眩しい陽射しに、目を細めて。あなたと過ごす夏がやってきます。
はちみつ。
食事が済んで
あたしが席を立つ前に
コウさんが立ち上がる。
―いいよ、片付けは俺やるから。
―え、いいよ。あたしやる。
―いいって。作ってもらったんだから。
今度はマリがソファで待っててください(笑)
―わかった。ありがと。
―いーえ。ごちそうさま。
―お粗末さまでした。
食器を流しまで運ぶのを手伝い
あたしはコウさんに促され
ソファでテレビを眺める。
もちろん、
テレビには全然集中できなくて
洗い物をするコウさんの姿を
横目でちらりちらり、と
見ていた。
コウさんは
食器を全て片付け
キッチンから出て
そのまま廊下に行った。
トイレかな?
思って待っていると
それにしては
ちょっと長い。
しばらくしてコウさんが
リビングに戻る。
あたしの隣に座り
そのままあたしを
自分の膝の上に抱き上げ
深々とキスをした。
息継ぎの間もくれないくらいに。
―っはぁ、
コウさ、くるし…
唇を離すと
コウさんは
ニヤリ、と悪戯に笑って
―食後のお口直し。
と言った。
―んもぅ。
…かわいいんだから。
何でも許せてしまう。
膨れてみせると。
―そーゆー顔も、好きだよ。
今度は優しく、口付けた。
―今、風呂入れてるからさ
一緒に入ろ?
―あ、それで今居なかったの?
―そ。
―コウさんいい旦那さんだねぇ。
―いつもはあんまやらないんだけどね(笑)
―そうなの?
―だって俺帰ると全部できてるんだもん。
―いい奥さんね。
―料理はマリの方が断然上手いよ。
―ありがと。
自分で言っておきながら
嫉妬して
苦しくなって、
後悔する。
それから、
一緒にお風呂に入って
コウさんの密かな自慢だという
大きな浴槽で
のんびり
話したり、
お互いの肩や首をマッサージしたりした。
裸でいるのに、
全然いやらしい感じがしなくて
ただ、
ぴったりと肌を寄せて
お互いの呼吸や
体温、鼓動を感じていた。
湯気の匂い、
水音。
くぐもって、響く
声。
―コウさん。
―ん?
―すき。
あたしは身体をひねって
コウさんの首に腕を回して
コウさんの口を塞いだ。
お風呂上がり、
コウさんがあたしの髪に
ドライヤーをあててくれた。
髪を触られるのは気持ちよくて
あたしはうっとりと
目を閉じて
コウさんの指先を感じた。
―寝る?
いつの間にか
ドライヤーのスイッチは切れていて
コウさんの顔が目の前にあった。
―あ、ごめん。
うとうとしちゃった…
―布団、出さなくていーよな?
―コウさんがいいなら。
―じゃあ、俺の布団!
行こう。
引っ張り起こされ
手を引かれて歩く。
まだ寝ぼけたままの
ぼんやりした頭。
2階建ての家で
コウさんの部屋は
階段を上ってすぐ右の部屋だった。
―いつもコウさんひとりで寝てるの?
―うん。
―なんで?寂しくないの?
―ははっ(笑)
―何で笑うのー。
―いや、ごめん。
そりゃあ、寂しかったりするけど
俺、やっぱり生活時間不規則だから。
でも、子供とか奥さんて
普通に生活してるでしょ?
だから、
寝る部屋は別の方がいいんだよ。
―ふうん。
あたしだったら、
どんなに夜遅くても
どんなに朝早くても
コウさんと寄り添って寝たいと思うけどな。
部屋の扉を閉めて
コウさんが
あたしを抱きしめた。
ぎゅう………
強く、強く。
―ありがと。
ホント、救われるよ。
―?
―マリって存在に。
確かめるように
優しくキスをして
―ねむい?
耳元で囁いた。
あたしは首を振って
コウさんにキスを返す。
ベッドに倒れこみ
コウさんが求めるだけ、
あたしは
応えた。
罪悪感なんて
快楽の前では
何の意味も成さない。
次第に
薄れて
目の前でたっぷり降り注ぐ
はちみつみたいな
甘い甘い愛の中
見えなくなって
消えていった。
あたしは
繋がったまま、
コウさんが呟く
“誰よりも、好きだ”
を
信じて疑わない。
眠りに落ちる前
あたしはコウさんに聞いた。
―ねぇ、コウさん。
このベッド、
奥さん一緒に寝た事あるの?
