「あの雲、消して見せるね。」
「えー、どの雲?」
「あれあれ、高いところにある四角い形の雲あるでしょ。」
「うん。」
「見ててごらん。10で消すよー。」
「・・・」
「1、2、3、4、5、6、7、8、9、・・・10・・・ほらぁ!」
「すっごーい。」
「すっごーい。ママ、超能力使えんの?」
「そーだよー。すっごいでしょー。」
「ママ、マリックさんみたーい。」
子どもたちと道を歩きながら、雲を消して遊ぶ。
雲を指さして、両手でおまじないをかけながら数字をカウントする。
目を見開いた子どもたちは、私のかける魔法に驚嘆の声を上げるのである。
子どもたちの小さい頃は、この「雲消し」をよくやっていた。
これが意外と子どもたちには人気で、空を見上げると「雲を消して」と頼まれるのだった。
雲は、消せる雲と消せない雲とがある。
低く垂れこめた雲やぽっこりした積雲や入道雲などは、まず消せない。
消せるのは、いわゆる空高く浮かぶ上層雲の中のふわふわとした巻雲(絹雲)である。
巻雲は上空5000メートルから10000メートルを超すくらいの高いところに出来る雲だ。
わたあめの外側の消え入りそうな絹のような優しい雲である。
高い雲のそのまた高いところにあるこの巻雲を見つけたら、じっと眺めていると、小さい塊だと10秒そこらで、
溶けるように消えていくのである。
静かに浮かんでいるように見える雲も、実は激しく動いているのである。
だから、空の上では、空気の温度の上がり下がりで氷や水が消えたり見えたりする。
理屈でいえば簡単なのだけれど、実際空に浮かぶ雲を見ているととても不思議だ。
小さい頃、雲が動くのはもしかして地球が動くからなのかなぁと思っていたことがあった。
公園の芝生に寝っ転がって、じっと空を見る。
雲が流れるように移動していく。
これって、地面が動いているからなのかな。
だったら、なんて早く動くのだろう。
雲の動きを見ているうちにだんだん車に酔ったように気持ちが悪くなって、思わず目を閉じるのだった。
車の自動洗車機が前後に動く時、駅で列車が止まっている横を反対方向から違う列車が通り過ぎる時、
まるでこちらが動いているような錯覚に陥る。
それと同じことなのだけれど、そんな理屈は感覚の前に力を失ってしまう。
逆に、錯覚を楽しむのも嬉しい。
ただ残念ながら、地球はあまりに大きすぎて、動くのを感覚でとらえることはできないのである。
そういえば地球は西から東へ回るっていうのに、なぜか私は東から西へ動いていたっけ・・・。
雲が流れるのは、もちろん風のせいだ。
風速1メートルの風に乗る雲は、時速に直すと3.6キロメートルで進むのだが、上空の風はうんと速い。
日本の上空のジェット気流なんか、へたをすると80ノット(風速40メートル、時速だと144キロメートル)
にもなる。
台風なんて目じゃないくらいの風がビャンビャン吹いているのだ。
上空の流れるような雲は、とても優雅に見えるけれど、実際にはびっくりするくらいのスピードで移動して
いるのである。
まあ、こんなことを考えるより、のんびりとただ流れゆく雲を眺めている方が楽しいに決まっているか。
今日は、美しく空が晴れている。
アイスクリームのような丸い積雲の上に薄いベールをちぎったような巻雲。
じっと見つめながら、念を送る。
1、2、3、4、5、6、7、8、9、・・・10
・・・ほら、消えた。
以前、どこかのバラエティ番組で、どなたかがこの「雲を消す」超能力があるのだといって特賞50万円の
賞金を貰っていた。
子どもたちは、大騒ぎである。
「わー、ママだって出来たのにー。」
「ママも、雲消せるよねぇ。」
「ママ、テレビ、出ればよかったね。50万円もらえたよ。」
「あはは、そうだねー。出れば、よかったぁ。」
もうちょっと早く番組を知っていたら、超能力者になれたかも。