ブックレビュー箱庭特集⑮ 箱庭療法新たな発展に向けて『精神療法』+絵本 | こころの臨床

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心理学は、学問的な支えも実践的身構えも、いずれも十全と言うにはほど遠い状況です。心理学の性格と限界を心に留めつつ、日本人が積み重ねてきた知恵を、新しい時代に活かせるよう皆さまとともに考えていきます。

特集:箱庭療法新たな発展に向けて『精神療法 50-1』 2024年 金剛出版

 

え!?2024年初頭の今、よりにもよって「箱庭療法」の特集が組まれるとは、と驚きとともに、急ぎ注文した『精神療法』の最新号(本稿は、2024年3月中旬に予約投稿)...!!

 

 

特集のはじめの対談には、箱庭の歴史や概要を知る人にとってはほぼ目新しいものはなく、「今の時代に適した形でもう一度輝かせる」との意気込みを、いまは生生しい臨場感覚からは離れられている(失礼!)方々から旗を振られて、ありがたいやらなんとやら、と複雑な気持ちで受け止めました。

 

 

その「現代に適した」ですが、もともとの箱庭の身体性を捨象したり、治療法としてではなく、人間の脳機能に関する基礎研究の道具としてHAKONIWAという名称のみを借用したんじゃないの、ってがっかりしたり、また、箱庭療法実践者ではない方が方法論を海外の方法論文献に基づいて整理されていました。

 

 

まあ、箱庭は現状の施行法の意義を再認できたり、そして後学に役立つ、知らない領域のことを教えて頂けたのは、良かった。

 

 

ただ...この後者の論文の本文と引用文献の記載にされた知人の苗字(故人)が誤っていたのは、その方のご家族とかつて永く研究会で親しくさせていただいただけに、とても残念でした。

 

 

執筆依頼が〈無茶振り〉だったのかも...との気配を感じてしまいました。

…なお、もっとついでに言えば、当該論文著者のご家族とも、にゃんは院で同窓…という狭い世界の中のお話なのですが…

 

 

 

 

「論文」の括りの方では、長谷川さん、小倉さんのものがにゃんからはオススメです。

 

 

もはや箱庭の様式ではないMSSMには、〈箱庭のエートス〉をかっちりと継承している感があると思います。

 

 

でも...「Hakoniwaシステム」に至っては、もはや名のみの借用ですよね~~~。

これが、「今の時代に適した」形と言われてしまったら、寂寥感が湧いてきます。😿

 

 

このIT/ICTがマウントをとっているかに見える時代だからこそ、素朴な砂箱(百歩譲ってそのエートスを継承する様式)を再評価して、再度導入していけるような方策を、ここりんとしても、ぜひ探りたいです。

 

 

一方で、在野人にはない「権力(パワー)」を得られる大学人が率先して研究・開発・提案をしていただけることを期待したいです。…従来の箱庭メソッド土俵を踏みかためる方向性の研究では科研費は取りづらいのかもしれませんが。

 

 

 

この号の「特集」部分の構成は、掲載順に、

・山中康裕・下山晴彦対談[名前順、50音順でもアルファベット順でもない。医師が先???]

・論文:Ⅰ 箱庭療法の現在と未来、Ⅱ 箱庭療法の新たな展開の2部構成)

・エッセイ

となっています。

 

 

特集の最後に、論文とは別に設けられたエッセイコラムのさらに掉尾を飾るのは、大住誠先生。

 

ただここでも、アマゾン書評やレビューから得られる以上の情報は、頂けずでした。

 

う〜ん、仏教心理学会のレクチャーの時の印象がまだ上書きされる機会が得られないでいます。

 

それは、どうも興味を持って購入するというよりも、粗探しをしたくなってしまいそうなので、

自分にとってのお金と時間のコスパを考えると、どうも先送りのまま永遠に出会い切れない〈スピリット〉の一つになってしまいそうです。

 

 

で、とりあえずは、「発達障害」支援と「箱庭療法」とのマッチングが主題と思われた『お母さんと僕のまほうの砂箱 ー発達障害と母子同時箱庭療法ー』について、拙くコメントして、この箱庭療法関連図書紹介を一区切りにしたいと思います。

 

 

🪷

 

 

『お母さんと僕のまほうの砂箱 ー発達正体と母子同時箱庭療法』 

文:大住誠 絵:北洋子 解説:朝倉新・大住誠  ゆまに書房 2019.6.25初版

 

児童精神科医の朝倉新先生・大住誠先生の共著の絵本です。この方法に適した条件が整っている場合には、このような治療モデルが12回という「極めて短期間」と思われるかもしれないタイパ高の達成がなされることが絶対に無いとは言えないです。

 

 

たとえば、この絵本に描かれていること以外の同時進行的外部ファクター、それらの相互かつ総合的な作用に守られての、お母さんのこころの成長と日常生活中の不慮の亀裂...クライシスが回避されているという条件下では、うまくいく可能性が高いと思います。

 

 

にゃんの30年近くの教育臨床現場での体験の中で、かなり学級・学校で持て余されていたケースが、相談機関でのプレイ1回で「治る…おさまる」ということが、そう稀ではないからです。

 

 

この絵本で紹介されている手法は、いわば〈母と子の絆(一体感)をベースにそこに治療の場を顕現させる〉ものです。

 

 

 

ただし......

 

この方法は、大住先生のもう少し学齢が高くまた成人が対象の森田療法との併用やクライアントとセラピストが同時に瞑想してから箱庭を置くという方式とは違っています。

 

とくに、表には見えにくくても周産期を含めた生育歴の中での母子関係の基盤がフォルト(欠損)していないクライエントには優れた効果がある可能性が認められるように思います。

 

........それは、ごく限られた一部の、諸々の意味で十全に恵まれた家族への支援、という適用範囲に限られるのではないでしょうか。

 

 

主に、公的機関にあっての、こころの対人支援会職の泥沼を這うような日々の修羅場、野戦病院チックな臨床現場に、没入せざるを得ない環境にあっては、これがやすやすと適用できるとは、とても考えられません。。。

 

心理療法家にとっては、市民革命前のベルサイユ宮殿 🥀 の暮らしを夢見るように垣間見る、日常リアルな諦観との隔たりを感じてしまうのです…とほほほほ。。。😹

 

 

 

箱庭に蔦が絡んでいて、その下にはにゃんこ。...かわいい絵柄。