―ないよ。
―一回も?
―うん。
基本的に、この部屋入れないから。
―なんで?
―ん~……
俺の部屋だから?
その回答に
あたしは
安心しきって
眠った。
〇〇続く〇〇
今回精密検査の話まで
書けなかったので、
次回こそ(汗)
あたしが席を立つ前に
コウさんが立ち上がる。
―いいよ、片付けは俺やるから。
―え、いいよ。あたしやる。
―いいって。作ってもらったんだから。
今度はマリがソファで待っててください(笑)
―わかった。ありがと。
―いーえ。ごちそうさま。
―お粗末さまでした。
食器を流しまで運ぶのを手伝い
あたしはコウさんに促され
ソファでテレビを眺める。
もちろん、
テレビには全然集中できなくて
洗い物をするコウさんの姿を
横目でちらりちらり、と
見ていた。
コウさんは
食器を全て片付け
キッチンから出て
そのまま廊下に行った。
トイレかな?
思って待っていると
それにしては
ちょっと長い。
しばらくしてコウさんが
リビングに戻る。
あたしの隣に座り
そのままあたしを
自分の膝の上に抱き上げ
深々とキスをした。
息継ぎの間もくれないくらいに。
―っはぁ、
コウさ、くるし…
唇を離すと
コウさんは
ニヤリ、と悪戯に笑って
―食後のお口直し。
と言った。
―んもぅ。
…かわいいんだから。
何でも許せてしまう。
膨れてみせると。
―そーゆー顔も、好きだよ。
今度は優しく、口付けた。
―今、風呂入れてるからさ
一緒に入ろ?
―あ、それで今居なかったの?
―そ。
―コウさんいい旦那さんだねぇ。
―いつもはあんまやらないんだけどね(笑)
―そうなの?
―だって俺帰ると全部できてるんだもん。
―いい奥さんね。
―料理はマリの方が断然上手いよ。
―ありがと。
自分で言っておきながら
嫉妬して
苦しくなって、
後悔する。
それから、
一緒にお風呂に入って
コウさんの密かな自慢だという
大きな浴槽で
のんびり
話したり、
お互いの肩や首をマッサージしたりした。
裸でいるのに、
全然いやらしい感じがしなくて
ただ、
ぴったりと肌を寄せて
お互いの呼吸や
体温、鼓動を感じていた。
湯気の匂い、
水音。
くぐもって、響く
声。
―コウさん。
―ん?
―すき。
あたしは身体をひねって
コウさんの首に腕を回して
コウさんの口を塞いだ。
お風呂上がり、
コウさんがあたしの髪に
ドライヤーをあててくれた。
髪を触られるのは気持ちよくて
あたしはうっとりと
目を閉じて
コウさんの指先を感じた。
―寝る?
いつの間にか
ドライヤーのスイッチは切れていて
コウさんの顔が目の前にあった。
―あ、ごめん。
うとうとしちゃった…
―布団、出さなくていーよな?
―コウさんがいいなら。
―じゃあ、俺の布団!
行こう。
引っ張り起こされ
手を引かれて歩く。
まだ寝ぼけたままの
ぼんやりした頭。
2階建ての家で
コウさんの部屋は
階段を上ってすぐ右の部屋だった。
―いつもコウさんひとりで寝てるの?
―うん。
―なんで?寂しくないの?
―ははっ(笑)
―何で笑うのー。
―いや、ごめん。
そりゃあ、寂しかったりするけど
俺、やっぱり生活時間不規則だから。
でも、子供とか奥さんて
普通に生活してるでしょ?
だから、
寝る部屋は別の方がいいんだよ。
―ふうん。
あたしだったら、
どんなに夜遅くても
どんなに朝早くても
コウさんと寄り添って寝たいと思うけどな。
部屋の扉を閉めて
コウさんが
あたしを抱きしめた。
ぎゅう………
強く、強く。
―ありがと。
ホント、救われるよ。
―?
―マリって存在に。
確かめるように
優しくキスをして
―ねむい?
