六神将ガイ没③
【注】
この話は六神将ガイで、ガイ様がほんのり黒いです。
CPは一応ガイルクですが、あまりガイルクに見えない(…)
ガイは「ホド崩落の真実を自ら突き止めるまで、ルークと共に行く」とヴァンと約束し、和平調停後に寝返ります。
寝返り前。
アラミス湧水洞で、ガイと髪を切ったルークの再会。
ガイ視点。
昔のままだったら、
きっと
愛しても
殺してもやれたのに。
革命は民衆を置き去りに進む
夕焼けのように鮮やかに、緋から橙へと色変わりしていく長い髪。
幼い頃から毎日、絡まないよう、痛まないよう、俺が大切に手入れしてきた髪。
それをあいつは、切り落とした。
俺の知らない所で。
うなじに掛る程度の長さになった毛先を、擽ったそうに指で払う。
緋色だけに染まってしまった色。
恥ずかしそうに俯く様が、無性に気に触る。
「髪、切ったんだな」
一瞬驚きから言葉を失い、互いの間に流れてしまった沈黙を、無理矢理破った。
些細な変化さえ気取られないように、出来るだけ平静を装う。
震えそうになる声を押さえ、長年の生活で染み付いてしまった、人の良さそうな笑みを浮かべてみせた。
「いいんじゃないか。
さっぱりしてさ」
ルークが少しだけ、はにかむように笑う。
自分の些細な変化を、認められた事が嬉しいのだろう。
本当は、口にした事など思ってもいないが。
ゆっくりと歩を進め、ルークの前に立つ。
その頭を乱暴に撫でるが、昔のように指先に絡む感触は無い。
掴む前に、するりと逃げるように滑り落ちていく髪。
意味もなく、淋しいと感じる自分が不思議だった。
絡めても絡めても、指にまとわりついた橙の色はもう無い。
唯一“レプリカルーク”の中で愛せた、緋色の髪。
それをルークは知らない内に、俺に断りもなく捨ててしまった。
許せないという苛立ちと共に、沸き上がる虚しさ。
勝手に髪を切った事への苛立ち。
ずっと何をするにも最後には俺を頼ったルークが、自分一人で何かを決めてしまった、離れていくような虚しさ。
後者は、認めたくなかった。
「……ガイ、」
控え目に袖を掴まれる。
伏せた、不安げな表情。
そんな仕草は、七年間ずっと傍で相手をしてきて、一度も見た事が無い。
ルークは、こんな顔をするような人間だっただろうか。
もっと自分本意で、後悔や罪悪感なんて感じない、我が儘な箱入り息子ではなかっただろうか。
「その……俺、アッシュのレプリカだって………だから、」
こんな歯切れの悪い言い方をするルーク、知らない。
髪型だけじゃない。
もっと根本的な何かが、ルークの中で変化してきている。
背中を伝った冷や汗に、気付かない振りをした。
親友の顔で笑って、その肩を軽い調子で叩いてやった。
「確かにおまえはアッシュのレプリカかもしれないけど、俺にとって“ルーク”はおまえだけだよ」
慣れてしまった口唇で、また嘘を塗り重ねる。
「――――俺にとっての本物は、おまえだけだ」
本物、なんて思ってない。
レプリカは所詮レプリカ。
無惨な劣化品。
ただ変わらない物があるとするのなら、それはおまえが殺したい仇の子である事。
そんな本音を、全部、嘘の裏側に押し込める。
「だけど俺は本当は居ちゃいけない人間で、名前だって………俺の名前じゃないし」
「別にいいじゃないか。アッシュはその名前で呼ばれるのを嫌がってたし。
名前ぐらい、貰っちまえよ」
随分と卑屈な考え方をしてはいるが、ルークの機嫌取りなら慣れている。
どう言えば喜ぶか、俺を信頼して愛して、離れられなくなるか。
今はただ優しく諭すように、笑ってやればいい。
「ありがとう、ガイ」
「へっ?」
思わず、間の抜けた声を上げてしまった。
苛立ちも虚しさも何もかも、一気に頭から掻き消される。
ルークが、礼を言った。
いつも「されて当然」な態度で、決して感謝などしなかったルークが。
こんな風に、本気で感謝を伝えてくるなんて。
有り得ない。
「彼、変わるんですって」
どこか呆れたような声音で、ようやくティアが口を開いた。
目を合わせれば、軽く肩をすくめて笑う。
「アクゼリュスで起きた事はどうにも出来ないけど…俺、このままじゃダメなんだ」
その目は真剣だった。
人を殺してでも戦うと、決心したあの時よりも。
ルークの中に起きた変化。
昔の我が儘な自分と、決別しようとしている。
髪を切ったのは、気持ちの現れ。
知らない内に、旅が始まってから少しずつ、ルークが違う人間になっていく。
俺が知っているのは、殺しても苦しまずに済むような子供。
何でも俺を頼って、思った通りに動く愚かなレプリカ。
だから、利用する為なら、嘘でも「愛してる」と言ってやれた。
その愚かさなら愛してやれたし、裏切る気もあった。
変わってしまうルークを、
俺は愛せる?
