば、最後の一撃
(フィニッシング・ストローク)

その更に上をいく「ラスト一行の衝撃」に
拘りぬいた連作短編集。

それなりに驚きはしたものの、ミステリーを書くというのはかくも難しいものですね。

あなたの著作を敬愛する儚い読書家より