カメオの伝言 | コラム・インテリジェンス

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透き通るような…心が…ほしい

いきなり奥の部屋から綺麗な小箱を持ってきた。
中のカメオはクリーム色に輝いて見えた。

母の形見の一つです、と言う。母から娘へ。
母は著名は小説家であった。娘が語る母の思い出はほとんど知っていた。
作品でも読んでいたし本人から直接聞いたエピソードもある。
もしかしたら娘よりも母の多くを知っているのかもしれない。

母と自分を比べた娘の独白を聞いた。
傷つきやすく奔放といわれた母を疎んじていた過去の自分と
母の作品の多くに登場する女性たちと同年代になった現在の自分を見つめている彼女がそこにいた。

母のようにはなりたくないと思っていた母の欠点と決め付けていた部分が
自分の中にもあることを強く意識してしまう自分を憎み始めている。
母の優しさと思われた部分が自分の中にもあることに愛おしさと愛惜の気持ちで押しつぶされそうになる。

僕はメソポタミアの匂いとかシュメールの陰謀とかカメオにまつわる、
彼女にとってはどうでもいいようなお話で気を紛らわそうと努めた。

母はそれも含めての母であったし、彼女もそれを含めての彼女である。
シュメールの呪いは母から娘へと確実に伝わっているのだ。
君が望むと望まずとに関わりなくに、なのだ。

こじつけもいいところの話のこんな部分で彼女が再び泣き出すとは思いもよらなかった。号泣になった。
カメオは存外に彼女を感動させ始めたようでした。

心の動揺から立ち直りかけた彼女は涙を拭きながら僕に
「カメオはあなたに伝えたい伝言もあったような気がする」と微笑んだ。
冗談じゃない。僕は呪いとかオカルト系にもすこぶる弱いのだ。
泣き出したいのは僕のほうです、とすばやく退散したのでした。