ブックレビュー河合隼雄特集㉗:子どもと悪 1997 岩波書店 | こころの臨床

こころの臨床

心理学は、学問的な支えも実践的身構えも、いずれも十全と言うにはほど遠い状況です。心理学の性格と限界を心に留めつつ、日本人が積み重ねてきた知恵を、新しい時代に活かせるよう皆さまとともに考えていきます。

「今ここに生きるこども」が副題。

 

カバー下に隠された扉にも、(カバー裏面と同じ)この谷川俊太郎さんの詩が印刷されています。

 

 

親や教師をはじめ、子どもを取り巻く大人たちへの提言。教育臨床に携わってきたにゃんにとっても、まだまだ、たくさんの学びをいただける御本です。

 

ユング心理学の「影」の理論を通して、現代の教育現場への鋭い提言をなさっています。

 

…[略]…教師や親が悪を排除することによって、「よい子」を作ろうと焦ると、結局は大きい悪を招き寄せることになってしまう。(p37)

 

 

  悪が一定の破壊の度合をこえるときは、取り返しがつかないことを人間は知っていなくてはならない。…[略]…やはり、子どものときに何らかの深い根源悪を体験し、その怖さを知り、二度とはやらないと決心を固くすることが必要である。…[略]…そのときに、大人がどのように対処したかが、その人の人生にとっても大きい意味をもつものと思う。(pp.56-57)

 

…[略]…子どもの心を「理解する」というのを甘くとって、しつけをしない家庭は反省が必要である。このような家の子がみすみすすぐ見つかるような盗みをすることがある。これなどは、親の「しつけ」を引き出そうとしているのではないかと感じられる。(pp.80-81)

 

 平和愛好者になるためには、子どものときに殺したり殺されたりの遊びをしたり、虫を殺したりするようなことが必要である。(p90)

 

…[略]…日本の受験システムで「よい子」になろうとする子どもは、すさまじい競争のなかにいるのだが、むしろ、自分の本来的なアグレッションを押さえなければならない。(p99)

 

…[略]…家族間の関係の円滑さのために、お金が使われて心が使われない、という状況が生み出されてきた。…[略]…ほんとうの「甘え」も「保護」もなく、ただものに埋まっているだけである。(p186)

 

Ⅵ章で30ページあまりを費やして、「いじめ」についての論考と提言がなされていますが、読まれる方によって賛否が分かれる章ではないかと思われます。

その中に教育現場よりも家庭での同胞関係や親子関係のあり方の中に、いじめの要因が潜んでいるとの意見が述べられています。また教育現場では経験則として共通理解がある、「よい子」の問題(「日本においては、自分の生きたいように生きているのではなく、規格にはめこまれていることが多い」)との指摘も見られます。

 

…[略]…思春期の子どもたちが、自分の「悪」が大人によって止められたとき、「ほっとした」と語ることもある。…[略]…大人が強い壁として立つことは、何があたってきても退かない強さであって、それが動いて他を圧迫することではない。…[略]…理解を深めれば深めるほど、厳しさの必要が認識されてくる…[略]…理解に裏付けられていない厳しさは、もろいものである。(p188)