あれかし大明神
~扨抑物語 第二幕 97
峠杣一日・著
九十七、
お晴(はる)が簪(かんざし)の花にふっと息を吹くと、切火(きりび)が飛ぶ。
其の火花を星蔵(ほしざう)が杖に絡(から)ませて、ぐるゝゝぽおんと打ち出す。
すると一(いち)よあれかしの祝詞(のりと)と共に灯台に吸ひ込まれ、灯光に変はった。
さて、霧(きり)の上空で待機(たいき)して居た黄金の宝船(くがねのたからぶね)。
主立(おもだ)った顔触れが乗って居る。
「やった、灯台の明かりが戻ったぞ」
千里眼(せんりがん)の一つ目法師(ひとつめほふし)の言葉を合図に、
「それっ」
一斉(いっせい)に色取りどりの無数の短冊(たんざく)が、黄金の宝船から霧の川面に撒(ま)かれ始めた。
まるで、宝船の泉から滝と降る様である。
短冊はさらゝゝ、さらゝゝと流れて川の霧を晴らせて行く。
短冊は、お香(たか)達が人々の真心を織(お)り込んだ綾布(あやぬの)であった。
「おゝ、豆仙人(まめせんにん)殿。
大成功ですな」
と宝棒(ほうゞゝ)をくるり、山城国(やましろのくに)は鞍馬(くらま)の毘沙門天(びしゃもんてん)。
備後国(びんごのくに)は弥勒(みろく)の布袋法師(ほていほふし)、筑前国(ちくぜんのくに)の心星蔵(しんのほしざう)の姿も見える。
因(ちな)みに、心星蔵(しんのほしざう)は寿老人(じゅらうじん)、金星蔵(きんのほしざう)は福禄寿(ふくろくじゅ)なので、やれ七福神も打ち揃(そろ)って上船して居るのだった。
黄金の宝船、着水。
何処迄(どこまで)も輝き渡る、本来の姿を取り戻した宇宙の大川。
さう、此処(こゝ)は天の川であった。
つゞく