耳元で囁いた。
あたしは首を振って
コウさんにキスを返す。
ベッドに倒れこみ
コウさんが求めるだけ、
あたしは
応えた。
罪悪感なんて
快楽の前では
何の意味も成さない。
次第に
薄れて
目の前でたっぷり降り注ぐ
はちみつみたいな
甘い甘い愛の中
見えなくなって
消えていった。
あたしは
繋がったまま、
コウさんが呟く
“誰よりも、好きだ”
を
信じて疑わない。
眠りに落ちる前
あたしはコウさんに聞いた。
―ねぇ、コウさん。
このベッド、
奥さん一緒に寝た事あるの?
―ないよ。
―一回も?
―うん。
基本的に、この部屋入れないから。
―なんで?
―ん~……
俺の部屋だから?
その回答に
あたしは
安心しきって
眠った。
〇〇続く〇〇
今回精密検査の話まで
書けなかったので、
次回こそ(汗)
宣告。
初めて入る、
コウさんの家の中。
あたしの知らない、
コウさんの生活空間。
家の中は
シンプルで
きれいに片付いていて
家具の配置や
落ち着いた配色、
小物の数々…
センスが良くて、
まるでモデルルームみたいだと思った。
3才の子供がいるとは思えない。
オトナな、感じ。
リビングに通される。
―ソファ、座ってて。
―うん。
―コーヒーでいい?
―うん。あ、
―なに?
―牛乳ある?
―カフェオレ?
―うん。
―了解。
―甘めに!
―はいはい。
対面式のキッチンの奥、
いつものコウさんの
いつもとは違う姿。
―はい、どーぞ。
―ありがと。
―なに?
―え、なにが?
―や、なんか…
変な表情してるから。
―ごめん。なんかさ、
そわそわしちゃって。
―居ずらい?
―てか…、罪悪感?
あと、やっぱ実感して、
苦しくなる。
―………。
―コウさん、やっぱ、
妻帯者なんだなぁ、って。
はは。
あたしは
笑って誤魔化すしかなかった。
そうじゃないと、
泣いてしまいそうで。
あたしの好みに合わせて
あまく、ぬるく、作った
カフェオレが
なんだか染みる。
―ごめんな。
―ううん。
―俺残酷だね。
―残酷なくらいで
ちょーどいいよ。
―なにそれ(笑)
―褒められるよーなさ、
関係じゃないんだもん。
―そうだけど。
―それでもさ、
さっきも言ったけど…
こうしてコウさんが
あたしを少しでも
必要としてくれるなら…
あたしはこの残酷さも、
受け入れるよ。
―苦しい?
―ちょっとね。
―ごめんな。
コーヒーカップを
サイドテーブルに置いて
コウさんが
横からあたしを抱きしめる。
そっと、
おでこと目尻に
キスをした。
夕陽が射し込む
静かな
リビングルーム。
―でさ、本題。
―うん。
コウさんはあたしから離れると
立ち上がり
ダイニングテーブルに
放り投げた封筒を手にして
再び深く、
ソファに座る。
―これ、見て。
―あたしが?
―うん。
―いーの?
―うん。
封筒を受け取る。
中には
3枚の紙。
あたしももらった
健康診断の結果。
受診勧告書。
療休に関する社則を記した紙…。
コウさんは
ソファに深くもたれて
ぼんやりと
天井を見上げている。
あたしは黙って
全てに目を通した。
そこから解ったのは、
病名は(ここに書かないけれど)
あたしでも内容を知ってるくらいの
難病。
の
疑いがあるという事。
精密検査も含めて
もしそうならば
療休をとって
早期に治療をした方がいいという事…。
その場合、
会社から多少の援助が出るという事。
―うそでしょ。
それしか、
言葉が出てこない。
―ね。
俺もそう思った。
―どうするの?
―とりあえず、明日休みだし
病院で精密検査受けてくる。
てか、もう会社から病院に予約入れてあるみたいよ(笑)
―うわ、さすがだね…大企業(笑)
―でも、なんかねぇ
―うん?
―今日聞いた感じだと
割と早期みたいよ。
―手術とかで治るの?
―その可能性が高いって。
―そっか。
―だからさ、あんま暗くなんない方がいいかなって。
―そうだよね。
―うん。で、今日ここにマリがいる訳。
―へ?
―ひとりで居たら
俺、どんどん悪い方に考えそうだから。
―ありがとう。
―ん?
―そんな時、隣に居させてくれて。
―こちらこそ、ありがとうだよ。
―ね、コウさん。
なんかさ、おいしーもの食べよう?
