『なんぞころびやおき さいはひよいち篇』
⑥
峠杣一日・著
あれかし山の中腹、あれかし大明神まで登って来た蓮権現転何(はちすごんげんころびなんぞ)。
はて、境内(けいだい)に佇(たたず)む人影がひとつ。
転何と同じく、つるっ禿(ぱげ)のミラーボールが最早(もはや)神々(かうがう)しい翁(おきな)だ。
や、これは不思議……謎の翁は転何と瓜二(うりふた)つである。
今、生前の転何の幻と、死後の転何たる蓮権現とが二重写し(オーバーラップ)する。
眩(まばゆ)い閃光(せんくわう)!
その中に、無数の人影が見えた。
転何の父亘(わたる)、母お環(おたま)、ぢいさん、ばあさん、ひいのぢぢばば……御先祖大集合だ。
そして彼等のそのまた御先祖は森羅萬象(しんらばんしゃう)、萬有萬物(ばんいうばんぶつ)。
八百(やほ)と萬(よろづ)の起こりは、自の心(はじめのこころ)ただひとつ。
そんな自(絶対)に結ぶ心(三つ子の合ひ鍵)は、息の裡(うち)に宿ってゐる。
全ての御先祖森羅萬象は、私達一人ひとりの息の中にひとつに結んであるのだ。
古来(こらい)このことを、息瑤(おきたま)とも瑤大蛇(たまをろち)とも呼び慣(なら)はし伝へてゐる。
「やあ、蓮(はちす)の旦那(だんな)ぢゃないか」
の声に、我に返った転何。
目の前には、巫女装束(みこしゃうぞく)に藁箒(わらばうき)を持った鬼火のお鈴(おにびのおすず)が立ってゐた。
【よいこのみんなの合言葉を唱へよう♪】
〽️
いやさかえ
いのちいやちこ
さいはひよいち
まほらとこいは
みつのたま
南無あれかし大明神
南無あれかし大明神
南無あれかし大明神
つづく。