
・作品の出来はともかく、好きなタイトルの話になると、
「狼は天使の匂い」と同じくらい好きなタイトルがもう1本。
フランソワ・トリュフォー監督の「ピアニストを撃て」。

僕はピアノが弾ける人を無条件で尊敬してしまうせいか、
ピアニストというものに神聖なイメージを抱いていて、
そんなピアニストを“撃て”と命令形で言い放ったタイトルは
危険な美学とでも言うのか、いやでも頭に残る。

このタイトルの語源になっているのは、
今や有名なお話しながら、
西部開拓時代の酒場で生まれたユニークな言葉。
当時は無法者が暴れまわると、店主が真っ先に、
「ピアニストは撃たないでくれ!」と叫んだという。

それでも、無法者は言うことなんか聞きゃあしないので
そこらじゅうに
「ピアニストは撃つな」という貼り紙がしてあったとか。


ピアニストの生み出す音楽は、
音響設備など無い当時は、貴重なものだったのだろう。
確かに
殺し合いや血の流れる場所には似つかわしくない存在。
しかし、トリュフォーはそれを逆手にとって
滑稽なサスペンスに仕立てた。

奇しくも、
「狼は天使の匂い」も「ピアニストを撃て」も、
アメリカのハードボイルド作家デヴィッド・グーディスの小説を
下敷きにしている作品。

いずれもタイトルを先に覚えて、
実際に作品を観たのはず~っと後のことである。
同じ作家の原作を映画化したことを知ったのは、更に後の話。

もっとうれしくなってしまうのは、
「狼は天使の匂い」のルネ・クレマン監督は、
トリュフォーらのヌーベルバーグの作家たちとは
まったく肌が合わなかったこと。

「フランス映画をダメにしたのはヌーベルバーグだ」
と来日の際に、
いかにも保守派の老獪らしいコメントを残した。

■François Truffaut
結果から言えば、別にダメになったとは思わないが、
トリュフォー監督らの維新側にしてみれば、
表立って斬りつけてくる
世界に名だたる大監督クレマン老は、
正直なところ厄介なクソジジイだったに違いない。

さて、そんなヌーベルヴァーグ期の1本、
「ピアニストを撃て」は、
チョッとクセがある喜劇タッチのサスペンス。

●Tirez sur le pianiste(1960・フランス)
監督:フランソワ・トリュフォー
原作:デヴィッド・グーディス「DOWN THERE」
脚本:マルセル・ムーシー フランソワ・トリュフォー

・オープニング…
機械仕掛けのピアノの鍵盤が、
丁度「第三の男」のチターの弦みたいに大写しになって、
無神経に鳴り響く♪

なんだか小粋なフランス映画やなァと観ていると、
イヤイヤさにあらず。
主人公のシャルリー氏(シャルル・アズナブール)は、
小柄で頭髪も寂しくなりかけた、
「内気」を画に描いたようなインテリの厭世家である。

場末の酒場でピアノを弾いて、やっとこさ生計を立てている
いま一つピリッとしない中年男でもある。

ナレーションで、
そのピリッとしない心情を独白しつつ、
自分とは違う世界に生きている人々のために、
今夜も
やるせなくピアノを演奏する。

そんな世間の人々と関わることには全く無関心で、
気力も及ばない。
いかにも情けないくたびれたオッサンである。

しかも、
「ほっといてくれ、俺はこれでいいんだ」と、
独りよがりの居直りの中で生きている。
早い話が、極端な人間嫌いなのだ。
ところが、
違う世界で楽しくやってる人々は、
この気弱そうな男にちょっかいを出す。
出さずにはおられないのだ。

まったくもって、
オッサンにしてみりゃ、ハタ迷惑な話なのだが、
つまらない関わり合いから、迷惑どころか、
命を狙われる危機に接して行かねばならなくなる。

ヒッチコックを心酔するトリュフォーが、
ヒッチコックお得意の巻き込まれ型のサスペンスの中に、
トリュフォーお得意の恋愛の孤独、人生の悲哀といった
湿っぽいドラマを無理やり融け込ませたような話である。

どうにもどっちつかずで、そんなぎこちない取り合わせが、
この奇妙な犯罪映画の魅力と言えなくもない。
そして、

思いもよらぬ重苦しい過去を引きずっている主人公は、
ピアノを弾く神聖なる手を、ついには暴力をもたらす拳銃で
汚さねばならなくなる。

ひ弱そうなアズナブールのいぶかしそうな表情が、
見事過ぎるくらいフィルムに馴染んでしまっていて、
このキャラゆえに、暴力沙汰になっても
どこかでシニカルな笑いを誘う。

俳優の滝藤賢一に似てますネ

ストーリーとは全く関係ない、
ギャングの母親が急死するショットが出てきたり、
ヌーベルバーグ映画らしい無意味で無駄な会話に
戸惑わされたり、
トリュフォー監督のチグハグな小技に
翻弄される仕掛けなのだが、
行きつく果てにあるのは、物哀しいハードボイルドである。

しかし、何と申しましても
毒々しい男女の色恋のもつれであっても、
表向き清潔な見せ方を好むトリュフォー監督、

終盤で展開する雪山の別荘での銃撃戦など、
かつてお目にかかったことのない、
のびのびとした牧歌的な殺し合いで、
何とも嬉しくなってしまった。
ヌーベルバーグの映画は、
無駄を無駄と感じさせない、
萌芽の息吹きをまき散らす映像自体がおもしろい。
★★★★
採点基準:★…5個が最高位でマーキングしています。★…は★の1/2です。



















































































































