ごめんね、喜べない
どうして、
こんなに心が
重くなるんだろう。
どうして、
喜べないんだろう。
こんなに、
素敵な事なのに…。
コウさんの
奥さんが
妊娠した、
らしい。
夫婦なんだから
当たり前。
そして
待望の2人目。
おめでたい事なのに
喜ばしい事なのに
あたしは
まだ
コウさんに
“おめでとう”が
言えない。
あたしは
この妊娠の話を
人づてに聞いた。
だから、
余計ショックだったのかもしれない。
コウさんは
この事を
今だにあたしには
言いださない。
多分、
言えないんだと思う。
なんとなく。
だから、
その子が産まれるまで
あたしは
知らないふりをしていようと
思うんだ。
コウさんは
何であたしに言わないんだろう。
あたしが
傷付くと思ってるのかな。
それとも
あたしとコウさんが
こんな関係だから
やっぱり
遠慮してるのかな。
言いにくいんだろうな。
確かに、
傷付く。
傷付くなんて
おかしいって
解ってる。
喜ぶべき事で
あたしが
ショックを受けたり
そんなの、
違うって…
頭ではちゃんと
解ってるんだよ。
だけど、
やっぱり
ショックで
色んな事を
あれこれ考えて
疲弊してしまう。
あたしは
自分が、
すごく
厭らしいと思う。
コウさんを見て
想像してしまうんだ。
この人は
一体、
奥さんの前で
どんな顔をするんだろう。
あたしと笑いあって
甘ったるい時間を過ごして
そして家に帰って、
どんな顔をして
奥さんを抱くんだろう。
ズキリ、と
心に
何かが突き刺さる。
重たく重たく
沈んでいく。
コウさんは
何も間違ってなんかない。
これは、
自然で当たり前で
そして
幸せな事。
あたしが
こんなに汚い心で
勝手に
嫉妬してるだけの事。
おめでとう、って
言えたら。
もうちょっと、
素直に喜べたなら。
あたしは
あたしに
言い聞かせる。
解ってて
好きになったんでしょ?
コウさんの幸せを
ちゃんと“祈る”んでしょ?
…解ってる。
理屈はちゃんと理解してる。
だけど
コウさんごめん。
ごめんね、
今はまだ
素直に
喜べない。
汚いあたしで
ごめん。
こんなに心が
重くなるんだろう。
どうして、
喜べないんだろう。
こんなに、
素敵な事なのに…。
コウさんの
奥さんが
妊娠した、
らしい。
夫婦なんだから
当たり前。
そして
待望の2人目。
おめでたい事なのに
喜ばしい事なのに
あたしは
まだ
コウさんに
“おめでとう”が
言えない。
あたしは
この妊娠の話を
人づてに聞いた。
だから、
余計ショックだったのかもしれない。
コウさんは
この事を
今だにあたしには
言いださない。
多分、
言えないんだと思う。
なんとなく。
だから、
その子が産まれるまで
あたしは
知らないふりをしていようと
思うんだ。
コウさんは
何であたしに言わないんだろう。
あたしが
傷付くと思ってるのかな。
それとも
あたしとコウさんが
こんな関係だから
やっぱり
遠慮してるのかな。
言いにくいんだろうな。
確かに、
傷付く。
傷付くなんて
おかしいって
解ってる。
喜ぶべき事で
あたしが
ショックを受けたり
そんなの、
違うって…
頭ではちゃんと
解ってるんだよ。
だけど、
やっぱり
ショックで
色んな事を
あれこれ考えて
疲弊してしまう。
あたしは
自分が、
すごく
厭らしいと思う。
コウさんを見て
想像してしまうんだ。
この人は
一体、
奥さんの前で
どんな顔をするんだろう。
あたしと笑いあって
甘ったるい時間を過ごして
そして家に帰って、
どんな顔をして
奥さんを抱くんだろう。
ズキリ、と
心に
何かが突き刺さる。
重たく重たく
沈んでいく。
コウさんは
何も間違ってなんかない。
これは、
自然で当たり前で
そして
幸せな事。
あたしが
こんなに汚い心で
勝手に
嫉妬してるだけの事。
おめでとう、って
言えたら。
もうちょっと、
素直に喜べたなら。
あたしは
あたしに
言い聞かせる。
解ってて
好きになったんでしょ?
コウさんの幸せを
ちゃんと“祈る”んでしょ?
