『なんぞころびやおき さいはひよいち篇』
⑬
峠杣一日・著
花吹雪(はなふぶき)の中、笹媛お亀(さひめおかめ)と五本松三火(ごほんまつみほ)の熱唱(ねっしゃう)が春めきを謳歌(おうか)してゐる。
そんな演歌(うた)の会場(くわいぢゃう)に、マドーを追ってやって来たお冥(おみゃう)。
はて、マドーは何処(いづこ)。
「お冥、向かふに綿飴(わたあめ)屋があるよ!
好きでしょ!」
視界を遮(さえぎ)って現れ、ぐいぐいとお冥の袖(そで)を引っ張るお妖(おえう)とお卅美(おみみ)。
「何だよ、今マドーを捜(さが)して……!!」
二人を振り払はふとしたお冥の目が、客席に圓彦(まどひこ・マドー)を見付けたが……。
「な!
何であの女と?!
バカな!!」
圓彦の隣席(りんせき)には、白鷲天狗(しろわしてんぐ)の媛君(ひめぎみ)お幽(おいう)が居(ゐ)た。
「見付けちゃったかぁ……って、いや!
あれは他人の空似(そらに)、そっくりさん達だよ、きっと!」
「うん!
二人ともホント似てるけど!
でも、違ふ人だよ!
マドーでもお幽でも、きっとないわ!」
お妖とお卅美が満身(まんしん)の力でお冥を引き摺(ず)って行(ゆ)かうとする。
しかし、不動の山塊(さんくわい)と化(くわ)したお冥は既(すで)に鉤手裡剣(かぎしゅりけん)を構(かま)へてゐるのだった。
恋は自(おの)づから(ほしい)、愛は自(みづか)ら(あげる)、表裏一体(へうりいったい)。
生命の核心(かくしん)、春の氣吹(いぶき)なのだ。
【よいこのみんなの合言葉を唱へよう♪】
〽️
いやさかえ
いのちいやちこ
さいはひよいち
まほらとこいは
みつのたま
南無あれかし大明神
南無あれかし大明神
南無あれかし大明神
つづく。