試薬入れ間違い事件が発展して、思いもしない方向へと研究は進んだ。
狙った生成物は全くできず、わけのわからない化合物が2つ出来た。
慎重にカラムをやり、分離・生成し、1H-NMRをとった。
その結果がまた想定外で、すぐには意味がわからなかった。
じっくりとスペクトルを分析して、考えられる構造式を書いて、悩むこと30分。
非常識だけど、これしかないという構造が見つかった。
以外な結果から、妥当と思われる反応機構も書き、そこから、原因を考える。
無水酢酸だ(笑)
しかも原因はグレードというよりも、無水酢酸の量だった。
研究室の友達が以前にかけた反応は、無水酢酸のジクロロメタンの溶液を普通の無水酢酸と勘違いして入れていたため、反応物の5倍量のつもりが、半分の量となっていたのである。
これが以外なことに、良い収率だった。
薬局実習が終わって引き継いだ僕は、ジクロロメタンの無水酢酸ではなく、グレードこそ悪いが普通の無水酢酸を使った。
これが引き金となった。
収率が悪かっただけではなく、モノが出来なかったのである。
さらに今回の反応、収率を更に良くしようと考え、超強酸の量を2倍にしたのだ。
結果、無水酢酸が以前の10倍、超強酸が2倍となり、とんでもない結果となった。
そして、このど素人じゃないとできないような馬鹿げた失敗の御陰で、面白い実験結果が得られ、方向性は違うが、一つの立派な実験結果と考察が生まれたのである。