―例えば?
―んー…
コウさんの好きなもの!
キッチン借りていいなら
あたし作るよ?
―マジ?
―うん。
―なにがいい?
―うーんとね、チキン。
―いいね!チキン。
―あとは、お任せ(笑)
―じゃあ、あたしの得意料理振る舞っちゃおうかなぁ。
―なになに?
―んとね、チキンのトマト煮込みプロヴァンス風!
―プロヴァンス?(笑)
―そう、プロヴァンス(笑)名前からしておいしそーでしょ。
―うん。うまそ。
―あとは適当に、ね。
―じゃあ、買い出し行くか。
―うん。
再びコウさんの車に乗り込む。
―ねぇ、コウさんがいつも行くスーパーじゃなくてさ
少し遠いトコにしよう?
―なんで?
―あたしに奥さん気取らせてよ(笑)
―はは(笑)いーよ、そうしよ。
車で20分。
郊外の大型スーパー。
車を降りて
指を絡ませて歩き
一緒にショッピングカートを押す。
楽しいクリスマスパーティーの準備をするように
終始くっついて歩き
笑いながら
食材を選び
カートをいっぱいにする。
歳の少し離れた夫婦に見えるかな。
こんなに楽しそうに
陽気に人目も憚らず
スーパーで買い物するあたし達は
不倫カップルに、
きっと
見えない。
その瞬間だけでいいから、
そう思わせて欲しかった。
車に荷物を詰め込み
コウさんの家に帰る。
作ってる姿はあんまり見ないで!
と言い張って
コウさんをソファに座らせ
テレビを見ながら待っててもらう。
あたしは
そんなコウさんの姿を見ながら
夕食の準備をした。
成る程。
対面式キッチンの良さはこれだ(笑)
チキンと野菜をトマトソースで煮込みながら
スープとサラダを用意した。
それから、
つまみになりそうな
和え物と、チーズのカナッペ。
チキンを弱火に切り替え
つまみを持って
ソファへ移動。
―簡単だけと、はい、おつまみ。
―おー!うまそー!
―チキン、あと30分くらい煮込んでいい?
お腹すいてない?待てる?
―いーよ、別に。
―ありがと。
その方が絶対おいしいから!
―30分なんてすぐだよ。
ワインでも開けようか?
合いそうなつまみもあるし!
―いいね、ワイン。
―じゃあ、とっておきのやつな。
そう言ってコウさんが出してきたのは
ホテルでは7、8万くらいで出す
高級ワイン。
―わ、どうしたの?それ。
―去年の誕生日にバーの〇〇さんにもらったの。
―いいの?今日開けて。
―今日がいーの。
答えてる間に
きゅっ、きゅっ、きゅっ、
と
さすがはサービスマン(笑)な
手つきでコルクを抜く。
目の前に
赤ワイングラス。
ゆっくり注がれて
香り立つ、
ボルドーのワイン。
コウさんの動作ひとつひとつを
惚れ惚れと眺める。
―あたし、
コウさんにサービスしてもらうの
初めてだ。
―俺も今、初めてだと思って
ちょっと緊張した(笑)
コウさんからボトルを受け取る。
―あたし注ぐよ。
あたしはコウさんの目の前のグラスを
ゆっくり満たした。
―かんぱい。
香りが甘くて
味は見事なまでに辛口の
素晴らしいワインだった。
―おいしー!
―ね。
―香りがすごくいいね。
―うん。甘くてやらかい。
テレビを見ながら
ワインを飲んで
チーズをつまんで
30分は本当に
あっという間だった。
―もう、いいかな?
―もーいんじゃない?
―あたし見てくる!
―はい、いってらっしゃい。
コウさんが肩に回していた腕をほどく。
鍋のふたを開けると
いい匂い。
―わ、おいしそぅ!
コウさん来て!
コウさんがキッチンに入ってくる。
―どれどれ。
あたしを後ろから抱きしめながら
鍋を見下ろす。
―ホントだ。
よし、食べよ。
―お待たせ。お腹すいたね。
―うん。
ダイニングテーブルに
料理を並べ
赤ワイングラスも移動。
ゆっくり
ボトルを1本ふたりで空けながら
チキンもサラダもスープも、
すっかり完食(ほとんどをコウさんが。)
終始、
おいしい!
