『なんぞころびやおき』
(37)
峠杣一日・著
一日翁(いちにちをう)が夢の中で黄金大黒天(わうごんだいこくてん)に出合ったのは、不惑(ふわく)に差し掛かる一年前の事であった。
そして一日翁(いちにちをう)の夢から六年後、転何(ころびなんぞ)も黄金大黒天(わうごんだいこくてん)の夢を結んだのである。
其れは、若き日の人生をふはゝゝと漂ってゐた一日翁(いちにちをう)が黄金大黒天に打ち出の小槌(うちでのこづち)で小衝(こづ)かれ乍(なが)らも導(みちび)かれ、漸(やうや)う『扨抑双紙 以千代安礼賀志』を著(あらは)した年でもあった。
転何(ころびなんぞ)の生涯は其処で幕を閉ぢたが、後(のち)に本来の姿、蓮権現(はちすごんげん)としての働きが待ってゐた。
また、一日翁(いちにちをう)の人生は其処から新たな幕を切って落とす事となったのである。
つゞく。