「……そうか」
いつものような一言が、上手く出てこなかった。
ただ頭を撫でて、笑ってやる。
頑張ろうな、とかその後は何を言ったか、よく覚えていない。
そのくらい、俺を襲ったショックは大きかった。
変わってしまうレプリカルーク。
愚かさを失ったおまえを、きっと俺は愛せない。
-END-
………………………
アラミス湧水洞にて。
髪を切ったルークと、すげぇショックなガイ様。
ガイはずっと、ルークが自己中で愚かだったから、自分の中の復讐心を忘れずにいられたなら良いです。
だからルークが変わって、殺す事を戸惑うのが怖い。
そんな話…に、したかったんだ!!
なんか違った。
この話は六神将ガイで、ガイ様がほんのり黒いです。
CPは一応ガイルクですが、あまりガイルクに見えない(…)
ガイは「ホド崩落の真実を自ら突き止めるまで、ルークと共に行く」とヴァンと約束し、和平調停後に寝返ります。
寝返り前。
アラミス湧水洞で、ガイと髪を切ったルークの再会。
ガイ視点。
昔のままだったら、
きっと
愛しても
殺してもやれたのに。
革命は民衆を置き去りに進む
夕焼けのように鮮やかに、緋から橙へと色変わりしていく長い髪。
幼い頃から毎日、絡まないよう、痛まないよう、俺が大切に手入れしてきた髪。
それをあいつは、切り落とした。
俺の知らない所で。
うなじに掛る程度の長さになった毛先を、擽ったそうに指で払う。
緋色だけに染まってしまった色。
恥ずかしそうに俯く様が、無性に気に触る。
「髪、切ったんだな」
一瞬驚きから言葉を失い、互いの間に流れてしまった沈黙を、無理矢理破った。
些細な変化さえ気取られないように、出来るだけ平静を装う。
震えそうになる声を押さえ、長年の生活で染み付いてしまった、人の良さそうな笑みを浮かべてみせた。
「いいんじゃないか。
さっぱりしてさ」
ルークが少しだけ、はにかむように笑う。
自分の些細な変化を、認められた事が嬉しいのだろう。
本当は、口にした事など思ってもいないが。
ゆっくりと歩を進め、ルークの前に立つ。
その頭を乱暴に撫でるが、昔のように指先に絡む感触は無い。
掴む前に、するりと逃げるように滑り落ちていく髪。
意味もなく、淋しいと感じる自分が不思議だった。
絡めても絡めても、指にまとわりついた橙の色はもう無い。
唯一“レプリカルーク”の中で愛せた、緋色の髪。
それをルークは知らない内に、俺に断りもなく捨ててしまった。
許せないという苛立ちと共に、沸き上がる虚しさ。
勝手に髪を切った事への苛立ち。
ずっと何をするにも最後には俺を頼ったルークが、自分一人で何かを決めてしまった、離れていくような虚しさ。
後者は、認めたくなかった。
「……ガイ、」
控え目に袖を掴まれる。
伏せた、不安げな表情。
そんな仕草は、七年間ずっと傍で相手をしてきて、一度も見た事が無い。
ルークは、こんな顔をするような人間だっただろうか。
もっと自分本意で、後悔や罪悪感なんて感じない、我が儘な箱入り息子ではなかっただろうか。
「その……俺、アッシュのレプリカだって………だから、」
こんな歯切れの悪い言い方をするルーク、知らない。
髪型だけじゃない。
もっと根本的な何かが、ルークの中で変化してきている。
背中を伝った冷や汗に、気付かない振りをした。
親友の顔で笑って、その肩を軽い調子で叩いてやった。
「確かにおまえはアッシュのレプリカかもしれないけど、俺にとって“ルーク”はおまえだけだよ」
慣れてしまった口唇で、また嘘を塗り重ねる。
「――――俺にとっての本物は、おまえだけだ」
本物、なんて思ってない。
レプリカは所詮レプリカ。
無惨な劣化品。
ただ変わらない物があるとするのなら、それはおまえが殺したい仇の子である事。
そんな本音を、全部、嘘の裏側に押し込める。
「だけど俺は本当は居ちゃいけない人間で、名前だって………俺の名前じゃないし」
「別にいいじゃないか。アッシュはその名前で呼ばれるのを嫌がってたし。
名前ぐらい、貰っちまえよ」
随分と卑屈な考え方をしてはいるが、ルークの機嫌取りなら慣れている。
どう言えば喜ぶか、俺を信頼して愛して、離れられなくなるか。
今はただ優しく諭すように、笑ってやればいい。
「ありがとう、ガイ」
「へっ?」
思わず、間の抜けた声を上げてしまった。
苛立ちも虚しさも何もかも、一気に頭から掻き消される。
ルークが、礼を言った。
いつも「されて当然」な態度で、決して感謝などしなかったルークが。
こんな風に、本気で感謝を伝えてくるなんて。
有り得ない。
「彼、変わるんですって」
どこか呆れたような声音で、ようやくティアが口を開いた。
目を合わせれば、軽く肩をすくめて笑う。
「アクゼリュスで起きた事はどうにも出来ないけど…俺、このままじゃダメなんだ」
その目は真剣だった。
人を殺してでも戦うと、決心したあの時よりも。
ルークの中に起きた変化。
昔の我が儘な自分と、決別しようとしている。
髪を切ったのは、気持ちの現れ。
知らない内に、旅が始まってから少しずつ、ルークが違う人間になっていく。
俺が知っているのは、殺しても苦しまずに済むような子供。
何でも俺を頼って、思った通りに動く愚かなレプリカ。
だから、利用する為なら、嘘でも「愛してる」と言ってやれた。
その愚かさなら愛してやれたし、裏切る気もあった。
変わってしまうルークを、
俺は愛せる?