と
最高!
を繰り返してくれるコウさん。
あたしは、
その瞬間だけ
世界で一番幸せな
“奥さん”でいられた。
〇〇続く〇〇
次回は、
精密検査のお話。
コウさんの家の中。
あたしの知らない、
コウさんの生活空間。
家の中は
シンプルで
きれいに片付いていて
家具の配置や
落ち着いた配色、
小物の数々…
センスが良くて、
まるでモデルルームみたいだと思った。
3才の子供がいるとは思えない。
オトナな、感じ。
リビングに通される。
―ソファ、座ってて。
―うん。
―コーヒーでいい?
―うん。あ、
―なに?
―牛乳ある?
―カフェオレ?
―うん。
―了解。
―甘めに!
―はいはい。
対面式のキッチンの奥、
いつものコウさんの
いつもとは違う姿。
―はい、どーぞ。
―ありがと。
―なに?
―え、なにが?
―や、なんか…
変な表情してるから。
―ごめん。なんかさ、
そわそわしちゃって。
―居ずらい?
―てか…、罪悪感?
あと、やっぱ実感して、
苦しくなる。
―………。
―コウさん、やっぱ、
妻帯者なんだなぁ、って。
はは。
あたしは
笑って誤魔化すしかなかった。
そうじゃないと、
泣いてしまいそうで。
あたしの好みに合わせて
あまく、ぬるく、作った
カフェオレが
なんだか染みる。
―ごめんな。
―ううん。
―俺残酷だね。
―残酷なくらいで
ちょーどいいよ。
―なにそれ(笑)
―褒められるよーなさ、
関係じゃないんだもん。
―そうだけど。
―それでもさ、
さっきも言ったけど…
こうしてコウさんが
あたしを少しでも
必要としてくれるなら…
あたしはこの残酷さも、
受け入れるよ。
―苦しい?
―ちょっとね。
―ごめんな。
コーヒーカップを
サイドテーブルに置いて
コウさんが
横からあたしを抱きしめる。
そっと、
おでこと目尻に
キスをした。
夕陽が射し込む
静かな
リビングルーム。
―でさ、本題。
―うん。
コウさんはあたしから離れると
立ち上がり
ダイニングテーブルに
放り投げた封筒を手にして
再び深く、
ソファに座る。
―これ、見て。
―あたしが?
―うん。
―いーの?
―うん。
封筒を受け取る。
中には
3枚の紙。
あたしももらった
健康診断の結果。
受診勧告書。
療休に関する社則を記した紙…。
コウさんは
ソファに深くもたれて
ぼんやりと
天井を見上げている。
あたしは黙って
全てに目を通した。
そこから解ったのは、
病名は(ここに書かないけれど)
あたしでも内容を知ってるくらいの
難病。
の
疑いがあるという事。
精密検査も含めて
もしそうならば
療休をとって
早期に治療をした方がいいという事…。
その場合、
会社から多少の援助が出るという事。
―うそでしょ。
それしか、
言葉が出てこない。
―ね。
俺もそう思った。
―どうするの?
―とりあえず、明日休みだし
病院で精密検査受けてくる。
てか、もう会社から病院に予約入れてあるみたいよ(笑)
―うわ、さすがだね…大企業(笑)
―でも、なんかねぇ
―うん?
―今日聞いた感じだと
割と早期みたいよ。
―手術とかで治るの?
―その可能性が高いって。
―そっか。
―だからさ、あんま暗くなんない方がいいかなって。
―そうだよね。
―うん。で、今日ここにマリがいる訳。
―へ?
―ひとりで居たら
俺、どんどん悪い方に考えそうだから。
―ありがとう。
―ん?
―そんな時、隣に居させてくれて。
―こちらこそ、ありがとうだよ。
―ね、コウさん。
なんかさ、おいしーもの食べよう?
―例えば?
―んー…
コウさんの好きなもの!
キッチン借りていいなら
あたし作るよ?
―マジ?
―うん。
―なにがいい?
―うーんとね、チキン。
―いいね!チキン。
―あとは、お任せ(笑)
―じゃあ、あたしの得意料理振る舞っちゃおうかなぁ。
―なになに?
―んとね、チキンのトマト煮込みプロヴァンス風!
