特に急ぎの仕事はない。
一昨日、担当している事業の来年度に関する委員会があり、外部から関係者が来ることもあって、体調の悪い中事前準備に励んでいた。
それが終わって気が抜けたのかもしれない。
昨日は鼻をかみながら残務整理をしたが、やはりしんどかった。
休んでも構わないかな、ぼんやり考えていた。
時計は午前5時35分だった。
出勤する用意だけはしておこうと体を起こし、子ども達を起こさぬように寝室からリビングへ向かう。
食パンをトースターに入れ、電気ケトルをセットした。
食器乾燥機の中は空っぽになっていた。
私より遅く寝た妻が片付けてくれたんだ、朝の作業が一つ減ったことでまだ寝ている妻に感謝した。
食パンにリンゴジャムを塗り、コーヒーを淹れて朝食は完成した。
テレビをつけると音量を下げた。
ちょうどスポーツコーナーが終わったところだった。
私はこの番組をあまり好いてはいない。
ただでさえバラエティ番組が嫌いなのに、朝からバラエティ感が強く、天気予報すら東京中心で地域の情報が手に入らない。
なぜ見るのか。
もうすぐ起きてくる妻はこの番組を見ているからだ。
アナウンサーは笑いを取ろうとしている。
天気予報は私に関係のない東京の冷え込みを伝えている。
占いが始まるところで妻の足音が聞こえた。
時計は午前5時58分だった。
朝食を終えた私は歯磨きなどの身支度をする。
妻はこの夫と自分のお弁当を詰め終えて、子ども達のトーストを焼こうとしている。
仲が悪いわけではないが、ここまで私と妻に会話はない。
朝はそれでいい、とお互いが思っている。
少なくとも私は。
さっき食べ終えた食器を洗い、子ども達を起こしに行く。
時計は午前6時25分だった。
長女は寝起きがいい。
長男は五分五分な感じだ。
しかし、次女は常に寝覚めが悪い。
今朝も自分で階段を降りず、私に抱っこをせがんだ。
私も次女の甘えたが嫌いではないので、仕方のないふりをして抱っこをする。
同時に、こうして抱っこするのもあとわずかなんだろうと思う。
次女を妻に渡してから寝室を片付けた。
そのまま自室へ行き、スーツに着替える。
ネクタイは数本持っているが、青のドット、青のチェック、グレーのチェックの3本をローテーションしている。
今日は青のドットだった。
着替えを終えると本格的に食器を洗い、子どものトイレを手伝って、歯磨きの用意をする。
今日はゴミの日だったので、裏手の生ゴミを回収した。
テレビは本日2回目の占いを流している。
子ども達の頭を撫で、残りの食器をはじめとする後の家事は妻に任せて家を出る。
時計は午前7時2分だった。
ゴミ置場にゴミを出し、自転車は坂を下る。
今日は東京だけでなく、私の住む町も冷え込んでいる。
そろそろネックウォーマーがいるなと思っていたら、横断歩道の前を軽自動車が止まる様子も見せず、当たり前のように通り過ぎた。
私はこうした運転が嫌いで仕方ない。
横断歩道で止まらないドライバーは免停にすればいいのに、と本気で思う。
駅前の駐車場に着いた。
いつも通りの通勤電車に乗れる時間だが、一本見送ることにした。
やはり、体調は優れないようだ。
いつも通りの通勤電車は南北線経由で職場の最寄駅に着く。
しかし、一本後の電車は都心に向かうため、職場まで少し離れてしまう。
歩けないことはないから都心に着いて行けたら行こう、そう思っていたが、私はもう休暇を取る気持ちでいた。
電車は南北線に入る前の駅で線路を切り替え、都心へ向かう。
ホームは通勤、通学そして観光客らが溢れている。
時計は午前8時11分だった。
私は改札を出てウエストビルに向かう。
職場とは反対の道なので、もういよいよ仕事を休むつもりだ。
このビルに入ればあとには引けない、そう思っていたが、通勤電車を見送った時点で境界線は超えていたようなものだ。
ビルの最上階にはカフェがあり、この時間でも開いているのを私は知っている。
ザボタージュは今回に限ったことではないからだ。
いや、そもそもザボタージュではなくリフレッシュなんだと言い聞かせた。
本日のコーヒーを注文する。
店内に客は数名いたが、いかにも仕事前のスーツ姿は私だけだった。
ワケあり感を出しつつコーヒーを飲む。
文庫本の続きを読みながら、そろそろこの辺りでとマグカップをお返しし、店を出た。
どこか静かにできれば人に聞かれず電話できる場所はないか。
時計は午前8時47分だった。
職場に電話すると向かいの席に座る係長が出た。
端的に体調不良で休暇を取る旨を伝え、本日の仕事を終えた。
さて、今から何をすべきかと無計画に過ごしてきたわけではない。
ちゃんと手は打ってある。
ウエストビルを出て少し離れたビルを目指した。
そのビルには展望台があり、外国人観光客にも人気のスポットになっている。
ずいぶん昔からあるのに魅力は衰えない。
私は一度も展望台まで上ったことはないが、大学生の頃、一緒に行けたらいいなと思っていた人がいた。
ここに来るとそんな成就しなかった思い出が蘇る。
近くのコンビニでチケットを発券する。
時計は午前9時8分だった。
ビルの3階に映画館の受付があり、私はリチャード・ギア主演の『嘘はフィクサーのはじまり』という映画を観た。
映画館を出ると、世の中の何から何まで誰かが誰かを巧みに結びつかせた結果、あの国が政権交代したり、この国が消費税を増税したり、私がお弁当を食べる場所を探しているのだなと思った。
私は影響されやすい。
例えば防犯カメラもそうだ。
街中に取り付けられた防犯カメラが気になって仕方がないのは今日読み終えた文庫本の小説が影響している。
映画館にいたあいつは警察かも知れない、とかエレベーターの後ろの女は怪しいとか思いながら、再びウエストビルのカフェ前に戻り、屋外のベンチでお弁当を食べた。
周りにも同じように昼食をとる人はいたが、そろそろ屋外は寒さが限界かも知れない。
時計は午後12時46分だった。
昼食を終えた私は都心から自宅のある郊外を目指す。
今から鈍行に乗って帰ろう。
その前に紀伊國屋で好きな作家の新刊を買って車内で読もう。
そう思って、改札を通った。
時計は午後1時20分だった。