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峠杣一日・著
兇興翁(きょうきょうをう)と兇薬(きょうやく)の二人は見知らぬ町を彷徨(さまよ)ひ、当てもなく歩き続けてゐた。
何処(どこ)も彼処(かしこ)も怪(け)しからん、天誅(てんちゅう)の対象者(たいしゃうしゃ)ばかり。
萬把党(まんぱたう)の活動第一弾は始終(しじゅう)毒ガスを撒(ま)き散らす無差別殺人鬼に的を絞(しぼ)ったものだったが、ここには第二第三第四第五……の標的(へうてき)と定めるありとあらゆる蛆虫共(うじむしども)もごまんと蠢(うごめ)いてゐた。
「何と、我等は氣狂(きちが)ひの衢(ちまた)に迷ふてしまったのか」
「しかし妙(めう)だ。
彼奴等(きゃつら)、まるで生氣(せいき)の無い抜け殻(ぬけがら)ではないか」
「なるほど。
すると兇興翁(すっとこどっこいのぢいさん)、我等はやはり死んでしまったといふことか」
「口惜(くちを)しいが、あのくり眼(くりめ・くり眼(がん)カメラ)に魂を抜かれたのぢゃ。
奴等(やつら)もさうであらう。
ここは死者の、魂の抜け殻の処分場(しょぶんじゃう)なのぢゃらう」
「残念だよ、兇興翁(くそぢぢい)。
俺の奥の手は、夢物語と消えたわけなのだな」
「さう氣を落とすな、兇薬。
閻魔の庁(えんまのちゃう)は命の関所(いのちのせきしょ)、抗(あらが)へる者はをらぬのぢゃ」
「何だよ、わい(私)は神ぢゃなかったのかよ兇興翁(ぼけなすぢぢい)。
ぢゃあ後は、ここで完全消滅の時をひたすらに待つだけだといふのか」
「うおい。
いつにもまして口が悪いな、兇薬」
「え?
だって、もう死んだんだし。
何もかも関係ないし、どうでもいいだらうよ」
「ばかな。
わい等の、正義の魂はどうしたのぢゃ。
萬把党はいづれ、一人萬殺(ひとりまんさつ)の魂盟団(こんめいだん)となってこの昏迷(こんめい)の世を救ふのであるぞ!」
「だからもう死んだし、魂もなくなっちゃったんだから後の祭(あとのまつり)よ。
それに、何だか俺は晴々(せいせい)した氣分だよ」
唖然(あぜん)とする兇興翁に構はず、立ち去らうとする兇薬。
「待て」と発しかかる兇興翁を片手で制すると……
「さらばだぜ、兇興翁(ペテンぢいさん)。
達者(たっしゃ)でな」
くるりと背を向け、町の中へ消えてしまった。
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【よいこのみんなの合言葉を唱へよう♪】
〽️
いやさかえ
いのちいやちこ
さいはひよいち
まほらとこいは
みつのたま
南無あれかし大明神
南無あれかし大明神
南無あれかし大明神
つづく。