扨抑物語 第二幕
峠杣一日
十二、
神山(かみやま)の屋敷に、地蔵尼(ぢざうに)の娘、閻魔(えんま)のお光(みつ)は居た。
宝珠(ほうじゅ)の形の練り菓子を摘(つ)まみつゝ、山へ参詣(さんけい)する人の心の声に耳を傾けてゐる。
聞いてゐるといふより、人々の三つ子の魂、其の順行精神の度合(どあ)ひを量(はか)ってゐるのだ。
お光は、ずっと人々を見て来た。
人は、常(とは)の理(ことわり)に結ばぬ限り変(かは)れない。
種なしの根なし草に、花実(はなみ)は咲かない道理。
剰(あまつさ)へ、人は態(わざ)々墓穴を掘って泪で三途(さんづ)の川を作ったり、常(とは)の種を歪(ゆが)めては地獄だと騒がしい。
ともあれ、閻魔のお光は、人の現す一(いち)を見てゐるのだ。
つゞく