「……そうか」
いつものような一言が、上手く出てこなかった。
ただ頭を撫でて、笑ってやる。
頑張ろうな、とかその後は何を言ったか、よく覚えていない。
そのくらい、俺を襲ったショックは大きかった。
変わってしまうレプリカルーク。
愚かさを失ったおまえを、きっと俺は愛せない。
-END-
………………………
アラミス湧水洞にて。
髪を切ったルークと、すげぇショックなガイ様。
ガイはずっと、ルークが自己中で愚かだったから、自分の中の復讐心を忘れずにいられたなら良いです。
だからルークが変わって、殺す事を戸惑うのが怖い。
そんな話…に、したかったんだ!!
なんか違った。
六神将ガイ没②
【注】
この話は六神将ガイで、ガイ様がほんのり黒いです。
CPは一応ガイルクですが、あまりガイルクに見えない(…)
ガイは「ホド崩落の真実を自ら突き止めるまで、ルークと共に行く」とヴァンと約束し、和平調停後に寝返ります。
幼い頃のガイとルーク。
ほんのり黒ガイ。
ルーク視点。
『独りで逝くのは寂しいだろう』
あの時、ガイは―――
絡む指と、金糸雀の啼く
過去の夢に、目を覚ます。
視界に飛び込んでくるのは、先程まで見ていた見慣れた屋敷の自室では無く、白い宿の天井。
布団を押し退けるように半身を起こすと、荒い息も整えないまま、周囲を見回した。
薄暗い部屋の中で見えるのは、片隅に置かれた荷物、剣。
ミュウはティアに預けてある。
誰も居ない、二人部屋の片方のベッドを見て、全身の力が抜けた。
丁寧に敷かれたシーツは、皺一つ寄らず、使用された痕跡は無い。
当たり前だ。
同室の人間は帰って来なかったのでは無く、はじめから居ない。
二人部屋に昨晩、泊まったのは俺一人。
ジェイドとイオンは別室だ。
床に裸足の足を乗せれば、ひんやりとした冷たさが伝わる。
ベッドの端に腰掛け直し、膝の上で指を組む。
ようやく朝焼けが差し込み始めた中で、澄んだ空気に身を切るような感覚を感じながら、無人のベッドを見つめた。
「……有り得ないよ、な」
白くなるほど、指を強く握る。
唇を噛み締め、諦めきれない自分の愚かさに泣きたくなるのを堪えた。
同室だった相手は、帰らない。
俺を捨てて―――いや、最初から愛されてなどいなかった。
利用するだけされた、そんな言い方はしたくないけれど。
ガイはもう帰らない。
それでも、もしかしたらあれは全部夢で、また昔のように笑ってくれるのではないかと、期待してしまう。
宿に行く度に二人部屋に泊まっては、朝になったら何もかもが元に戻っていて、同じように隣に居てくれる事を願ってしまう。
裏切られた事を、まだ俺は理解しきれていない。
ガイ。
ホドの復讐を果たす為、ヴァン師匠の元へ行ってしまった、使用人で親友で、それ以上の存在。
もう目の前から姿を消して、一ヶ月が経つ。
毎日、ガイの事を考えては、同じ自問自答を繰り返し、自己嫌悪した。
六神将入りし、自分の元に居なくなってから、俺はあいつの些細な言動の理由に気付いた。
「復讐するまで死ねない」と言った冗談も、時折俺を見ていた冷たい目も、ホールに掲げられた剣を見つめる泣きそうな顔も、ガイが発していた大事な信号だった。
俺は気付けなかった。
自分が許せず、納得のいく答えも出せず、眠れない夜を何度も繰り返す。
たまに眠れても、ガイとの過去の夢を見ては、追い立てられるように目覚めた。
それは今日も同じ。
汗ばんだ掌で、口元を覆う。
さっきまで鮮明に見ていた、ずっと昔の記憶を呼び起こす夢が頭から離れない。
あれだって、あの時だって、ガイは確かに信号を発していたのに。
もしかしたら心の奥底で、憎しみを叫んでいたかもしれないのに。
俺は気付けなかった。
カナリアを殺した、あの時も。
屋敷の中での生活は退屈でしょうと、13歳の誕生日に母上がくれたのは、二羽のカナリアだった。
あの頃の俺は誕生日なんて物の意味をよく理解していなかったし、屋敷から出られない以上、どんな日だって変わり映えの無い日常に過ぎなかった。
欲しいものなんて誕生日でなくても、望めばいくらでも与えられ、誕生日プレゼントに喜びさえ感じない。
しかしこの時与えられたカナリアに、俺は少なからず心を動かされた。
