秘密の部屋(その4)〜ユングの夢を解釈したフロイト〜 | こころの臨床

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心理学は、学問的な支えも実践的身構えも、いずれも十全と言うにはほど遠い状況です。心理学の性格と限界を心に留めつつ、日本人が積み重ねてきた知恵を、新しい時代に活かせるよう皆さまとともに考えていきます。

このユングの「建物」の夢を、フロイトはどのように解釈したのでしょうか?

 

フロイトは、年上である自分の死が、夢見手(ユング)によって望まれている

と解釈の中で暗に示しました。

 

ユダヤ人社会では、男性の家長(父)の権威が強いのです。

家長は、有能な若い男性の後継者に、いつか権力の座を明け渡す時、つまり死を迎えます。

 

ユダヤ人であるフロイトは、それ(死:権力の喪失)を密かに恐れている、

というフロイト自身のこころの奥底を、他者(ユング)への夢解釈を〈鏡〉として、

暴露したと言えるかもしれません。

 

 

一方のユングは、そのようなことは思ってもみなかった(意識していなかった)ので、

たいそう困惑します。

 

精神分析とはは、相手が思ってもみなかった(無意識の)〈願望〉を、暴露し、

それを相手に認めさせることで治癒を生じさせるという手法です。

 

尊敬するフロイトから「あなたは無意識で、他者の死を望んでいる」

との一方的解釈に基づく追求を受け(徹底操作)たユングは、

苦し紛れに、「妻と義理の妹の死を望んでいました」とフロイトに応じます。

 

ユングは新婚早々で、ユングにとってそれは、(少なくとも意識的には)

まったくの偽りでした。

 

 

ユングがフロイトに言い返せなかった本当の気持ち、自分の夢への解釈は、

「自分は、こころのもっともっと深い部分を探求したい、考古学の発掘

にたとえられるようなことに、興味があるのだ」というものでした。

 

ユングは、その夢の建物(家)を、ユング自身の「こころ」だと思ったのです。

 

前回から読んでくださっている方は、おや?と思われましたか?

そう、多くの夢では、「建物」は身体とみなされると、前回は書きました。

 

しかし、こころとからだは、果たしてきっちりと分けられるものでしょうか。

脳の中にこころがある、という考えは、人類の長い歴史から見れば、

つい最近から信じられはじめたことなのです。

 

身体(しんたい)をこころとからだをふくんだ総体という意味で使っている

ひともいます。

 

ユングの夢では、彼がどんどん階下の階におりてゆくと、最後に地下室に

たどり着きます。そこには、石畳で覆われていない土の地面がありました。

 

土の地面からさらに深い地層を掘りかえすことができ、また、地面は、

建物の外の広い大地ともつながっています。

 

 

つまり、その建物の床は、あらゆる地球の根っこに通じているのです。

 

ユングは、この建物の各階の「部屋」は、

層構造を成す、こころの深さを表しているのだ、と理解したのでした。

 

こころの「部屋」は、階の下にいけばいくほど(深ければ深いほど)、

自分が「知らない(ドイツ語では「無意識である」と同じ語)」、

自分(の意識)から隠されてきた(秘密の)部屋に至るのです。

 

青髭公の城の小さい鍵の小部屋、

安達ヶ原の鬼女の部屋、

13番目の「見るなの座敷」....

 

さて、あなたのこころの秘密の部屋には、

なにが隠されているのでしょう。