『なんぞころびやおき 女神御前篇』
⑧
峠杣一日・著
達磨嶋毛助(だるまじまのけすけ)は山陰本線揖屋駅(さんいんほんせんいやえき)から列車に乗り、宍道駅(しんぢえき)で木次線(きすきせん)に乗り換へて、今、木次駅(きすきえき)に着いた。
「見届けて御出でなさいよ」
揖屋(いや)の喫茶店・よもつ鏡(よもつかゞみ)で声を掛けて来た老婦人に言はれるまゝ、半信半疑でやって来たのであった。
やがて聞いてゐた臨時列車がプラットホームに到着したのだが、人々は誰も見向きもしない、否(いな)、彼等には列車が見えてゐない様である。
発車の合図にも乗車を躊躇(ためら)ふ毛助(けすけ)であったが、突如弾(はじ)かれた様に列車に飛び乗った。
毛助(けすけ)は、見たのである。
車窓の向かふに、彼(あ)の揖夜神社(いやじんじゃ)の神鏡に現れたもう一人の自分自身の姿を。
つゞく。