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220年から209年の時代になぜか戻ってきてしまったリンゴ。この時代のヴェルンヘルに戸惑いながら、本当のヴェルンヘルはどんな人なのかを探る日々。葛藤を乗り越えて、ヴェルンヘルと付き合いだし、プロポーズされたが終わりが近づいていることをリンゴはなんとなく、察していた
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ヴェルンヘル・ラウル
結婚式当日
少し早いけどウェディングドレスを着てスタンバイ。
落ち着かない。
この世界にきたのは、私の姿が成人する少し前だった。月日は流れ、私は8歳。
十分すぎるくらいに、私はここで過ごした。
朝の誰もいない静かな城下通りを歩いていると、ヴェルンヘルが会いにきてくれた。
私を見つけるなりヴェルンヘルは少し驚いたような表情を浮かべる。
ヴェルンヘル「おはよう」
リンゴ「おはよう」
ヴェルンヘル
「えっと……その………ドレス……すごく似合ってるよ」
彼は少しはにかみながら私のドレス姿を見つめている。
リンゴ
「あ、ありがとう……ヴェルンヘルもカッコいいよ」
ヴェルンヘルに深青の婚礼衣装は彼の輝く髪色と相性がよく似合っていた。
元の世界に早く戻りたいと願っていたのに、こうして終わりが近づくのを感じると、名残惜しい。
大好きな人たちと、二度目の別れがやってくる。
ヴェルンヘル
「………なんだか、今日のリンゴはいつもと違うね」
リンゴ「そう?」
ヴェルンヘル
「まるで、遠い人ようだ」
その一言に、ドキンと心臓が跳ねた。
ざぁぁと風が私たちの間を吹き抜ける。
急に、ヴェルンヘルの目が変わった。
私の知るヴェルンヘルとは違う。
全てを見透かすような、なんとも表現しにくい表情。
私の知らない、ヴェルンヘル・ラウルが目の前にいる。
リンゴ「………」
緊張してるからだよ、そんな言葉が思い浮かぶが、口から出てこない。
それは自分が察していたからだ。
いつから……?
一体、いつから……
「もしかして………気づいていたの?」
恐る恐る、言葉を絞り出した。
ヴェルンヘル
「………………なんとなく」
衝撃の一言だった。私はあんぐり口を開けていたと思う。
リンゴ
「じゃあ………どうして……どうしてプロポーズしてくれたの?」
ヴェルンヘル
「どうしてって………俺の好きなリンゴにはかわらないから」
彼は何故分かりきった事を聞くんだい?と言いたげな顔をしている。
………さすが、向こうの世界では女の子を侍らせて(?)いただけある。女の子ならきっと誰でもオッケーなんじゃないかな……
ヴェルンヘル
「今、妙な誤解をしているでしょう?」
察しのいいヴェルンヘルは私の考えていることはお見通しのようだ。
リンゴ
「え?!えっとそんなことは……さすが将来の王様………女の子はみんな大丈夫って感じなんだね!」
ヴェルンヘル
「俺の話を理解していないようだ」
リンゴ
「それはね、未来のヴェルンヘルの素行の悪さのせいなんだよ💢」
私の理解力とかの問題ではない。
ヴェルンヘル
「そうなの……?俺はなにかしちゃってるの?」
戸惑うヴェルンヘルはいつもより少し幼い顔。
これが演技なら、大したものだと思いながら言葉を続ける。
リンゴ
「それは私が聞きたいくらいだよ…」
それも含めてこっちのヴェルンヘルを観察していたのに結局よく分からない結果になった。
私は220年からきたこと、風の魔女とヴェルンヘルが対決したかもしれないということ、ヴェルンヘルの女癖がすこーし悪いことを伝えた。
ヴェルンヘルは黙り込んでなにか考えている。
その様子は、
ヴェルンヘル陛下にそっくりだった。
リンゴ
「………風の魔女、心当たりがあるんだね」
ヴェルンヘル
「……他国を荒らして回っている気分屋の無慈悲な魔女だよ。最近国際手配されたから多少は知っているけど……」
リンゴ
「ヴェルンヘル陛下が風の魔女に勝つ可能性ってある?」
ずっと、引っかかっていたのはこれだ。
ヴェルンヘル
