風邪でダウン | くにこ先生のコーヒーブレイク

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通りすがりのあなたに、心に残るお話をひとつ

 ごほごほごほ、どうも調子が悪い様子。
 めったに病気をしたことのない主人が、絶え間なく咳をし始めた。

 「風邪ひいた、風邪。ごほごほごほ。」
 「大丈夫?」
 「うんにゃ。風邪やぁ。・・・ごほごほごほ。」
 「熱、あるみたい?」
 「さぁ。ごほ。」
 「測ってみます?」
 「うん。体温計ちょーだい。」
 「はいはい。」
 
 主人は、日頃、ほとんど病気と縁が無いので、何だか、大変なことが起こったような大騒ぎになってしまった。

 「ごほごほごほ。おーい。」

 台所で食事の支度をしている私にも聞こえるような大きな咳と声が聞こえてくる。
 水で濡れた手を拭いて、リビングに顔を出す。

 「なぁに。今度は?」
 「体温計、壊れてるみたい。新しいの買ってきてよ。」
 「えー、壊れた?」
 「ぴ、っていわなくなったし。」
 「そうかぁ。もう十何年も使ってるしねぇ。すぐ、いる? 明日でいい?」
 「うん、いいよ。」
 「そんな高い熱じゃない?」
 「多分・・・。」
 「風呂入る。」
 ・・・・・

 お風呂に入る元気はあるようだ。
 やっぱり、体温計は明日でいいかな。

 お風呂から上がった主人は、少々元気になったように見えた。

 「大丈夫なの?」
 「酒飲んで、寝る。」
 「うん。早く寝た方がいいよー。お酒は飲まないがいいんじゃないん?」
 「だいじょぶ、だいじょぶ。」

 こうして、彼はいつものようにビールの小さな缶と焼酎の水割りを飲んだのだった。


 ところが、夜遅くなると、相当辛そうな咳をする。
 息を吐くたびに「あ゛ー。」という声。

 「ねぇ、うるさいよー。」
 「うーん。あ゛ー。あ゛ー。・・・ごほごほごほ。」
 「ねむれなぁい。」
 「あははぁ。あ゛ー。唸ってたほうが楽だって。あ゛ー。・・ごほん。」
 「薬持ってこようか?」
 「うん。」

 日頃「薬なんて、だれが飲むか(絶対飲まない)。」と言い続ける主人がそういうとは、よっぽどきつかったのか。
 珍しいことだ。

 「ちょっとまってね。」
 「さんきゅ。あー、風邪かも。」(風邪だよ。)
 「明日、仕事は?」
 「休む。」
 「そ、か。」

 この日、一晩中、主人はうなっていた。
 おかげで、私はすっかり寝不足だ。


 朝になったら、少しは調子が良くなるかなぁと思っていたのだが、いかんせん、全く咳がとまらない。
 しかも、顔が紅潮して、熱が上がったようである。
 大丈夫かな。
 私は、仕事の帰りに体温計と熱冷まシートを買って帰った。

 「どお?」
 「8度9分。」
 「ちょっと高いねぇ。インフルエンザかもね。会社で流行ってるの?」
 「インフルエンザだらけだよ。」
 「病院、行く?」
 「行かん。」

 って、まったく。

 「昨日より、ひどい?」
 「うんにゃ。昨日のほうが熱、高かった。9度近くあったかも。」

 と主人は繰り返し言った。
 熱を測った途端、風邪はひどさを増したようだった。
 主人は、薬を飲み、熱冷まシートを額と首に貼り付け、布団にくるまって、うんうん唸っている。


 多分、2日間は高熱だったであろう主人は、3日目にやっと熱も引いたようだった。

 「あ゛ー、ひでー目にあった。」
 「大丈夫そう?」
 「もう、だいじょうぶ。」
 「よかったね。珍しかったよね。」
 「うん。9度超したし。」
 「結構、大変だったねぇ。」
 「んー。9度超したってか。何年ぶりだろ。」
 「大人の熱って、きついよねぇ。」
 「そーだよ。」
 ・・・・・・・

 何度も彼は、9度を越したのだ、と繰り返した。
 まぁ、それほど珍しく大変なことだったのだろうけれど。



 さて、案の定、次の日、今度は、私の具合が悪くなった。
 熱も一気に上がり、咳も止まらない。

 「きついよー。うつされちゃったぁ。」
 「寝てたら?」
 「うん。ごほごほごほ。あ゛ー。」

 あらら、主人の言ってた通り、唸ってたほうが楽なのね。

 それにしても、きついこと。
 寝込んだのは2日間だったが、食べる気も失せ、節々は痛み、すっかり「病人」になってしまったのである。
 熱も測ったが最後、「熱がある」というだけで気が滅入ってくる。
 どうも、私は暗示でも病気が重くなるらしい。
 おかげで、少々の減量には成功したが、ミノムシのように布団にくるまり動きも取れなかった。

 3日目の夜遅くになって、やっと布団からはい出した。
 ところが、めちゃくちゃお腹がすいちゃったのである。
 台所で棚を開けると、つい奥にあるストックのカップラーメンが目に付いた。

 「わ、つくっちゃおうっかなぁ。」と、バカな私。

 風邪ひいた後には重すぎるでしょ。
 真夜中だよ。
 なのに・・・。

 めったに食べないのに、時折無性に欲しくなるインスタントラーメン。
 私は、食欲に勝てずつい作ってしまったのであった。
 ところが、半分も食べないうちに、もう食べられない。

 「・・・美味しくないじゃん・・・。あー、もったいなぁい・・・。あー、ムリー・・・。」

 うーん、体調と味覚って意外と関係あるのかも。

 翌日は、風邪はかなり良くなったのだが、このつい口にしてしまった深夜のラーメンのおかげで、胃もたれが
 激しく、咳をするたびの吐き気に悩まされ続けたのであった。
 二度とラーメン食べない・・・ぞ・・・!?



 まったく、大変ひどい数日間であった。
 どうぞ、みなさん、風邪にはお気をつけて。