S&P500指数が史上最高値を更新し、市場は一見活況を呈しているように見えます。その内実を詳しく見ていくと、この上昇がごく一部のメガテック企業によって牽引されており、それ以外の多くの企業はレンジ相場に留まっているという、いびつな構造が浮かび上がってきます。この状態は決して健全とは言えず、今年後半に景気後退や市場調整が起こった場合、S&P500が大幅に下落する可能性が高い考えられます。

 

メガテックへの極端な集中がS&P500の真の姿を覆い隠す

 

 S&P500は米国の主要500社で構成される株価指数であり、そのパフォーマンスは米国経済全体の健全性を測る指標として広く認識されています。近年、「マグニフィセント・セブン」と呼ばれるGAFAM(Google, Apple, Facebook [Meta], Amazon, Microsoft)にNVIDIAとTeslaを加えた7つの巨大テクノロジー企業が、指数の上昇を disproportionately に牽引してきました。

 S&P Dow Jones Indices のS&P 500から情報技術セクターを除外した「S&P 500 Ex-Information Technology」、さらに限定的に「S&P 500 Ex-Select Tech Top 10 Index (Custom)」といった指数を見ると、そのパフォーマンスはS&P500全体のパフォーマンスと比較して劣後していることが確認できます。例えば、2024年を通してみると、マグニフィセント・セブンがS&P500の全リターンの55%に直接貢献したとされています。

 

 これは何を意味するのでしょうか?

 

  S&P500が最高値を更新しているにもかかわらず、その恩恵を受けているのはごく少数の巨大企業に過ぎず、残りの約490社は横ばい、あるいは低調なパフォーマンスに甘んじているということです。市場の「広がり(Market Breadth)」が非常に狭い状態であり、これは市場全体の健全性を疑うべき重要なサインです。

 

過去の集中相場が示唆するもの

 

 このような市場の集中は、過去にも見られました。2000年のドットコムバブル崩壊前には、テクノロジーセクターがS&P500の約30%を占めていましたが、バブル崩壊後にはわずか12%までその比率を落としました。現在、情報技術セクターのS&P500におけるウェイトは、2024年12月時点で32.5%に達しており、これは20年ぶりの高水準です。

 過去の歴史が示すように、特定のセクターや銘柄に市場のパフォーマンスが極端に集中する時期は、その後の大きな調整や下落の前触れとなることがあります。マグニフィセント・セブンの高いバリュエーション(PERなど)も、投資家の楽観論によってさらに拡大しており、この乖離は今後、調整の引き金となる可能性があります。

 

迫りくる景気後退と市場調整のリスク

 

 現在、日本を含む世界経済において、景気後退や調整のリスクが指摘されています。The Conference Boardの日本の景気先行指数(LEI)は2025年5月にさらに低下しており、特に新規建設の減少やCPIインフレの上昇が実質マネーサプライを低下させていることが影響しています。

 歴史的に見ても、S&P500は景気後退期には大幅な下落を経験してきました。例えば、2007年から2009年の金融危機では、S&P500はピークから55%近く下落しました。また、2000年代初頭の景気後退時にもS&P500はピークから26%以上下落しています。現在の市場がメガテックの好調によって支えられているがゆえに、もし景気後退が現実のものとなれば、これらの高バリュエーションのメガテック企業から資金が引き上げられ、S&P500全体が急落する可能性は非常に高いと考えられます。特に、市場の広がりが狭い現状では、少数の牽引役が失速した場合に市場全体を支える力が弱いため、下落の勢いは増幅される可能性があります。

 

警戒すべきは「見せかけの最高値」

 

 S&P500が最高値を更新したというニュースは、一見するとポジティブな材料に映ります。しかし、その内実がごく一部のメガテック企業に支えられているという事実は、投資家にとって警戒すべき状況を示唆しています。市場の広がりが狭く、バリュエーションの高いメガテックが調整局面に入った場合、S&P500全体が大きく下落するリスクは十分に考えられます。

 今年後半に向けて、経済指標の動向、特に景気後退を示唆するシグナルには注意を払い、ポートフォリオのリスク管理を徹底することが賢明でしょう。見せかけの最高値に惑わされず、市場の真の姿を冷静に見極めることが、これからの投資戦略において重要となります。