「………」
彼はこちらの質問にすぐに答えなかった。
分からないというよりは、話すのを躊躇うようなそんな風に見えた。
聡明なヴェルンヘルは私に伝え、未来の自分に支障がでないかを気にしているのかもしれない。
ーーだったらそれを利用しよう。
リンゴ
「このままだと、私は元の世界に戻れたとしても向こうのヴェルンヘルとはまたろくに口も聞かない日々に戻るだけかもしれない………ううん、もうエルネアから出て旅人になろうかな……」
私は哀しげな声をだし、視線を足元に落とした。
ヴェルンヘル
「……え!そ、そんな……あなたがいなくなったら……困るよ」
青年ヴェルンヘルは狼狽える。
ーーかわいい。
リンゴ
「………じゃあ、思いついたこと教えて?」
上目遣いでヴェルンヘルを見つめながら彼の袖を掴んで懇願すると、彼は観念したように息を吐いた。
ヴェルンヘル
「……分かった………俺なら………きっとXさんにもらった弾を使ってるんじゃないかと」
リンゴ
「Xさんからもらった弾?」
ヴェルンヘル
「Xさんの魔力が込められた特殊な弾で、量産ができないから俺は二発、母上が数発持ってる。これは、通常の戦闘では使わない極めて稀な戦闘で使うことを想定されている」
リンゴ「……それは相手が魔法使いの時?」
ヴェルンヘル
「そう。指名手配されるくらい、凶悪な魔法使い………もしくは、自身の魔力を制御できず暴走した者を止める時」
リンゴ
「………」
間違いない……
いなくなった風の魔女は、倒されていた。
ヴェルンヘル陛下に。
リンゴ
「………どうして、そんな危ないことを1人で」
みんなに誤解されて、私には殴られて。
それでもヴェルンヘルは、何も言ってくれなかった。
私はちゃんと気づいてあげれなかった。
ヴェルンヘル
「………武術職を集めて戦闘になれば、相当な犠牲者が出ると予想できる。俺でも、同じことをしていたと思う」
リンゴ
「あなたがしたことなんだけど」
ヴェルンヘル「そうだった」
リンゴ
「どうしてそのあと説明してくれなかったんだろ?」
ヴェルンヘル
「面倒だったとか?」
リンゴ「💢」
真面目でしっかりしているくせにヴェルンヘルの性格からしてありえる……殴りたい。
ヴェルンヘル「すみません……」
私が怒っていることに気づいたヴェルンヘルは謝った。未来の自分の代わりに。
ヴェルンヘル
「あと……未来の時間が止まっていないのなら……… 未来の俺が何もしないで手をこまねいているとは思えないと思う」
リンゴ「そうかな?」
ヴェルンヘル
「…何がなんでも、どんな方法を使ってでも助けようとするはず」
彼の言葉に不安を感じた。
皆の犠牲を考えて、1人で魔女と戦う無謀なところがある。国王としてそれが正解かといわれれば、適切な行動とは思えない。
それは聡明な彼もよく分かっているはすだ。
ヴェルンヘル・ラウルという人間は、適切でないと思う行動でも、大切な人のためにそれを実行してしまう怖さがある。彼は聡明であり、時に愚かな判断を下してしまう時がある。
ヴェルンヘル陛下が妙なことをしていないといいけれど………
リンゴ
「その何がなんでも、というのには心当たりは?」
ヴェルンヘル
「今のところは……城や神殿、魔銃師会に一般公開されていない古い書物が沢山あるから、それらを調べるんじゃないかな……」
リンゴ「大変そう……」
ヴェルンヘル「………」
彼の表情が少しかたくなった。それを意味するものは分からない。視線が合うとヴェルンヘルは
「大切な人を救うためならどうってことないよ」
と、表情を和らげた。
リンゴ
「大切な人ねぇ………うーん」
ヴェルンヘル
「俺が嘘をついていると?」
リンゴ
「あなたではなく、ヴェルンヘル陛下が私をそう思ってくれているかって事……」
そうは言いながら、ヴェルンヘルが自分を大切にしてくれてる気持ちは伝わっていた。それが最愛の気持ちなのかは分からない。
ヴェルンヘル
「俺が陛下になったって、気持ちは変わらない」
断言してくるヴェルンヘルに、私はあの事件について投げかけることした。
ある意味、始まりとなったあの事案を。
