『なんぞころびやおき』
(32)
峠杣一日・著
「待てい!」
天地(あめつち)を揺(ゆ)るがす、裂帛(れっぱく)の大音声(だいおんじゃう)。
見よ、贋宝船(にせたからぶね)の行(ゆ)く手に浮かぶ蛍火(ほたるび)の乗り物。
其の鈴の形をした灯(あか)りの上に、仁王立(にわうだ)ちで豆鉄砲(まめでっぱう)を構(かま)へるのは峠杣(たうげそま)の一日翁(いちにちをう)だ。
「月虹豆鉄砲(げっこうまめでっぱう)、そいやっ!」
今、月虹の水(げっこうのみづ)を充填(じゅうてん)した弾丸(だんぐわん)が、贋宝船(にせたからぶね)の真正面(ましゃうめん)へと放(はな)たれたのであった。
つゞく。