―プロヴァンス?(笑)
―そう、プロヴァンス(笑)名前からしておいしそーでしょ。
―うん。うまそ。
―あとは適当に、ね。
―じゃあ、買い出し行くか。
―うん。
再びコウさんの車に乗り込む。
―ねぇ、コウさんがいつも行くスーパーじゃなくてさ
少し遠いトコにしよう?
―なんで?
―あたしに奥さん気取らせてよ(笑)
―はは(笑)いーよ、そうしよ。
車で20分。
郊外の大型スーパー。
車を降りて
指を絡ませて歩き
一緒にショッピングカートを押す。
楽しいクリスマスパーティーの準備をするように
終始くっついて歩き
笑いながら
食材を選び
カートをいっぱいにする。
歳の少し離れた夫婦に見えるかな。
こんなに楽しそうに
陽気に人目も憚らず
スーパーで買い物するあたし達は
不倫カップルに、
きっと
見えない。
その瞬間だけでいいから、
そう思わせて欲しかった。
車に荷物を詰め込み
コウさんの家に帰る。
作ってる姿はあんまり見ないで!
と言い張って
コウさんをソファに座らせ
テレビを見ながら待っててもらう。
あたしは
そんなコウさんの姿を見ながら
夕食の準備をした。
成る程。
対面式キッチンの良さはこれだ(笑)
チキンと野菜をトマトソースで煮込みながら
スープとサラダを用意した。
それから、
つまみになりそうな
和え物と、チーズのカナッペ。
チキンを弱火に切り替え
つまみを持って
ソファへ移動。
―簡単だけと、はい、おつまみ。
―おー!うまそー!
―チキン、あと30分くらい煮込んでいい?
お腹すいてない?待てる?
―いーよ、別に。
―ありがと。
その方が絶対おいしいから!
―30分なんてすぐだよ。
ワインでも開けようか?
合いそうなつまみもあるし!
―いいね、ワイン。
―じゃあ、とっておきのやつな。
そう言ってコウさんが出してきたのは
ホテルでは7、8万くらいで出す
高級ワイン。
―わ、どうしたの?それ。
―去年の誕生日にバーの〇〇さんにもらったの。
―いいの?今日開けて。
―今日がいーの。
答えてる間に
きゅっ、きゅっ、きゅっ、
と
さすがはサービスマン(笑)な
手つきでコルクを抜く。
目の前に
赤ワイングラス。
ゆっくり注がれて
香り立つ、
ボルドーのワイン。
コウさんの動作ひとつひとつを
惚れ惚れと眺める。
―あたし、
コウさんにサービスしてもらうの
初めてだ。
―俺も今、初めてだと思って
ちょっと緊張した(笑)
コウさんからボトルを受け取る。
―あたし注ぐよ。
あたしはコウさんの目の前のグラスを
ゆっくり満たした。
―かんぱい。
香りが甘くて
味は見事なまでに辛口の
素晴らしいワインだった。
―おいしー!
―ね。
―香りがすごくいいね。
―うん。甘くてやらかい。
テレビを見ながら
ワインを飲んで
チーズをつまんで
30分は本当に
あっという間だった。
―もう、いいかな?
―もーいんじゃない?
―あたし見てくる!
―はい、いってらっしゃい。
コウさんが肩に回していた腕をほどく。
鍋のふたを開けると
いい匂い。
―わ、おいしそぅ!
コウさん来て!
コウさんがキッチンに入ってくる。
―どれどれ。
あたしを後ろから抱きしめながら
鍋を見下ろす。
―ホントだ。
よし、食べよ。
―お待たせ。お腹すいたね。
―うん。
ダイニングテーブルに
料理を並べ
赤ワイングラスも移動。
ゆっくり
ボトルを1本ふたりで空けながら
チキンもサラダもスープも、
すっかり完食(ほとんどをコウさんが。)
終始、
おいしい!
と
最高!