リンゴ
「……ついでに聞くけど、朝までうちに押しかけていたアンジェルさんとはどういう関係?」
ヴェルンヘル
「ええぇ?!朝まで………アンジェルはただの親戚だよ」
驚きつつ、呆れたように答えた。呆れたの感情は未来のヴェルンヘルやアンジェルに向けられているようだった。
リンゴ
「へー?向こうはヴェルンヘルをずっとお慕いしていたって言ってたけど?」
ヴェルンヘル
「妹みたいな子だよ……まさかそんなことになっているなんて」
リンゴ
「アンジェルだけじゃない……毎日のように女の子と遊んでいるみたいだよ」
実際は、どうなのかは知らない。
私は私で探索をしていてヴェルンヘルがどこで何をしているのかよく分からないけどカマをかけてみる。
ヴェルンヘル
「俺にはなんのことかよく分からないけど!俺が好きなのはリンゴだけだよ!」
必死な様子が可愛いけどダメ男も同じセリフを吐くし……
しかし、この世界のヴェルンヘルが私以外になびいていないように見えるからこれ以上、純粋なヴェルンヘルを責めるのは酷だ。追求はこれで終わりにしよう。
追求するのはヴェルンヘル陛下本人の方だ。
リンゴ
「……分かった。ここのあなたにはまだ罪はないものね」
ヴェルンヘル「気をつけます……」
あれ、ちょっと待って。
旅人女に手を出した話は………結婚する前だったはずだけど。
リンゴ
「ヴェルンヘル陛下は結婚する前に旅人の女性に手を出していたけど………結婚前の遊びはノーカウントしてるの?ヴェルンヘル殿下」
ヴェルンヘル
「……旅人の女性………俺ってそんなに女好きなの?」
まるで他人事みたいな言い方に私はムッとした。
リンゴ
「あなたの話だよヴェルンヘル殿下」
陛下ではなく、殿下時代の今のヴェルンヘルの話でもある。
こんな重要な話を私はこの時まですっかり忘れてたいた。
そう、これは。
目の前にいるヴェルンヘル殿下の話だ。
ヴェルンヘル
「結婚する前に、一度は経験というか練習した方がいいとか人に言われたけど……俺は結局していないんだよ……」
私の剣幕に押され、オドオドと答える。
リンゴ「嘘だ」
ヴェルンヘル
「嘘じゃないって……それは、その、結婚して夜になれば………今のリンゴなら、俺が経験あるか、わかるでしょ…… 」
今の私というのがちょっと引っかかるけどスルーしよう。
リンゴ
「そんなの分かるかな……って、さっき説明したでしょ?私はここの世界の人じゃないから、ヴェルンヘルとその……夜はできないよ」
ヴェルンヘル「えーー?!」
目を見開いて声を上げる。
リンゴ「えーって当たり前でしょう……」
ヴェルンヘル
「結婚してもお預けくらうの…?
…俺耐えられない…」
がっくりと項垂れる。
真面目な顔をしているときは大人っぽいけど、こういう時は年相応の男子に見える。
リンゴ
「いつも遊んでる子たちに相手してもらえばいいでしょう」
ヴェルンヘル
「そんな子はいないよ…」
お預けをくらうのがよほどショックらしくヴェルンヘルは絶望している。
リンゴ「………💧」
ヴェルンヘル
「触るだけならいい?」
絶望しているヴェルンヘルは妥協点を探りにきた。
リンゴ「……だめ」
ヴェルンヘル「えーーー?!」
リンゴ「だって、触るだけで満足してくれる?」
ヴェルンヘル「それは難しい……」
リンゴ「だよね。だから、だめ」
ヴェルンヘル
「一瞬……10秒だけ……1分だけ」
リンゴ
「だんだん伸びてる。答えはノーです」
ヴェルンヘル
「……そんな」
再び彼は絶望し、項垂れた。
先ほどとは打って変わってなんとも間の抜けた会話が展開される。
ヴェルンヘル
「じゃあ……」
こんな事に諦めの悪い彼はまだ何か提案を思いついたらしい。パッと顔を上げたヴェルンヘルが空を見上げ、目を見開いた。
ヴェルンヘル
「結婚式………出来ないかもしれない」
その時は突然やってきた。
不気味なほどに静まり返っている。
風の音一つ聞こえない。
空に浮かぶ、大きな一つの眼玉。ギョロリと私を見るとニタリと笑う。
あぁ……
終わりがやってきた。
私が消えて、この幻想郷も消えるか、私がいなくなってもそのまま続く。