あれかし大明神
~扨抑物語 第二幕 81
峠杣一日・著
八十一、
「おゝい、雷(あづま)の」
峠(たうげ)から手を振るのは草鞋隠士(わらぢいんし)。
此処(こゝ)は日本海(にほんかい)と瀬戸内海(せとないかい)との分水嶺(ぶんすいれい)、室原山(むろはらやま)である。
「皆さん久しいですな。
実(まめ)でしたかいの」
と妻夫雷(めをとあづま)が降り立つと、虫蔵(むしざう)、大石入道(おほいはにふだう)、お森(しげ)も東屋(あづまや)から出て来た。
茶話をして居る内に、
神原(かんばら)の斎角(ゆづぬ)、
伊我山(いがやま)の日根居士(ひのねこじ)、
御井(みゐ)の里の蓮仙人(はちすせんにん)に蓮嫗(はちすおうな)、
みなり山の日出居士(ひのでこじ)にお夕(ゆふ)、
枕木山(まくらぎさん)の壺舟和尚(こしうをしゃう)、
開眼薬師(かいげんやくし)の一つ目法師、
大黒天に恵比須さん、
姫山(ひめやま)の弁財天と侍女(じぢょ)のお市(いち)、
神山(かみやま)の一三斎(いちざうさい)と山刀坊(さんたうばう)…
黄金(くがね)の宝船たる磐船(いはふね)、出雲国(いづものくに)、伯耆国(はうきのくに)、隠岐国(おきのくに)の全域から、其処に生きる命を陰乍(かげなが)ら支へて居る常(とは)の魂が続々と集まって来た。
つゞく