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ないとめあです。

 

 最近、米国議会で通過した「GENIUS法案」。これは、米国債を裏付けにしてステーブルコインを発行することを合法化するという、金融制度にとって極めて重大な転換点です。
 表向きは「ドルのデジタル化」や「金融イノベーションの促進」といった美辞麗句が並びますが、制度設計の視点から見ると、これは通貨供給の二重化という、極めて危険な構造を生み出す可能性があります。

 

二重流動性の罠

 

 通常、政府が債券を発行すれば、民間の現金を吸収し、その資金を歳出に回すことで経済を刺激します。ところが今回の制度では、債券を購入したステーブルコイン発行者が、その債券を担保にしてドルと1対1で交換可能なステーブルコインを発行できるのです。

 つまり、政府は債券発行で現金を得て支出し、同じ債券を使って民間がステーブルコインを発行する。結果として、政府支出による現金 + ステーブルコインが市場に流通することになります。

 本来なら吸収されるはずの現金が吸収されず、むしろ複製される。これは、実質的にマネー供給が2倍になる構造です。

 

ステーブルコインは信用創造か?

 

 銀行は貸出によって預金を創造する「信用創造」の主体です。では、ステーブルコインはどうか?

 ステーブルコインは、裏付け資産(米国債)を保有することで発行され、決済手段として機能します。つまり、実体経済における購買力を生み出すという点では、銀行の信用創造に近い効果を持ちます。さらに、今後ステーブルコイン発行者が利回り提供や貸出機能を持ち始めれば、中央銀行の役割を代替する存在になりかねません。

 

インフレとドルの信認低下

 

 この構造が続けば、FRBの金融政策は迂回され、インフレ抑制の手段が効かなくなる可能性があります。短期国債の需要が高まり、金利が低下すれば、インフレ圧力はさらに強まる。

 そしてもう一つの懸念は、ドルの信認低下です。ステーブルコインがドルを模倣しながら、FRBの統制外で流通することで、ドルの独歩安が過度に進行する可能性も否定できません。

 

ドルは崩壊するのか?

 

 現時点では、ドルが完全に崩壊する可能性は低いでしょう。軍事力、経済規模、金融インフラという三位一体の支えがあるからです。

 しかし、制度的な信認は確実に揺らぎ始めています。ステーブルコインが「ドルの影武者」として機能するならば、通貨制度そのものの再設計が必要になるでしょう。

 

 ステーブルコインは、単なる技術革新ではなく、金融制度の根幹を揺るがす存在です。今こそ、デジタル通貨時代にふさわしい制度設計を再考すべき時です。

 

では、また。