(27)
峠杣一日・著
その頃、伯耆国(はうきのくに)の東郷池(とうがういけ)。
夕暮れの野天風呂を楽しんでゐるのは三徳理(みのりあや)と義妹(ぎまい・弟嫁)の飯かぐや(いひかぐや)、それにどういふ訳かお冥(おみゃう・邪悪兇冥じゃあくきよみ)である。
梟鏡教(けうきゃうけう)アジト大爆発の音が、黄昏(たそがれ)の空を震(ふる)はせて響(ひび)いた。
「あら、何の明かりかしら」
夕陽(ゆふひ)を背にした理(あや)が、東の空を指差す。
「お冥ちゃん?」
ただならぬ氣配(けはい)を感じ取ってゐたかぐやが、様子ありげに立ち尽くすお冥を見る。
「あれは……あれは……」
言ひ淀(よど)むお冥であったが、
「大丈夫よ」
さう言って、そっとお冥の手を取るかぐや。
はて、どこからか狼(おほかみ)の遠吠(とほぼ)えが聞こえる。
それは、三徳山(みとくさん)の頂(いただき)に居た。
真っ白な老狼(らうらう)だ。
その頭上(づじゃう)には、空飛ぶ高下駄(たかげた)で宙(ちう)に浮かぶお夕(おゆふ)の姿があった。
因(ちな)みに、お夕は理(あや)の義母(ぎぼ)でありかぐやの叔母(をば)である。
またお夕とかぐやは月の天女(てんにょ)であり、白狼(はくらう)はその眷族(けんぞく)とも守護神(しゅごしん)とも云(い)ふ。
【よいこのみんなの合言葉を唱へよう♪】
いちよあれかし、さいはひよいち。
まほらよいちそはか、南無あれかし大明神!
つづく。