…解ってる。
理屈はちゃんと理解してる。
だけど
コウさんごめん。
ごめんね、
今はまだ
素直に
喜べない。
汚いあたしで
ごめん。
ズルイ男。
不況の煽りを
我が社はあんまり感じてない…
と思ってた。
まぁ、
宴席数も去年と変わらないし
新入社員も山程きたし。
うちの部署に至っては
例年3~5人しか配属されないのに
今年は10人配属らしい(笑)
どーなってんだ?
社内研修を終えて
部署に配属される
5月辺りが怖い(笑)
顔覚えるのも一苦労だわ。。
そんな訳で
世の中大不況。
やっぱり、
どんな業界にも
影響は出ますなぁ。
と、言うのも。
最近、
労働時間がかなり
細かく区切られるよーになった。
つまり、
残業代のカット、みたいな。
残業代が出ない
でも仕事は終わらない
=サービス残業
って構図。
ま、
元々あたしは
サービス残業大好き(笑)
なので
あまり不満はないんだけど…。
お金はいらないから、
この仕事は片付けさせて!
そーゆー
あたし主観の自己満足の為の
完璧主義者なんです。
先日も
―もう上がっていーよ。
と
一緒に働いていたコウさんに言われ
即答で
―ヤダ!!
と言った。
コウさんは
いいよ、やり残しても
誰かに引き継がせるから…
なんて
口では(立場上)言うけど
あたしがだからって
帰らないのは
解ってる。
―ごめんね、いつも。
でも慣れたでしょ(笑)
―まぁ、ね。
あたしは微笑む。
―俺がいつもこき使っちゃってるもんね。
―あ、なんだ。解ってたの?(笑)
お互い、笑いあう。
あたしは
いくらサービス残業好きだって
言ってもね、
そのほとんどが
コウさんの為だからなんだよ。
コウさんに負担かけたくないから
あたしが出来る最大限をしたい
そう思うだけ。
だからこそ、
苦じゃないんだけどね。
コウさんも、
きっとそれを
解っている。
つくづく、
ズルイ男だと思う。
ズルイなぁ。
もしくは、
“上手いなぁ”
とも。
あんまり
あたしが惚れ過ぎてて
悔しいから
コウさんに言ってやった。
―コウさんてさぁ、
ズルイよね。
―え、何が?!
―んー。色々。
とにかくズルイ!
―どうして?
―だって、
いい男だから。
素直に言ってしまった。
だって、いい男だから。
だから、ズルイ。
あたしは
惚れた弱み、
コウさんの為なら
何だってしちゃうじゃない。
“いい男だから。”
その響きが
相当嬉しかったようで
コウさんは
耳まで赤くしながら
―冗談でも、嬉しい。
―うふふふ。
冗談じゃあないけど、
滅多に言ってあげないからね!
コウさんのはにかみ笑い。
ほら、
またそうやって笑う。
ズルイなぁ。
ズルイよ。
こんなにいい男で。
我が社はあんまり感じてない…
と思ってた。
まぁ、
宴席数も去年と変わらないし
新入社員も山程きたし。
うちの部署に至っては
例年3~5人しか配属されないのに
今年は10人配属らしい(笑)
どーなってんだ?
社内研修を終えて
部署に配属される
5月辺りが怖い(笑)
顔覚えるのも一苦労だわ。。
そんな訳で
世の中大不況。
やっぱり、
どんな業界にも
影響は出ますなぁ。
と、言うのも。
最近、
労働時間がかなり
細かく区切られるよーになった。
つまり、
残業代のカット、みたいな。
残業代が出ない
でも仕事は終わらない
=サービス残業
って構図。
ま、
元々あたしは
サービス残業大好き(笑)
なので
あまり不満はないんだけど…。
お金はいらないから、
この仕事は片付けさせて!
そーゆー
あたし主観の自己満足の為の
完璧主義者なんです。
先日も
―もう上がっていーよ。
と
一緒に働いていたコウさんに言われ
即答で
―ヤダ!!