図鑑以外で初めて見た、本物の生きた鳥。
狭いケージの中を飛び回る様に、目を奪われた。
くりくりと首を傾げるような仕草が、面白くて堪らない。
昼の太陽のような鮮やかな黄と、夜の月のような薄い金の羽根をした二羽のカナリア。
片方の金の羽根はガイの髪色によく似ていて、幼心に嬉しくなったのを覚えている。
「良かったな、ルーク」
嬉しそうな俺の様子に、ガイは微笑みながら頭を撫でてくれた。
大事にしような、と付け加えて。
部屋の中にケージが下げられる。
俺は大切に、大切に、カナリアの世話をした。
金の鳥は呼べば手に乗るほど、よく懐いてくれた。
しかし黄の鳥は、決して近寄ろうとはせず、俺の手を時折噛む事もしばしば。
なのに金の鳥には、まるで大切な相手のように顔を擦り寄せる。
子供は自分に懐く方を可愛がる。
俺も当然、金の鳥ばかりを構い、可愛がった。
そうして半年が過ぎた頃。
ある朝、金の鳥はケージの底に、冷たく横たわっていた。
異変に気付いた俺は、すぐにケージに駆け寄った。
揺すったり叩いたりしてみるが、鳥はぴくりともせず、振動に合わせて揺れるばかり。
慌てて隙間から指を突っ込んで触れれば、あまりに冷えた体に、思わず肩が跳ねた。
昨日までは、熱いくらいの体温をしていたのに。
黄の鳥が、動かない金の鳥を見つめたまま、喉を鳴らす。
いつもと変わらない顔をして、亡骸に寄り添い、決して離れようとしない。
まるでその死を、悼むように。
黄の鳥が嫌いだった俺は、悲しいのはおまえじゃないと、大声で泣きじゃくった。
溢れる涙を拭いもせず、みっともなく声を上げる。
「どうした、ルーク!?」
泣き声に慌てて部屋に飛び込んできたガイは、手にしていた着替えを椅子に放り投げると、俺に駆け寄ってきた。
その体に腕を回し、混乱した頭でよく分からない事を叫びながら、胸に顔を埋める。
服が汚れるのも気に止めず、ガイは辛抱強く「何があった?」と優しく俺の髪を撫でた。
必死に嗚咽混じりの声で説明をしながら、ケージを指差す。
鳥が死んでしまった事、黄の鳥の平然とした姿が許せない事。
ガイは全てを飲み込むと、落ち着いてきた俺を体から離し、ケージに近付いた。
中におもむろに手が入れられ、黄の鳥の体を掴む。
慌てて鳴き叫ぶ鳥を左手で握り、そっと右手が、その頭に沿えられた。
不意に見えた、ガイの静かな横顔に、嫌な予感が走る。
いつもの穏やかさなど無い、静かな眼差し。
瞬間、パキリとまるで小さな小枝が折れるような音と、小さな鳥の悲鳴が聞こえた。
掌の中で、首を不自然に傾げ、動かなくなった黄色の体。
ガイはそっと、それをケージに横たわる金の隣に並べた。
寄り添い、冷えていく二羽。
昨日まで生きていたそれは、もう動く事も鳴く事も飛び回る事も無い。
初めて現実に見た何かの死に、俺は怯えた。
上手く言葉も出ないまま、一歩下がれば、ガイが振り返る。
先程まで俺をあやしてくれた相手と同一人物と思えない、淡々とした表情。
まるで感情の無い目。
「ど、して……」
見た事の無い使用人の姿に、そう声を絞り出すのが精一杯だった。
「―――だって、」
ガイが首を傾げる。
それは先程、黄の鳥がしていた仕草に似て見えた。
「独りで逝くのは、寂しいだろ」
夢の光景は、今でもはっきりと思い出せる。
ガイの目も、鳥の冷たさも、理解出来なかった感情も。
きっとあれは、恐怖だったんだと思う。
まるで子供が純粋に正しいと信じて行動する時に、漠然と感じる怯え。
今なら分かる。
ガイは金の鳥が独りで逝く事を、可哀想だと思ったんだ。
だから独りにならないよう、金の鳥の為に、もう一羽も殺した。
あれは、ガイが発した信号。
無意識に一人きりの死に怯える、ガイの悲鳴。
幼かった俺は気付けなかった。
今になって、こんなに遠く離れてから、気付くなんて。
「ガイ―――…、」
誰も居ない空間に、呼び慣れた名前を呟く。
一人きりの部屋にあの金髪を探して、また視線を彷徨わせた。
居る筈も無いのに。
「一人に、すんなよっ…!!」
一人になる寂しさに、ガイ自身が怯えていた。
復讐を果たしても、一人で逝くだろう未来に。
あの目が、俺に助けを求めていたのだと思うのは、自信過剰だろうか。
「なぁ!ガイ!!
一人にすんなよ!
