『なんぞころびやおき 女神御前篇』
(26)
峠杣一日・著
曾孫(ひまご)達を寝かし付けた鬼燈(ほゝづき)が居間に戻って来ると、螢火のお総(ほたるびのおふさ)に叩き起こされた一日翁(いちにちをう)に余一(よいち)、豆鼕翁(とうゝゝをう)の三人がちょこなんと畏(かしこ)まってゐた。
あの時、座敷牢(ざしきらう)に豆鼕変化(とうゝゝへんげ)してゐた豆鼕翁(とうゝゝをう)、「儂(わし)は関係無いし、迸(とばっち)り」と訴(うった)へたものゝ、「こっそり鼻の下伸びてたぢゃん。まあ関係無いけど、もう序(つい)でだし」とお総(おふさ)必殺の氣剣術(きけんじゅつ)に三人纏(まと)めて倒されたのであった。
鼻の下が長くなるのは万古不易(ばんこふえき)の真理(しんり)なれば死んでも治るべくもなく死する事も無い、然(さ)うだ、常(とは・永遠)を生きてゐるからこそなのだ…といった事は扨措(さてお)き。
「好(い)い加減正氣(しゃうき)に戻ったかい、時間だよ」
鬼燈(ほゝづき)に留守番を頼み、空を飛ぶ螢火(ほたるび)の乗り物であれかし山の頂(いたゞき)に向かふ四人。
早苗(さなへ)囁(さゝや)く遠近(をちこち)の水田(みづた)に、耀(かゞや)く流れ星が幾条(いくすぢ)もの尾(を)を描いて降り頻(しき)る。
と見えるのは、姫山(ひめやま)から放たれた八百万(やほよろづ・無数)の産霊緒の壺(むすびをのつぼ)が、山陰(島根県鳥取県)の各地へと飛んで行く姿であった。
今、其の内のひとつが、あれかし山に針路(しんろ)をとってゐた。
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つゞく。