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峠杣一日・著
無数の姫螢(ひめぼたる)が光度(くわうど)を増し眩(まばゆ)い光の玉に変はると、地蔵尼(ぢざうに)の左の掌(たなうら)に収(をさ)まった。
その宝珠(ほうじゅ)の中に、葈耳翁(をなもみぢぢい)と兇薬梟(きょうやくけう)は居た。
天網恢々(てんまうくわいくわい)閻魔の庁(えんまのちゃう)、命の関所(いのちのせきしょ)を擦(す)り抜ける事は出来ないのである。
先代閻王(せんだいえんわう)地蔵尼の瞳に紅焰(こうえん)が舞ふと、光の宝珠は太陽の輝きを放つ。
瞬時(しゅんじ)に燃え尽きた二人、無論(むろん)一片(いっぺん)の灰(はひ)も残りはしなかった。
月夜に聳(そび)える地蔵尼。
その肩には魂カメラ(たまかめら)のお兆(おとき)が腰掛けて、兇興翁(きょうきょうをう)と兇薬(きょうやく)の死を凝視(ぎょうし)してゐた。
ここは伯耆国(はうきのくに)の神の山、火神岳(ほのかみだけ)である。
しかし!
「兇興翁(わるおこしのぢいさん)、これが俺の最期(さいご)の一手(いって)だ!
死んだとて!
死んだとて!
死んで堪(たま)るかっ!!」
死の直前、兇薬師(わるくすし)絶叫(ぜっけう)の梟鏡変化(けうきゃうへんげ)!
兇興翁はその自決(じけつ)の丸薬(ぐわんやく)を確かに呑んで後、焰(ほのほ)に呑み込まれたのであった。
肉体といふものは、何物にも代へ難(がた)いものだ。
世の、究極(きうきょく)の秘宝(ひほう)なのだ。
その至宝(しほう)を司(つかさど)るのが、地蔵尊(ぢざうそん)なのである。
【よいこのみんなの合言葉を唱へよう♪】
〽️
いやさかえ
いのちいやちこ
さいはひよいち
まほらとこいは
みつのたま
南無あれかし大明神
南無あれかし大明神
南無あれかし大明神
つづく。