俺は……俺だって、ガイを一人にしないから!!」
返事がある筈が無い。
潤んでしまった目を掌で覆い、暗闇にあの金髪を思い描く。
一人なんてしない。
出来る限り傍に居てやる。
それでも憎くて、殺したいなら、拒んだりしない。
「帰って来いよ…!!」
おまえが望むなら、俺が一緒に、逝ってやるから。
どんなに叫んでも、返事は無い。
-END-
………………………
ガイとルークの過去でした。
ガイ様は18歳…なのかな。
子供の純粋な残酷さを持ち合わせて、六神将ガイは成長してしてたらな~…と思いながら書きました。
あと他人の死が理解出来ない。
後の話で、ガイの一言が影響してくる筈でした。
ガイルク共倒れED用だから(…)
この話は六神将ガイで、ガイ様がほんのり黒いです。
CPは一応ガイルクですが、あまりガイルクに見えない(…)
ガイは「ホド崩落の真実を自ら突き止めるまで、ルークと共に行く」とヴァンと約束し、和平調停後に寝返ります。
幼い頃のガイとルーク。
ほんのり黒ガイ。
ルーク視点。
『独りで逝くのは寂しいだろう』
あの時、ガイは―――
絡む指と、金糸雀の啼く
過去の夢に、目を覚ます。
視界に飛び込んでくるのは、先程まで見ていた見慣れた屋敷の自室では無く、白い宿の天井。
布団を押し退けるように半身を起こすと、荒い息も整えないまま、周囲を見回した。
薄暗い部屋の中で見えるのは、片隅に置かれた荷物、剣。
ミュウはティアに預けてある。
誰も居ない、二人部屋の片方のベッドを見て、全身の力が抜けた。
丁寧に敷かれたシーツは、皺一つ寄らず、使用された痕跡は無い。
当たり前だ。
同室の人間は帰って来なかったのでは無く、はじめから居ない。
二人部屋に昨晩、泊まったのは俺一人。
ジェイドとイオンは別室だ。
床に裸足の足を乗せれば、ひんやりとした冷たさが伝わる。
ベッドの端に腰掛け直し、膝の上で指を組む。
ようやく朝焼けが差し込み始めた中で、澄んだ空気に身を切るような感覚を感じながら、無人のベッドを見つめた。
「……有り得ないよ、な」
白くなるほど、指を強く握る。
唇を噛み締め、諦めきれない自分の愚かさに泣きたくなるのを堪えた。
同室だった相手は、帰らない。
俺を捨てて―――いや、最初から愛されてなどいなかった。
利用するだけされた、そんな言い方はしたくないけれど。
ガイはもう帰らない。
それでも、もしかしたらあれは全部夢で、また昔のように笑ってくれるのではないかと、期待してしまう。
宿に行く度に二人部屋に泊まっては、朝になったら何もかもが元に戻っていて、同じように隣に居てくれる事を願ってしまう。
裏切られた事を、まだ俺は理解しきれていない。
ガイ。
ホドの復讐を果たす為、ヴァン師匠の元へ行ってしまった、使用人で親友で、それ以上の存在。
もう目の前から姿を消して、一ヶ月が経つ。
毎日、ガイの事を考えては、同じ自問自答を繰り返し、自己嫌悪した。
六神将入りし、自分の元に居なくなってから、俺はあいつの些細な言動の理由に気付いた。
「復讐するまで死ねない」と言った冗談も、時折俺を見ていた冷たい目も、ホールに掲げられた剣を見つめる泣きそうな顔も、ガイが発していた大事な信号だった。
俺は気付けなかった。
自分が許せず、納得のいく答えも出せず、眠れない夜を何度も繰り返す。
たまに眠れても、ガイとの過去の夢を見ては、追い立てられるように目覚めた。
それは今日も同じ。
汗ばんだ掌で、口元を覆う。
さっきまで鮮明に見ていた、ずっと昔の記憶を呼び起こす夢が頭から離れない。
あれだって、あの時だって、ガイは確かに信号を発していたのに。
もしかしたら心の奥底で、憎しみを叫んでいたかもしれないのに。
俺は気付けなかった。
カナリアを殺した、あの時も。
屋敷の中での生活は退屈でしょうと、13歳の誕生日に母上がくれたのは、二羽のカナリアだった。
あの頃の俺は誕生日なんて物の意味をよく理解していなかったし、屋敷から出られない以上、どんな日だって変わり映えの無い日常に過ぎなかった。
欲しいものなんて誕生日でなくても、望めばいくらでも与えられ、誕生日プレゼントに喜びさえ感じない。
しかしこの時与えられたカナリアに、俺は少なからず心を動かされた。
