(26)
峠杣一日・著
「何たることか……わい(私)は死んだといふのか、神であるこのわいが」
兇興翁(きょうきょうをう)は困惑(こんわく)、動揺(どうえう)してゐた。
ここは火神岳(ほのかみだけ)、閻魔(えんま)の庁(ちゃう)。
兇興翁と兇薬(きょうやく)は、阿防羅刹(あばうらせつ)に取り巻かれて閻魔王(えんまわう)の白洲(しらす)へやって来た。
二人の眼前には女閻王(をんなえんわう)お光(おみつ)が座し、閻魔帳(えんまちゃう)を捲(めく)ってゐる。
やあ、お光の夫(をっと)山刀斎(さんたうさい)と先代(せんだい)閻王地蔵尼(ぢざうに)の姿も見える。
お光が烏天狗(からすてんぐ)の羽根筆(はねふで)を走らせ、版行(はんかう・判子)を撞(つ)いた。
羅刹女(らせつにょ)の一人がちりりんと呼び鈴(よびりん)を鳴らすと、空間に浮き出るやうに忽然(こつぜん)と大きな目玉が現れた。
全貌(ぜんばう)が見えるとそれは恰(あたか)も目玉レンズの二眼レフカメラ、ファインダーには一文字「魂」(たましひ)とある。
「はい、そのまま」とシャッターを切ったのは長い緑の黒髪(みどりのくろかみ)、山刀斎とお光の娘お兆(おとき)。
「ぢゃ」
写真を羅刹女に手渡すと、忙しさうにカメラごとまたすうっと姿を消すのだった。
さて、お光が両手にそれぞれの写真を持ち、兇興翁と兇薬に見せた。
文字通り魂消(たまげ)ちゃふ、魂写(たまうつ)しの写真だった。
「兇興翁(わるおこしぢぢい)。
兇薬師(わるくすし)。
両名(しゃうめい)、御苦労さん」
お光が言ふや否(いな)や、二人の魂の写真が燃え上がり灰(はひ)も残さずに烟(けぶり)と舞ふ。
同時に二人の姿も、無数の腐眼弾丸(くされめだま)となって崩(くづ)れ落ちながら消滅してゆく。
生命たる三つ子の魂が、解体されたのである。
【よいこのみんなの合言葉を唱へよう♪】
〽️
いやさかえ
いのちいやちこ
さいはひよいち
まほらとこいは
みつのたま
南無あれかし大明神
南無あれかし大明神
南無あれかし大明神
つづく。