『なんぞころびやおき 女神御前篇』
(29)
峠杣一日・著
「きゃあ!」
極楽浄土(ごくらくじゃうど)の小蛇娘(ころちむすめ)お嶺(おみね)があれかし山(あれかしやま)の中腹、峠杣屋敷(たうげそまやしき)の上空に差し掛かると、屋敷からひゅっと飛んで来た風呂敷(ふろしき)にくるりと包み込まれてしまった。
山頂の異変(いへん)を察知(さっち)した鬼燈(ほゝづき)が、風呂敷を意(い)のまゝに飛ばして操(あやつ)る得意の秘技(ひぎ)でお嶺(おみね)を捕らへたのである。
ひょいと頸根っ子(くびねっこ)を摘(つ)まゝれ、ぶらりと持ち上げられたお嶺(おみね)。
「あのゝゝ、素敵なおばあさん。
私を助けて呉(く)れたなら、死後は屹度(きっと)極楽浄土にお連れいたします」
と必死に頑張るも…。
「ほう、そりゃいゝねえ。
でも私ゃ、浄土手形(じゃうどてがた)は持ってゐるのさ」
と鬼燈(ほゝづき)が言ふやいなやあな不思議、二人の姿は何とも大きな掌(たなうら)の上にあった。
満天の星空に聳(そび)える、巨大な御佛(みほとけ)の姿。
あれかし山(あれかしやま)の麓(ふもと)の常鏡寺(じゃうきゃうじ)、其の本尊(ほんぞん)、氣巳観音(きみくわんおん)である。
![190828_163840.jpg](https://stat.ameba.jp/user_images/20190828/16/cocochiyosa/72/60/j/t02200165_4128309614555642503.jpg?caw=800)
つゞく。