図鑑以外で初めて見た、本物の生きた鳥。
狭いケージの中を飛び回る様に、目を奪われた。
くりくりと首を傾げるような仕草が、面白くて堪らない。
昼の太陽のような鮮やかな黄と、夜の月のような薄い金の羽根をした二羽のカナリア。
片方の金の羽根はガイの髪色によく似ていて、幼心に嬉しくなったのを覚えている。
「良かったな、ルーク」
嬉しそうな俺の様子に、ガイは微笑みながら頭を撫でてくれた。
大事にしような、と付け加えて。
部屋の中にケージが下げられる。
俺は大切に、大切に、カナリアの世話をした。
金の鳥は呼べば手に乗るほど、よく懐いてくれた。
しかし黄の鳥は、決して近寄ろうとはせず、俺の手を時折噛む事もしばしば。
なのに金の鳥には、まるで大切な相手のように顔を擦り寄せる。
子供は自分に懐く方を可愛がる。
俺も当然、金の鳥ばかりを構い、可愛がった。
そうして半年が過ぎた頃。
ある朝、金の鳥はケージの底に、冷たく横たわっていた。
異変に気付いた俺は、すぐにケージに駆け寄った。
揺すったり叩いたりしてみるが、鳥はぴくりともせず、振動に合わせて揺れるばかり。
慌てて隙間から指を突っ込んで触れれば、あまりに冷えた体に、思わず肩が跳ねた。
昨日までは、熱いくらいの体温をしていたのに。
黄の鳥が、動かない金の鳥を見つめたまま、喉を鳴らす。
いつもと変わらない顔をして、亡骸に寄り添い、決して離れようとしない。
まるでその死を、悼むように。
黄の鳥が嫌いだった俺は、悲しいのはおまえじゃないと、大声で泣きじゃくった。
溢れる涙を拭いもせず、みっともなく声を上げる。
「どうした、ルーク!?」
泣き声に慌てて部屋に飛び込んできたガイは、手にしていた着替えを椅子に放り投げると、俺に駆け寄ってきた。
その体に腕を回し、混乱した頭でよく分からない事を叫びながら、胸に顔を埋める。
服が汚れるのも気に止めず、ガイは辛抱強く「何があった?」と優しく俺の髪を撫でた。
必死に嗚咽混じりの声で説明をしながら、ケージを指差す。
鳥が死んでしまった事、黄の鳥の平然とした姿が許せない事。
ガイは全てを飲み込むと、落ち着いてきた俺を体から離し、ケージに近付いた。
中におもむろに手が入れられ、黄の鳥の体を掴む。
慌てて鳴き叫ぶ鳥を左手で握り、そっと右手が、その頭に沿えられた。
不意に見えた、ガイの静かな横顔に、嫌な予感が走る。
いつもの穏やかさなど無い、静かな眼差し。
瞬間、パキリとまるで小さな小枝が折れるような音と、小さな鳥の悲鳴が聞こえた。
掌の中で、首を不自然に傾げ、動かなくなった黄色の体。
ガイはそっと、それをケージに横たわる金の隣に並べた。
寄り添い、冷えていく二羽。
昨日まで生きていたそれは、もう動く事も鳴く事も飛び回る事も無い。
初めて現実に見た何かの死に、俺は怯えた。
上手く言葉も出ないまま、一歩下がれば、ガイが振り返る。
先程まで俺をあやしてくれた相手と同一人物と思えない、淡々とした表情。
まるで感情の無い目。
「ど、して……」
見た事の無い使用人の姿に、そう声を絞り出すのが精一杯だった。
「―――だって、」
ガイが首を傾げる。
それは先程、黄の鳥がしていた仕草に似て見えた。
「独りで逝くのは、寂しいだろ」
夢の光景は、今でもはっきりと思い出せる。
ガイの目も、鳥の冷たさも、理解出来なかった感情も。
きっとあれは、恐怖だったんだと思う。
まるで子供が純粋に正しいと信じて行動する時に、漠然と感じる怯え。
今なら分かる。
ガイは金の鳥が独りで逝く事を、可哀想だと思ったんだ。
だから独りにならないよう、金の鳥の為に、もう一羽も殺した。
あれは、ガイが発した信号。
無意識に一人きりの死に怯える、ガイの悲鳴。
幼かった俺は気付けなかった。
今になって、こんなに遠く離れてから、気付くなんて。
「ガイ―――…、」
誰も居ない空間に、呼び慣れた名前を呟く。
一人きりの部屋にあの金髪を探して、また視線を彷徨わせた。
居る筈も無いのに。
「一人に、すんなよっ…!!」
一人になる寂しさに、ガイ自身が怯えていた。
復讐を果たしても、一人で逝くだろう未来に。
あの目が、俺に助けを求めていたのだと思うのは、自信過剰だろうか。
「なぁ!ガイ!!
一人にすんなよ!
