扨抑物語 第二幕
峠杣一日
二十四、
啓の父は、役場勤め。
母は元教諭で、今は主婦に納まって居るが、山刀坊の姉にして薙刀(なぎなた)の使ひ手、女烏天狗である。
其の薙刀の刀身には、常(とは)の精神が、怒りを努(つと)めへと導く光と宿ってゐる。
怒りは、一の欠如を糺(たゞ)し導く事を本質として現れる。
が、如何(いかん)せん、心だけではふらゝゝ心許(こゝろもと)ない。
怒りに、順行の精神が宿る事で、常の努めへと鎮まる理。
其れを、主婦の傍ら、薙刀の門人達にも教へてゐる。
因みに、性欲というのも、原理は同じく一に基づく働きなので、思ひ悩む事ではない。
理に努めよと、厳しくも明け透けな母。
啓に芽生えた常の苗も、やはりじんわりと育まれつゝあった。
つゞく