日野駅から日野宿本陣に向かう道程に『ちばい』の案内板が新設されていました。
日野宿本陣の裏手に『佐藤彦五郎資料館』があります。佐藤彦五郎は日野宿を仕切り、新選組のスポンサーともいえるような人でした。土方歳三も彼には頭が上がらなかったのじゃないかと思っています。私もこちらには一度伺ったことがありますが、彦五郎の御子孫の福子さんと旦那様が展示資料について詳しく説明して下さり、福子さんの講演は行く機会に恵まれればぜひ行ってみたいと思いました。こちらでは資料館のリーフレットと合わせて、展示資料についての解説を書いたものも配布していらっしゃいましたが、こういったところにも細やかさを感じます。
『佐藤彦五郎資料館』を右手に見ながら直進すると、『手打そば』ののぼりが見えてきます。
『営業中』ののぼりを辿って路地に入ると、このような看板があります。大きな民家のお庭を通り、玄関のチャイムを押して一応御挨拶してから、中へ。
御品書き
盛り蕎麦 700円
とろろつゆ 800円
大根つゆ 800円
鴨つゆ(10月~3月) 950円
かけ蕎麦 750円
とろろつゆ 850円
鴨つゆ 950円
大盛りは100円増し。
かき揚げ 300円
蕎麦がき 500円
甘味(みつ豆、寒天寄せ、そばクレープなど) 250円
なま蕎麦 要予約 500円
日本酒一合 400円
グラスビール 350円
焼酎 水割り・ロック 200円
お湯割り 200円
蕎麦湯割り 200円
そばかっけ(ネギ味噌) 150円
玉子焼き 150円
しおから 150円
季節限定の盛り蕎麦 鴨つゆ 950円
かき揚げ 300円。こちらのかき揚げ、私は好きなので、今回も注文してしまいました。
この時期ならではの、温かい鴨汁につけていただきます。白っぽい細めのお蕎麦です。
お店の名前の由来となった『血梅』。この『ちばい』は日野と新選組について多くの著作を残されている郷土史家の故谷春雄氏のご子息、谷享司氏が営まれているお店です。
『新選組を語る①-血梅【ちばい】-
私の家の庭に、1本の紅梅が植えられている。20年ほど前、八王子市に住む友人、佐宗【さそう】文雄氏が、息子さんと運んで植えていってくれた梅である。
この紅梅は早春になると薄紅色の花を咲かせるが、花はガクが大きく、花びらの小さい原種に近いような花で、現在の華やかなものが多い紅梅に比べると、少し寂しいような花である。この梅の枝を切ると、中は血がにじんだように真っ赤なので、血梅という名で呼ばれているという。
佐宗氏の語るところによると、この血梅は、もと八王子千人町の千人頭石坂弥次右衛門の屋敷内に植えられていた梅で、日野宿北原に住んでいた千人同心井上松五郎は、この石坂弥次右衛門組の世話役を勤めていた。
文久一(1861)、二年のころの早春の一日、この石坂家を、井上松五郎の案内で近藤勇が訪れた。弥次右衛門も快く迎え入れ、種々談笑したが、近藤勇は庭に咲く血梅に目をとめて、慎ましく咲く様を激賞した。弥次右衛門も、「それほどお気に入りならば」と後日接木【つぎき】か取木【とりき】をして贈ることを約束した。
しかし、この約束は、文久三年近藤勇が浪士組に参加して上洛し、新選組局長として京都市中取締りに当たったが、激動する時代に抗しきれず、慶応4年(1868)4月25日、板橋刑場の露と消えたことにより果たされることはなかった。
一方、石坂弥次右衛門も、幕末期は多忙で、将軍上洛の先供【さきとも】、第一次・第二次長州征伐、甲州出張等席の温まる暇も無い程であった。慶応3年暮れから日光勤番を勤めていた千人頭萩原頼母【たのも】の病死により、急きょ後任として赴任した弥次右衛門は、着任早々日光に進攻した官軍に、無血で東照宮等日光を引き渡し、井上松五郎や、土方勇太郎等勤務していた同心を引き連れて閏【うるう】4月10日に帰郷した。
弥次右衛門が帰郷すると、千人同心内の抗戦派から、日光を戦わずして官軍に引き渡した責任を問う声が高まり、この声に弥次右衛門もたまらず、同日深夜に切腹した。
しかしこの時、剣術に熟達した長男は留守で、80歳になる父が介錯【かいしゃく】したが、老齢のために首が落とせず、弥次右衛門は、明け方までうめき苦しんで息を引きとったと伝えられる。
明治維新という激動の中に、その姿を没していった近藤勇、石坂弥次右衛門両士が愛し、また激賞したというこの血梅は、明治以後石坂家の新潟移住等で、行方がはっきりしなかったが、千人町の石坂家の隣家の庭にひっそり残っていた。しかし昭和20年の八王子空襲で黒焦げになってしまったが、やがて芽吹き、花を咲かせるようになった。この梅の接穂【つぎほ】を入手した友人の佐宗氏が何本か育て、その1本を、「谷君は新選組が好きだから」と進呈してくれたものである。
この血梅は、紅梅としては何となくつつましく、寂しいような花である。毎年この花の咲くころに、140年前、折角の約束を守れず、激動の時代に流されていった両士を偲【しの】んでいる。
筆者:日野市文化財保護審議会委員 谷春雄
原稿: 広報ひの平成15 年 10 月 01 日号より転載』
『蕎麦の文』の掛け軸もこの血梅が咲く頃に合わせて公開されます。この日はそちらも拝見することが出来ました。
『ちばい』
日野市日野本町2-16-26
TEL:090(1859)4351
定休日:月曜
営業時間:平日 11:30~14:00
土日 11:30~15:00