を繰り返してくれるコウさん。
あたしは、
その瞬間だけ
世界で一番幸せな
“奥さん”でいられた。
〇〇続く〇〇
次回は、
精密検査のお話。
さて、そろそろ…
また、
日記を復活させようと
思います。
まず、日記を書けなくなった
この数週間の経緯を…。
5月。
連休中
幸せな幸せな、
とろける夜を
コウさんと過ごして
(前回日記参照)
翌日一緒に出勤。
あたしの誕生日当日も
コウさんが
仕事終わりに
軽く食事をして
祝ってくれた。
週末をひとつ越えて、
連休ムードも
すっかりなくなり
いつもの空気。
4月アタマにした
健康診断の結果が
返ってきた。
あたしは
問題なく、健康。
しかし
コウさんだけは
結果の紙をもらえず
健康管理課に
呼び出された。
…なんか、やな予感。
翌日、
あたしもコウさんも
昼間の早い時間の宴席だけで
仕事が終わりだったので
一緒に上がってから、
健康管理課へ。
コウさんが
曖昧な笑顔を残して
課のある部屋に入る。
あたしは
扉の外側で待っていた。
5分。
10分…。
15分……
何度も時計を見た。
自分の腕時計だけじゃ不安で
携帯の時計も、交互に見比べた。
ようやく、
20分が過ぎた時
コウさんが
封筒を持って、
出てきた。
あたしはもう、
泣く寸前の顔をしていたと思う。
―ただいま。お待たせ。
―でっ?
―ま、とにかくさ
着替えて外出よう?
―うん…。
コウさんが
笑ってるもんだから。
あたしは
何も言えない。
無理して笑ってるなんて
すぐ解っちゃうのに。
そうしなければならない程
深刻な事態だと、
その時もう
あたしは悟った。
ロッカーで着替えを済ませ
外に出ると
既にコウさんは待っていて
―ごめんっ!
駆け寄ると
車の鍵をあたしに見せて
―うち、来ない?
そう言った。
最初、
コウさんが何を言ったのか
全く理解出来なくて
口をパクパクさせてしまった。
だって、奥さんと子供は?
声にならない。
慌てふためくあたしを見て
コウさんは
笑って言った。
―今、居ないから。
とりあえず、移動しながら話すよ。
歩き出すコウさん。
立ち止まったままの、あたし。
コウさんが振り返って
言う。
―やだ?
あたしは、はっとして
―まさか!お邪魔しちゃおー。
無理矢理笑顔を作って
コウさんに早歩きで近付いた。
いつもの、車内。
コウさんが
大きく1回深呼吸して
チラッとあたしを見る。
あたしは、
コウさんの視線をかわして
―で?
促した。
―いや、今さ。
奥さんと子供、奥さんの実家帰ってるんだよね。
ああ、成る程。
もうすぐ、産まれるんだ。
―その、ほら…
口籠もるコウさん。
―知ってるよ。
―え?
―赤ちゃん、産まれるんでしょ?
―…うん。
―隠してるつもりだった?
―いや、そうじゃなくて。
―うん。解るよ。
―え?
―言いにくかったんでしょ?あたしに。
―うん。
……ごめん。
―なんでコウさんが謝るの。
―や、なんか、ほら…
―いいの。
何も、間違ってないでしょお?
―けど。
―コウさん。
―ん?
―おめでと。
―……。
―大丈夫。あたしね、
決めてたの。
コウさんがこの事話してくれたら
絶対、祝福するんだ、って。
―お前さ、
どんなけイイ女な訳。
―さぁ?こんなけ?(笑)
―なんかさ、
―ん?
―俺、最低な男な。
―そお?
―最低最悪。
―あたしにとっては、
コウさん程イイ男いないけど?
―褒め過ぎ。
―最低!!って、
思った事あるけどね(笑)
でも、仕方ないじゃん。
好きなんだもん。
―なんか、それ複雑(笑)
―少なくとも、あたしは…
―?
―コウさんがこうして
少しでも傍に置いてくれるから、
生きてられるんだよ。
―大袈裟な。
―ほんとだもん。
―そりゃどうも。
そんなこんな、
話しているうちに
車は住宅街の中
1軒の家の前に止まる。
―ここ、コウさんち?
―そう。
―きれー。てか、広っ!
立派な、一軒家だった。
車から降りると
コウさんに続いて
玄関に立った。
―どうぞ?