と言った。
コウさんは
いいよ、やり残しても
誰かに引き継がせるから…
なんて
口では(立場上)言うけど
あたしがだからって
帰らないのは
解ってる。
―ごめんね、いつも。
でも慣れたでしょ(笑)
―まぁ、ね。
あたしは微笑む。
―俺がいつもこき使っちゃってるもんね。
―あ、なんだ。解ってたの?(笑)
お互い、笑いあう。
あたしは
いくらサービス残業好きだって
言ってもね、
そのほとんどが
コウさんの為だからなんだよ。
コウさんに負担かけたくないから
あたしが出来る最大限をしたい
そう思うだけ。
だからこそ、
苦じゃないんだけどね。
コウさんも、
きっとそれを
解っている。
つくづく、
ズルイ男だと思う。
ズルイなぁ。
もしくは、
“上手いなぁ”
とも。
あんまり
あたしが惚れ過ぎてて
悔しいから
コウさんに言ってやった。
―コウさんてさぁ、
ズルイよね。
―え、何が?!
―んー。色々。
とにかくズルイ!
―どうして?
―だって、
いい男だから。
素直に言ってしまった。
だって、いい男だから。
だから、ズルイ。
あたしは
惚れた弱み、
コウさんの為なら
何だってしちゃうじゃない。
“いい男だから。”
その響きが
相当嬉しかったようで
コウさんは
耳まで赤くしながら
―冗談でも、嬉しい。
―うふふふ。
冗談じゃあないけど、
滅多に言ってあげないからね!
コウさんのはにかみ笑い。
ほら、
またそうやって笑う。
ズルイなぁ。
ズルイよ。
こんなにいい男で。
さくら、舞い散る
桜が、満開です。
あたしは
春が好きで
桜も
好き。
通勤道に
この近所じゃあ
割と有名な
桜の名所があって
出勤前、
満開の桜と
人混みを横目に
あたしは
その桜並木を
コウさんと歩きたい、
と
ぼんやり思う。
川沿いに
ずっと、並んだ桜。
平行して
提灯が走る。
広い歩道の上に
ずらっと屋台や出店が並び
まさに
春の夜の、祭り騒ぎ。
田舎から出てきて
初めてこの桜を見た時
こんなに綺麗な夜桜は
なかなか
創れない。
そう思った。
水面に映る桜が
すごく、
艶やか。
そんな今日この頃。
日曜、
珍しく
婚礼が少なく暇な日で
あたしは日曜なのに
夕方出勤。
でも
ずっとコウさんと一緒に
居られる日で
あたしは
通勤中から、
ずっと決めていた。
今日、仕事終わったら
コウさんと
夜桜を見に行こう。
出勤して
宴席の準備しながら、
あたしは
コウさんに言った。
―ねぇ、コウさん。
お花見しよう?
コウさんは笑う。
―いーよ。いつ?
―今日!!
―今日?!
―うん。だって、桜満開だよ?
―今日?
―夜桜、見たいの。
―どこの?
―川沿い。
―でも、今日…
言い掛けたコウさんの言葉を
あたしは
張り切って遮る。
満面の笑みで。
―仕事なら、あたしが
絶対早く終わらせる。
30分でも、10分でもいいの。
終電まででいいから!
日曜は、
終電が早い。
そして
休日は駐車場の関係で
車で出勤出来ないのを
あたしは
ちゃんと知っている。
コウさんは
諦めた、と言うように
軽く両手を上げて
そして
言った。
―いいよ、行こう。
にっこりと
コウさんが笑う。
あたしは
子供みたいに
はしゃいで
喜んだ。
―じゃあ、ちゃっちゃと
この宴席終わらせますか!
―うん!!
これでもか!
と
言わんばかり。
パワフルに働いて
片付けも
次の宴席の準備も、
何もかも
完璧に終わらせて
それでも
時刻は22:30。
コウさんの終電まで
約90分。
コウさんが
伝票を〆ながら
あたしに言った。
―もう、いいよ。
先上がって?
いつもなら、
まずコウさんは
そんな事言わない。
例え他の上司の関係上、
そう言ったとしても
あたしは
何かと理由をつけては
コウさんと一緒に
伝票を〆るのを手伝い、
一緒に上がる。
でも
あたしの方が支度に時間かかるし
コウさんが
言いながら
そう、目で合図したので
あたしは
素直に、上がった。
―じゃ、お疲れ様でしたー。
コウさんが伝票に目を落としたまま
ひらひらと
手を振る。
周りの人達は
あたしが素直に上がるのを
不思議がりながらも
口々に、
お疲れ様でした、
と言う。
あたしは
事務所を出る一瞬、
コウさんを見る。
じゃあ、また後で。
そう
アイコンタクトで告げて。
視界の隅で
コウさんが微笑んで
頷いたのを見て
あたしはロッカーへ。
着替えて
身支度を整えて
ロッカーを出ようとした時
コウさんからの着信。
―今、どこ?
