還暦記念42キロヒノイチ・ノルディックウォーキングの準備として20キロ歩く予定でいたが急遽予定を変更し、大峰山へ行った。歩行距離は14キロだったが、疲労度は先週の16キロ・ウォークをはるかに凌ぐ。平地での20キロぐらいに相当するだろう。
朝5時に起床。例のごとく甲賀、伊賀を通り、369を通って吉野まで。天気予報は晴れだったのだが、吉野まで行く途中で雨が降ってきた。結構普通に降ってきたのでこれは登山無理かなと思いつつ、とりあえず天川村まで行くことに。着いた午前9時頃には雨が上がっていた。晴れではないが登れなくはないだろう。
ここまで来たのだ。とりあえず登れる所まで登ってみよう。いざという時は引き返すという手もあるので。何しろ、少しでもいいのでこの門をくぐってこの聖地の空気に浸ってみたい。
洞辻茶屋までの道は普通の山道だった。雰囲気的には綿向山とあまり変わらない。熊野の滝(日野町の)への道に近いだろう。
基本的に近畿地方の山はどこも似たような地形をしている。岩や石が至る所にある。
ここまで来るのでも結構疲れた。ここのところ低い山(三上山、飯道山など)ばかり登っているので、久しぶりの長距離登山になる。
洞辻茶屋で大峰奥駆道に合流する。吉野山から熊野本宮大社まで続く日本最長縦走ルート。もともとここを還暦記念として挑戦したかったのだ。ただ、ゴールデンウィークはこむだろうしいきなり4泊5日はきびしいので断念することに。
ここまで来るだけでハーハー言っているのだからやはり奥駆は無理だな。
実際洞辻茶屋を越えてからがハードだった。
登りはあまりなく道的には平たんなトレイルが多いが、岩場やごつごつした石が増えてきた。そして天気が一気に悪くなった。
霧がかり、風が強くなってきた。脱いだ服をもう一度着て、ウインドブレーカーまで着た。
雪がまだ残っているではないか。3月末に登った人の動画で頂上付近で少し雪が残っていたので、4月半ばを過ぎれば完全に融けているだろうとふんで来たのだが。
そしていよいよ最大の難所と言われる鐘掛岩へ。
この人登っているのかと思ったら降りてきた。どうやら別の下山ルートがわからず同じ道を降りてきたらしい。
「大丈夫でした?」
「岩場とか慣れている人だったら登れると思いますよ。一応、鎖はついています」
慣れている? その基準にもよる。岩場? 岩場というのは何を指しているのだろうか。
たいていのことならば僕は山登りには自信がある。もっとも、ごく普通の山登りで、クライミング経験はゼロだ。
実は、日本でいう登山は独特な言葉で、英語ではmountain climbing hiking mountaineeringなど言い方がいくつかある。
mountaineeringというのは装備などを用いた本格的登山のことで、エベレスト、ヨーロッパアルプスなどいわゆるプロの登山家が行うような種類の登山を指す。mountain climbingはそれよりは簡単だが、それでも単なる歩行だけでなく手を使ってよじ登るというニュアンスが含まれているので、日本でごく一般的にレジャー感覚で行われているものはhikingが一番近い。
もっとも、ハイキングというと日本では平地を歩くイメージがあるのだが、そもそも地形がそれぞれの国で全く異なるので意味合いが違ってくる。例えばイギリスにはスコットランドやウェールズを除けば日本にあるような山はほとんどなく、あるのは丘だ。
アメリカは大陸なのですべてがでかい。山といってもひとつひとつの面積が大きいので、山の尾根を縦走するようなルートもたくさんあり、山登り=頂上を目指すものでもない。なので頂上を目指すわけではない山歩きという意味のhikingという言葉がよく使われるのだ。
ところが日本では山登りといえばほとんど頂上を目指す。なのでhikingよりはmountain climbingの方が意味的には合っているのだが、1000メートルぐらいの低い山がほとんどなので、レベル的にはhikingだ。
僕の言う慣れている山登りはこうした日本的なもので、hikingだ。
さらに厳密の言うと、僕の慣れているのは山地でのウォーキング。中学時代に標高800メートルの所から標高600メートルの場所まで往復8キロの道のりを毎日通っていて、それ以降多少の距離ならば問題なく歩ける脚力がついた。ただ、僕はいわゆる山男ではなく、登山を趣味にしてきたわけではない。
さっきの人がいた少し上の場所が鐘掛岩で、そこまでも岩場は岩場だがもう少し緩やかな岩場だ。鐘掛岩に登る手前でも迂回するルートがあると動画には載っていた。とりあえず登ってみて、鐘掛岩の手前まで来た。
なんやこれ? 崖やないか。
動画で観た時はここまで急じゃなかった気がする。
霧が立ち込め何も見えない。
ここから崖のてっぺんまで3,4メートルあり、そこから先に鎖を使って登る場所があり、そこまでは手だけ使ってよじ登るのだ。鎖を使って登る場所を含めると7.8メートルはあるだろうか。ていうか鎖の先が見えないのでどこまであるのかわからない。動画ではそのぐらいだったような気がする。
これ、山登りじゃなくてロッククライミングではないか。しかも装備なしでの。
晴れていればまた違うのだろう。あるいは先導してくれる山伏のオッチャンたちがいるのなら。
迂回するルートがあるのでそっちに進む。こんなところで命を落としたら元も子もない。長寿目指して山登りして事故で死ぬなんてもってのほかだ。(実際、転落事故もあるという。転落し、即死した例も。なので変な度胸試し感覚で登ることは絶対勧めない。僕自身その誘惑に駆られた。ここまで来たんだからここを登らないと男が廃るのような。でも、思い切って諦めることも勇気だ)
そして西の覗に来る。修験道の修行ではここの崖につるされて懺悔をする。行者講で行った人たちもこれをする。行者講というのは近畿地方の農村の行事で、各集落を代表して何人かが毎年大峰山に行って修行をするもの。義理の父もやったと言っていた。
崖からの景色。霧で何も見えない。
身を乗り出すことなく安全な場所に座り、僕なりの懺悔を行う。つるされこそしなかったものの、風も結構強く、空気は冷たく、そこにいるだけでも恐怖心があった。そういう意味では通過儀礼にはなっただろう。
そしていよいよ大峰山寺。
ここが修験者たちの修行寺。ここで護摩をたいたり、般若心経を唱えたりするようだ。
そういえば、ここのところ僕も般若心経を唱えている。
お寺のすぐ上に頂上のお花畑がある。
ここまで来るのでももう脚がガクガクだ。
下りはずっと脚が痛かった。
もっとも、霧が晴れ、景色はよくなった。
こうした岩があちこちに。
山歩きやトレイルランはいいけれど、岩場での修行はなしでいいかな。
本格的に修験道の修行をしたい人は別として、健康、長寿、バイオハッキングにそこまでやる必要はないだろう。
下山後、洞川温泉で脚を休める。
そして天河神社にも。3回目だ。
やれやれ。とにかく大峰山に挨拶に行けてよかった。もちろんIkigai Bio-Hackingの本も持って行った。出版報告はでき、目的は達成できた。
やっぱり迫力あったな。修行の山にふさわしい厳格な雰囲気があった。
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