俺は……俺だって、ガイを一人にしないから!!」
返事がある筈が無い。
潤んでしまった目を掌で覆い、暗闇にあの金髪を思い描く。
一人なんてしない。
出来る限り傍に居てやる。
それでも憎くて、殺したいなら、拒んだりしない。
「帰って来いよ…!!」
おまえが望むなら、俺が一緒に、逝ってやるから。
どんなに叫んでも、返事は無い。
-END-
………………………
ガイとルークの過去でした。
ガイ様は18歳…なのかな。
子供の純粋な残酷さを持ち合わせて、六神将ガイは成長してしてたらな~…と思いながら書きました。
あと他人の死が理解出来ない。
後の話で、ガイの一言が影響してくる筈でした。
ガイルク共倒れED用だから(…)
六神将ガイ没①
【注】
この話は六神将ガイで、ガイ様がほんのり黒いです。
CPは一応ガイルクですが、あまりガイルクに見えない(…)
ガイは「ホド崩落の真実を自ら突き止めるまで、ルークと共に行く」とヴァンと約束し、和平調停後に寝返ります。
寝返り直後。
フェレス諸島でのガイとヴァン。
ガイ視点。
取り戻せる物があるなら。
あの日の家族も故郷も空も海も、
幸せも、
取り戻せるのなら、
ただ、取り戻したい。
黒に堕ちる金
降り立ったのは、見覚えのある街並みの中だった。
画一的に並ぶ屋敷通り。
しかし完璧な直線美と、兼ね備えた荘厳とした立たず舞いが、一瞬息を飲む様な美しさを造り出す。
17年前、初めてこの地を訪れた時も、子供ながら、この雰囲気に圧迫されるような感覚に陥った事を覚えている。
その時と何一つ変わらない光景。
フェレス島。
ホド諸島を形作る島の内の一つであり、同じく父上の領地であった島。
幼い頃何度か訪れた際、ヴァンやペールを連れて歩き回った事がある。
興味のある物を見付けても、怯えが勝り、誰かの後ろから隠れるように見ていた四歳の自分。
まだブウサギさえ触れられず、ヴァンに無理矢理引っ張られるようにして、ようやく撫でられた。
ペールは隣で微笑みながらそれを見守っていて、側にある領事館の前からは、俺を呼ぶ姉上の声が聴こえた。
幸せだった記憶。
ホドが落ちる、一ヶ月ほど前の事だったと思う。
それから大した時間も置かず、フェレス島は崩落によって起きた津波に飲まれ、海底に沈んだ。
ホドから逃げてきた住民達も大勢居たが、他に逃げる間も無く、水に飲まれたのだと言う。
あれからもう、16年も経つ。
本来なら今、ここにフェレス島が存在している筈の無い。
だが確かに今、ここに過去の姿のまま存在している。
数年前、ヴァン達によって生み出された、レプリカとして。
記憶の中そのままの姿に、感嘆にも似た溜め息を漏らした。
「分かってたつもりだけど、レプリカってのは本当にオリジナルと同じなんだな」
見覚えのある建物に目を奪われたまま、率直な感想を述べる。
斜め前を歩いていたヴァンが、足を止めて振り返った。
ルークによく向けていた、子供を見守るような笑みを浮かべる表情が、視界の端に映る。
「人間の完全同位体を作るより、簡単だがな。音素振動数さえ気にしなければ、この程度の島、容易く作れる」
ふうん、とさして興味の無い説明を流し、また辺りを見回す。
レプリカの姿形が全く同じになる事は、ルークとアッシュの例からよく分かっている。
ただいくら規模が小さかったといえ、島のレプリカを作成しても、寸分違わない事に驚いたのだ。
しかもこれが、キムラスカにもマルクトにも発見されず、何年も海の上を漂っていたとは。
確かにキムラスカやマルクトを敵に回す事を考えると、レプリカ作成の本拠地を両国内に置いておく訳にはいかないだろうが。
こんな島まで作るとは、つくづく彼らもよくやる思う。
「行くぞ、ガイラルディア」
声に促され、ヴァンの斜め後ろについて、街の中を歩き始めた。
会話らしい会話は無く、過去の思い出に浸るような感傷も無い。
かつてあった、幼なじみ同士の気安さなど、もう忘れてしまっている。
ただ二人分の足音だけが、石畳に規則正しく響く。
無意識に上げた手が、自分の首筋に巻き付くチョーカーのプレートに触れた。
人指し指で表の滑らかな輪郭、親指で裏に彫られた文字をなぞり、そっと握り締める。
そうすると、自分の中のざわついていく感情が、落ち着くような気がする。
この技術さえあればホドを、姉上や父上や母上を、復活させられるのではないだろうかと言う期待に身震いがした。
自分の中にあった不安が、過去の思い出を目の当たりにした事で、少しずつ薄らいでいく。
「……ガイラルディア」
「何だ」
再び、足を止める。
次に振り返った顔は、酷く冷めていて、まるで見定めるように俺を睨んでいた。
「こちらに一度ついた以上、私は裏切りを許さない。
貴公がもし、またあのレプリカの元に戻る事があれば―――」
低い、威圧するような声。
ホドが落ちる前は、ヴァンはこんな険しさは持っていなかった。
いつから、こんなに残酷な顔をするように変わったのだろう。
自分も、疑われるほど、変わってしまっただろうか。
冷えた目を正面から見据え、呆れたように肩をすくめてみせた。
「俺の憎しみは、あんたが一番知っている筈だろう?