―あたし今ロッカー出るよ。
―あ、俺も。
―お!ナイスタイミング。
―じゃあ、上で。
―うん。
地下のロッカーから
階段を上がり
社員通用口を出て
外に出ると
私服姿のコウさんに会えた。
―結局俺の方が先だね。
―ね。
お待たせ。
―行こっか。
―うん!
最寄り駅を越えて
繁華街に入る。
会社から出て
少し距離をとって
並んで歩いていたのが
少しずつ、
少しずつ、
近づく。
繁華街に入った辺りで
コウさんと
肩が触れた。
日曜の夜なのに
人がやけに多くて
酔っ払いが目立つ。
あたしは
コウさんのシャツの裾を
そっと
掴んだ。
コウさんが
くるっと辺りを見回して
ニッと笑う。
―誰も、見てないよ。
―え?
聞き返したと同時に
コウさんが
そっと
あたしの手を握った。
あたしは
嬉しくて
素直に笑いながら
コウさんを
斜め上に見上げて
言う。
―ありがと。
コウさんも
照れたように
繋いだ手を振り回して
―どーいたしまして。
笑った。
繁華街を抜けると
川沿いに出る。
提灯が点って
満開の桜をぼんやり照らす。
やさしい光が
川面に揺れる。
―おー。きれいだなぁ。
―でしょ?
―ちょうど見頃じゃない?
―でしょお?
あたしは自慢気に言ってみる。
―ありがとね。
―ん?
―夜桜。誘ってくれて。
―なんで?
―え?
―何で、コウさんがありがとう言っちゃうの。
―や、だって。
―いいの。あたしが
コウさんと見たかったんだから!
あたしの我が儘だよ。
だから、あたしがありがとうって
言わなきゃなのに。
―ぷ。
コウさんが笑いだす。
―そんな、ムキになんなくても
―だって!
―はいはい、
じゃあ、言ってごらん。
―うー。
なんか、そう言われるとなぁ。
―おっ。素直じゃないな。
―あ、嘘!うそだもん。
―ん。
コウさんが片方の眉だけ
ひょい、と持ち上げる。
―ありがとう。
コウさん、一緒に来てくれて
ありがと。
―どーいたしましてー。
満開の桜の下
ゆっくり
手を繋いで歩いた。
残酷過ぎる程
幸せで
あっという間の
春の夜。
1時間だけの
手のぬくもりを
あたしは
終電に乗せて
手放す。
あるべき場所に
帰す為。
桜は散っていく。
舞い散って
流れていく。
幸せを噛み締めた
その奥歯の
小さな痛みを
あたしは
気付かないふりで
知らん顔。
すきだよ。
ねぇ、
だいすきだよ。
苦しいまま
舞い散る。
想い。
あたしは
春が好きで
桜も
好き。
通勤道に
この近所じゃあ
割と有名な
桜の名所があって
出勤前、
満開の桜と
人混みを横目に
あたしは
その桜並木を
コウさんと歩きたい、
と
ぼんやり思う。
川沿いに
ずっと、並んだ桜。
平行して
提灯が走る。
広い歩道の上に
ずらっと屋台や出店が並び
まさに
春の夜の、祭り騒ぎ。
田舎から出てきて
初めてこの桜を見た時
こんなに綺麗な夜桜は
なかなか
創れない。
そう思った。
水面に映る桜が
すごく、
艶やか。
そんな今日この頃。
日曜、
珍しく
婚礼が少なく暇な日で
あたしは日曜なのに
夕方出勤。
でも
ずっとコウさんと一緒に
居られる日で
あたしは
通勤中から、
ずっと決めていた。
今日、仕事終わったら
コウさんと
夜桜を見に行こう。
出勤して
宴席の準備しながら、
あたしは
コウさんに言った。
―ねぇ、コウさん。
お花見しよう?
コウさんは笑う。
―いーよ。いつ?
―今日!!
―今日?!
―うん。だって、桜満開だよ?
―今日?
―夜桜、見たいの。
―どこの?
―川沿い。
―でも、今日…
言い掛けたコウさんの言葉を
あたしは
張り切って遮る。
満面の笑みで。
―仕事なら、あたしが
絶対早く終わらせる。
30分でも、10分でもいいの。
終電まででいいから!