鍵を開けたコウさんが
中へ促す。
あたしは
初めて踏み入る、
コウさんの
(そして家族の)
生活空間に
目眩がするくらい
クラクラした。
―お、お邪魔します。
―どーぞ。
〇〇続く〇〇
中途半端ですが
続きはまた明日書きます…。
日記を復活させようと
思います。
まず、日記を書けなくなった
この数週間の経緯を…。
5月。
連休中
幸せな幸せな、
とろける夜を
コウさんと過ごして
(前回日記参照)
翌日一緒に出勤。
あたしの誕生日当日も
コウさんが
仕事終わりに
軽く食事をして
祝ってくれた。
週末をひとつ越えて、
連休ムードも
すっかりなくなり
いつもの空気。
4月アタマにした
健康診断の結果が
返ってきた。
あたしは
問題なく、健康。
しかし
コウさんだけは
結果の紙をもらえず
健康管理課に
呼び出された。
…なんか、やな予感。
翌日、
あたしもコウさんも
昼間の早い時間の宴席だけで
仕事が終わりだったので
一緒に上がってから、
健康管理課へ。
コウさんが
曖昧な笑顔を残して
課のある部屋に入る。
あたしは
扉の外側で待っていた。
5分。
10分…。
15分……
何度も時計を見た。
自分の腕時計だけじゃ不安で
携帯の時計も、交互に見比べた。
ようやく、
20分が過ぎた時
コウさんが
封筒を持って、
出てきた。
あたしはもう、
泣く寸前の顔をしていたと思う。
―ただいま。お待たせ。
―でっ?
―ま、とにかくさ
着替えて外出よう?
―うん…。
コウさんが
笑ってるもんだから。
あたしは
何も言えない。
無理して笑ってるなんて
すぐ解っちゃうのに。
そうしなければならない程
深刻な事態だと、
その時もう
あたしは悟った。
ロッカーで着替えを済ませ
外に出ると
既にコウさんは待っていて
―ごめんっ!
駆け寄ると
車の鍵をあたしに見せて
―うち、来ない?
そう言った。
最初、
コウさんが何を言ったのか
全く理解出来なくて
口をパクパクさせてしまった。
だって、奥さんと子供は?
声にならない。
慌てふためくあたしを見て
コウさんは
笑って言った。
―今、居ないから。
とりあえず、移動しながら話すよ。
歩き出すコウさん。
立ち止まったままの、あたし。
コウさんが振り返って
言う。
―やだ?
あたしは、はっとして
―まさか!お邪魔しちゃおー。
無理矢理笑顔を作って
コウさんに早歩きで近付いた。
いつもの、車内。
コウさんが
大きく1回深呼吸して
チラッとあたしを見る。
あたしは、
コウさんの視線をかわして
―で?
促した。
―いや、今さ。
奥さんと子供、奥さんの実家帰ってるんだよね。
ああ、成る程。
もうすぐ、産まれるんだ。
―その、ほら…
口籠もるコウさん。
―知ってるよ。
―え?
―赤ちゃん、産まれるんでしょ?
―…うん。
―隠してるつもりだった?
―いや、そうじゃなくて。
―うん。解るよ。
―え?
―言いにくかったんでしょ?あたしに。
―うん。
……ごめん。
―なんでコウさんが謝るの。
―や、なんか、ほら…
―いいの。
何も、間違ってないでしょお?
―けど。
―コウさん。
―ん?
―おめでと。
―……。
―大丈夫。あたしね、
決めてたの。
コウさんがこの事話してくれたら
絶対、祝福するんだ、って。
―お前さ、
どんなけイイ女な訳。
―さぁ?こんなけ?(笑)
―なんかさ、
―ん?
―俺、最低な男な。
―そお?
―最低最悪。
―あたしにとっては、
コウさん程イイ男いないけど?
―褒め過ぎ。
―最低!!って、
思った事あるけどね(笑)
でも、仕方ないじゃん。
好きなんだもん。
―なんか、それ複雑(笑)
―少なくとも、あたしは…
―?
―コウさんがこうして
少しでも傍に置いてくれるから、
生きてられるんだよ。
―大袈裟な。
―ほんとだもん。
―そりゃどうも。
そんなこんな、
話しているうちに
車は住宅街の中
1軒の家の前に止まる。
―ここ、コウさんち?
―そう。
―きれー。てか、広っ!
立派な、一軒家だった。
車から降りると
コウさんに続いて
玄関に立った。
―どうぞ?
鍵を開けたコウさんが
中へ促す。
あたしは
初めて踏み入る、
コウさんの
(そして家族の)
生活空間に
目眩がするくらい
クラクラした。
―お、お邪魔します。
―どーぞ。
〇〇続く〇〇
中途半端ですが
続きはまた明日書きます…。
