扨抑物語 第二幕
峠杣一日
二十六、
黄金の宝船の舳(へさき)と神山(大山)、また艫(とも)と姫山(三瓶山)とを結んだ真ん中あたりに、出雲国の中心地があり、現在にも伝はる内の一つに熊野大社がある。
今日は春祭り。
早乙女姿で御田植(みたうゑ)神事を奉仕する飯理(いひ あや)も、やはりこの春から中学三年生になってゐた。
代々此の地に暮らす、農家の娘である。
此の理もまた、変はった夢を見た後であった。
さう、春休みの終り、母が胸に下げてゐるペンダントを何氣無く見てゐると、
『学校に持ってっちゃいけんよ』
と微笑みながら、理の首に懸けてくれた。
六㎝程の青瑪瑙(あをめなう)の曲玉で、吸ひ込まれさうな深みを帯びてゐる。
夜、床に就いても何だかどきゝゝ。
やがて、胸の上で握り締めたまゝ夢を結んだ。
つゞく