ブックレビュー箱庭特集⑰鈴木康広他『砂の癒し・イメージ表現の力』 ナカニシヤ出版,2021 | こころの臨床

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心理学は、学問的な支えも実践的身構えも、いずれも十全と言うにはほど遠い状況です。心理学の性格と限界を心に留めつつ、日本人が積み重ねてきた知恵を、新しい時代に活かせるよう皆さまとともに考えていきます。

今年3月初めの日本トランスパーソナル心理学/精神医学会大会(實川さんがハブられた、と思ったのでしたが、じつは、登壇依頼が来なかった時点で、ご当人が見切りをつけて退会届をだされていました…😹)で登壇された鈴木康広さん監修の本です。副題は、「トラウマ、発達障害、ADHDをもつクライエントとの箱庭療法」。

 

これは、3月の心楽弥生例会で報告しました(NL会員の皆様はオンデマンドコンテンツでご覧くださいね。結構トリビアな話題満載でした)ように、投薬なしでユング派分析治療を旨とする稀有な精神科医の方です。ご本人から受けるにゃんの臨床家アンテナのびびび感は、まあまあだったのですが、この著作の方は、すこしそれが減じられているように思いました。

 

先に生身の著者にお出会いしたがために、いくぶん期待しすぎたのかもしれません。

 

そういえば、言語化いや文章化しても、臨床的プチヌミノーゼ感が伝わってくる河合隼雄先生ぐらいしか、井戸の中ならぬダンボール箱の中のにゃんは出会ったことがなかった気がします。

 

2021年時点でサンドプレイの力を再認しようとの意欲を感じられる、現代の事例集です。

 

本著冒頭の「出版によせて」で、戸塚俤子さんが、「心理臨床に携わる専門家集団(学会と職能団体)は近年二つの方向に発展しつつあります。浅く広く現代社会のニーズにコミットし、社会の中に心理職をふやしていこうとする方向と、深層心理を安全に処遇できるための教育分析(サンドプレイではパーソナルプロセス)を着実に積み重ねようとする方向です。そのどちらも必要でしょう。後者は地下茎のように深く静かに浸透しつつあります。…[略]…(pp.ⅱ~ⅲ)」と書いておられます。ここりんは、後者に参画している…つもりなので、これが希望的観測でなけりゃ嬉しいなと思いました。