日曜は、
終電が早い。
そして
休日は駐車場の関係で
車で出勤出来ないのを
あたしは
ちゃんと知っている。
コウさんは
諦めた、と言うように
軽く両手を上げて
そして
言った。
―いいよ、行こう。
にっこりと
コウさんが笑う。
あたしは
子供みたいに
はしゃいで
喜んだ。
―じゃあ、ちゃっちゃと
この宴席終わらせますか!
―うん!!
これでもか!
と
言わんばかり。
パワフルに働いて
片付けも
次の宴席の準備も、
何もかも
完璧に終わらせて
それでも
時刻は22:30。
コウさんの終電まで
約90分。
コウさんが
伝票を〆ながら
あたしに言った。
―もう、いいよ。
先上がって?
いつもなら、
まずコウさんは
そんな事言わない。
例え他の上司の関係上、
そう言ったとしても
あたしは
何かと理由をつけては
コウさんと一緒に
伝票を〆るのを手伝い、
一緒に上がる。
でも
あたしの方が支度に時間かかるし
コウさんが
言いながら
そう、目で合図したので
あたしは
素直に、上がった。
―じゃ、お疲れ様でしたー。
コウさんが伝票に目を落としたまま
ひらひらと
手を振る。
周りの人達は
あたしが素直に上がるのを
不思議がりながらも
口々に、
お疲れ様でした、
と言う。
あたしは
事務所を出る一瞬、
コウさんを見る。
じゃあ、また後で。
そう
アイコンタクトで告げて。
視界の隅で
コウさんが微笑んで
頷いたのを見て
あたしはロッカーへ。
着替えて
身支度を整えて
ロッカーを出ようとした時
コウさんからの着信。
―今、どこ?
―あたし今ロッカー出るよ。
―あ、俺も。
―お!ナイスタイミング。
―じゃあ、上で。
―うん。
地下のロッカーから
階段を上がり
社員通用口を出て
外に出ると
私服姿のコウさんに会えた。
―結局俺の方が先だね。
―ね。
お待たせ。
―行こっか。
―うん!
最寄り駅を越えて
繁華街に入る。
会社から出て
少し距離をとって
並んで歩いていたのが
少しずつ、
少しずつ、
近づく。
繁華街に入った辺りで
コウさんと
肩が触れた。
日曜の夜なのに
人がやけに多くて
酔っ払いが目立つ。
あたしは
コウさんのシャツの裾を
そっと
掴んだ。
コウさんが
くるっと辺りを見回して
ニッと笑う。
―誰も、見てないよ。
―え?
聞き返したと同時に
コウさんが
そっと
あたしの手を握った。
あたしは
嬉しくて
素直に笑いながら
コウさんを
斜め上に見上げて
言う。
―ありがと。
コウさんも
照れたように
繋いだ手を振り回して
―どーいたしまして。
笑った。
繁華街を抜けると
川沿いに出る。
提灯が点って
満開の桜をぼんやり照らす。
やさしい光が
川面に揺れる。
―おー。きれいだなぁ。
―でしょ?
―ちょうど見頃じゃない?
―でしょお?
あたしは自慢気に言ってみる。
―ありがとね。
―ん?
―夜桜。誘ってくれて。
―なんで?
―え?
―何で、コウさんがありがとう言っちゃうの。
―や、だって。
―いいの。あたしが
コウさんと見たかったんだから!
あたしの我が儘だよ。
だから、あたしがありがとうって
言わなきゃなのに。
―ぷ。
コウさんが笑いだす。
―そんな、ムキになんなくても
―だって!
―はいはい、
じゃあ、言ってごらん。
―うー。
なんか、そう言われるとなぁ。
―おっ。素直じゃないな。
―あ、嘘!うそだもん。
―ん。
コウさんが片方の眉だけ
ひょい、と持ち上げる。
―ありがとう。
コウさん、一緒に来てくれて
ありがと。
―どーいたしましてー。
満開の桜の下
ゆっくり
手を繋いで歩いた。
残酷過ぎる程
幸せで
あっという間の
春の夜。
1時間だけの
手のぬくもりを
あたしは
終電に乗せて
手放す。
あるべき場所に
帰す為。
桜は散っていく。
舞い散って
流れていく。
幸せを噛み締めた
その奥歯の
小さな痛みを
あたしは
気付かないふりで
知らん顔。
すきだよ。
ねぇ、
だいすきだよ。
苦しいまま
舞い散る。
想い。