ヴァンデスデルカ」
目の前に立つのは、かつて姉上と訪れた領事館。
今はまだ、あの俺を呼ぶ優しい声は聴こえない。
だが、いつか、きっと。
「預言もキムラスカもマルクトも全て、滅べばいい」
「……そうでしたな」
ヴァンが背中を向け、領事館のドアを開く。
そこをくぐれば、もう戻れなくなるだろう。
それでも、マルクトもキムラスカも――――ルークも、捨ててしまって構わない。
はじめからそんな物、望んでいなかったのだから。
ただ全てに終止符を打ち、あの時間を取り戻す。
欲しいものはそれだけ。
その為なら、何を犠牲にしても。
-END-
………………………
ガイ様裏切りの始まり。
この後に六神将と対面を果たしたガイ様は、ものすっごい嫌そうな顔で向かえ入れられます。
この話は六神将ガイで、ガイ様がほんのり黒いです。
CPは一応ガイルクですが、あまりガイルクに見えない(…)
ガイは「ホド崩落の真実を自ら突き止めるまで、ルークと共に行く」とヴァンと約束し、和平調停後に寝返ります。
寝返り直後。
フェレス諸島でのガイとヴァン。
ガイ視点。
取り戻せる物があるなら。
あの日の家族も故郷も空も海も、
幸せも、
取り戻せるのなら、
ただ、取り戻したい。
黒に堕ちる金
降り立ったのは、見覚えのある街並みの中だった。
画一的に並ぶ屋敷通り。
しかし完璧な直線美と、兼ね備えた荘厳とした立たず舞いが、一瞬息を飲む様な美しさを造り出す。
17年前、初めてこの地を訪れた時も、子供ながら、この雰囲気に圧迫されるような感覚に陥った事を覚えている。
その時と何一つ変わらない光景。
フェレス島。
ホド諸島を形作る島の内の一つであり、同じく父上の領地であった島。
幼い頃何度か訪れた際、ヴァンやペールを連れて歩き回った事がある。
興味のある物を見付けても、怯えが勝り、誰かの後ろから隠れるように見ていた四歳の自分。
まだブウサギさえ触れられず、ヴァンに無理矢理引っ張られるようにして、ようやく撫でられた。
ペールは隣で微笑みながらそれを見守っていて、側にある領事館の前からは、俺を呼ぶ姉上の声が聴こえた。
幸せだった記憶。
ホドが落ちる、一ヶ月ほど前の事だったと思う。
それから大した時間も置かず、フェレス島は崩落によって起きた津波に飲まれ、海底に沈んだ。
ホドから逃げてきた住民達も大勢居たが、他に逃げる間も無く、水に飲まれたのだと言う。
あれからもう、16年も経つ。
本来なら今、ここにフェレス島が存在している筈の無い。
だが確かに今、ここに過去の姿のまま存在している。
数年前、ヴァン達によって生み出された、レプリカとして。
記憶の中そのままの姿に、感嘆にも似た溜め息を漏らした。
「分かってたつもりだけど、レプリカってのは本当にオリジナルと同じなんだな」
見覚えのある建物に目を奪われたまま、率直な感想を述べる。
斜め前を歩いていたヴァンが、足を止めて振り返った。
ルークによく向けていた、子供を見守るような笑みを浮かべる表情が、視界の端に映る。
「人間の完全同位体を作るより、簡単だがな。音素振動数さえ気にしなければ、この程度の島、容易く作れる」
ふうん、とさして興味の無い説明を流し、また辺りを見回す。
レプリカの姿形が全く同じになる事は、ルークとアッシュの例からよく分かっている。
ただいくら規模が小さかったといえ、島のレプリカを作成しても、寸分違わない事に驚いたのだ。
しかもこれが、キムラスカにもマルクトにも発見されず、何年も海の上を漂っていたとは。
確かにキムラスカやマルクトを敵に回す事を考えると、レプリカ作成の本拠地を両国内に置いておく訳にはいかないだろうが。
こんな島まで作るとは、つくづく彼らもよくやる思う。
「行くぞ、ガイラルディア」
声に促され、ヴァンの斜め後ろについて、街の中を歩き始めた。
会話らしい会話は無く、過去の思い出に浸るような感傷も無い。
かつてあった、幼なじみ同士の気安さなど、もう忘れてしまっている。
ただ二人分の足音だけが、石畳に規則正しく響く。
無意識に上げた手が、自分の首筋に巻き付くチョーカーのプレートに触れた。
人指し指で表の滑らかな輪郭、親指で裏に彫られた文字をなぞり、そっと握り締める。
そうすると、自分の中のざわついていく感情が、落ち着くような気がする。
この技術さえあればホドを、姉上や父上や母上を、復活させられるのではないだろうかと言う期待に身震いがした。
自分の中にあった不安が、過去の思い出を目の当たりにした事で、少しずつ薄らいでいく。
「……ガイラルディア」
「何だ」
再び、足を止める。
次に振り返った顔は、酷く冷めていて、まるで見定めるように俺を睨んでいた。
「こちらに一度ついた以上、私は裏切りを許さない。
貴公がもし、またあのレプリカの元に戻る事があれば―――」
低い、威圧するような声。
ホドが落ちる前は、ヴァンはこんな険しさは持っていなかった。
いつから、こんなに残酷な顔をするように変わったのだろう。
自分も、疑われるほど、変わってしまっただろうか。
冷えた目を正面から見据え、呆れたように肩をすくめてみせた。
「俺の憎しみは、あんたが一番知っている筈だろう?
ヴァンデスデルカ」
目の前に立つのは、かつて姉上と訪れた領事館。
今はまだ、あの俺を呼ぶ優しい声は聴こえない。
だが、いつか、きっと。
「預言もキムラスカもマルクトも全て、滅べばいい」
「……そうでしたな」
ヴァンが背中を向け、領事館のドアを開く。
そこをくぐれば、もう戻れなくなるだろう。
それでも、マルクトもキムラスカも――――ルークも、捨ててしまって構わない。
はじめからそんな物、望んでいなかったのだから。
ただ全てに終止符を打ち、あの時間を取り戻す。
欲しいものはそれだけ。
その為なら、何を犠牲にしても。
-END-
………………………
ガイ様裏切りの始まり。
この後に六神将と対面を果たしたガイ様は、ものすっごい嫌そうな顔で向かえ入れられます。