木曜レビュー[シネマのこころ] 蛇イチゴ(2003) | こころの臨床

こころの臨床

心理学は、学問的な支えも実践的身構えも、いずれも十全と言うにはほど遠い状況です。心理学の性格と限界を心に留めつつ、日本人が積み重ねてきた知恵を、新しい時代に活かせるよう皆さまとともに考えていきます。

西川美和脚本・監督作品。

『すばらしき世界』が大変良かったので、過去の作品をいくつか続けてみたうちの一つ。

20年前の作品。

 

https://www.amazon.co.jp/%E8%9B%87%E3%82%A4%E3%83%81%E3%82%B4-%E5%AE%AE%E8%BF%AB%E5%8D%9A%E4%B9%8B/dp/B01L9FDWQS

 

主人公は誰なのだろうか。「明智一家」の成員誰もが二面性を持っており、それぞれの心の襞がささめき干渉し合う、繊細な物語。

 

主人公探しはやめて、はたして誰の視点から描かれているのか、と強いて問えば、小学校教諭となった妹(つみきみほさん演)かなと思います。

 

そして、タイトルの蛇イチゴとは?

 

兄のどうということのないかのような最初の嘘とそれに騙されたという思い出は、妹にとっては、その後の兄妹関係に大きな影を落としていた。

妹の傷つきがどのようにラストに改修されていくのか?

兄を告発することで救うという行為を決然とやり遂げようとする妹に、彼岸から手を差し出した兄の面差し、兄を演じる宮迫さんのこの表情を引き出したのは監督の力量でもあるのでしょう。

 

どれが心の真実なのかそれともまことしやかな雄弁な嘘なのか。

にゃんがこの物語の中で表立たない欺瞞の匂いを覚えたのは、父(平泉成さん演)や兄やまた親戚の叔母の言動ではなく、妹が結婚を意識して付き合っている同僚教師(手塚とおるさん演)の「心変わり」の態度でした。20年前ですから現在と同じ用語を使うと誤解を招く虞はあるものの、妹は素で、相手は幻想を通して互いの関係性を見つめていたのかもしれません。

 

ラストで映し出された瑞々しい「蛇イチゴ」。

 

ですがこの果実は、少なくともにゃんの知っている、野生の蛇イチゴには見えませんでした。

実も大きくツヤツヤしているので、こちらなのかも。

ウェッジウッドの有名な絵柄のワイルドストロベリーに似た種のようです。

 

 

 

 

兄は、「甘くて美味しかった」と妹に語った。

 

ですが、少なくともにゃんの知っている、野生の蛇イチゴは、甘くもないしそもそも味がない。

なので、兄が言ったことが本当だったとすれば、それは「草イチゴ」だったのかも...。

 

 

蛇という気味のよくない生き物と愛らしいイチゴの重層的なイメージは、この家族の成員各々の二面性の輻輳した絡まりをよく表しているように思えるのです。