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峠杣一日・著
月面の東屋(あづまや)。
宇宙の至宝(しほう)地球の姿を愛(め)でながら薄茶(うすちゃ)を点(た)ててゐるのは月の女神お玲(おたま)(飯かぐや(いひかぐや)の母)である。
その前に座って居るのは伯耆国火神岳(はうきのくにほのかみだけ)(大山だいせん)の閻魔母神(えんまぼしん)お光(おみつ)と烏天狗(からすてんぐ)の頭(かしら)山刀斎(さんたうさい)の夫婦。
それに出雲国佐比売山(いづものくにさひめやま)(三瓶山さんべさん)の黄金弁財天(わうごんべんざいてん)と侍女(じぢょ)のお市(おいち)である。
と其処へ機関摩天楼(からくりまてんろう)高下駄(たかげた)の乗物が飛来、格納庫(かくなふこ)へ消えると、お玲の妹お夕(おゆふ)と三徳山伏(みとくやまぶし)日出翁(ひのでをう)の夫婦が東屋へ登って来た。
「いやあ、家(うち)の琥珀丸(こはくまる)も搦(から)んで何とも愉快(ゆくわい)な事になっちゃったわ」
お夕が口火(くちび)を切ると、お玲、お光、出雲弁天、お市も堰(せき)を切ってきゃあきゃあ。
銘柄(めいくわ)・月虹宝珠(げっこうほうじゅ)(煉り切り(ねりきり))に舌鼓(したつづみ)を打ち鳴らしつつ、茶会に花が咲くのであった。
「え、その話なの?
今それ?」
といふ山刀斎と日出翁の声は、何処吹く風(どこふくかぜ)と掻(か)き消えるのだった。
その頃、梟鏡舟(けうきゃうぶね)は焰星(ほのほぼし)火星(くわせい)へと舵(かぢ)を取ってゐた。
「ふほう!
第二梟鏡宇宙船足(だいにけうきゃううちうせんそく)!
宜う候(ようそろ)!」
【よいこのみんなの合言葉を唱へよう♪】
いちよあれかし、さいはひよいち。
まほらよいちそはか、南無あれかし大明神!
つづく。