ーーガブリエル視点
俺はガブリエル・モリエンテス。
魔銃師会に所属して一年と少し……
俺は最近、導師に手取り足取り教えてもらっている……
薬剤の作り方から、武器の振るい方まで、ダンジョンにも連れていかれる。
ガキの頃、導師に会えば
「お前!またくさいぞ。風呂いってこい!」
ってうるさく言ってきたこの人が上司…
「お前下手くそだな、こんな調合もっと手早くやれ!日が暮れるぞ」
「何回失敗すれば気が済むんだ?お前の頭のなかはどうなってる?」
「俺の話をちゃんと聞いて理解しているのか?一瞬で忘れる鳥頭?」
「お前はバカなのか、単細胞すぎて魔銃師会の仕事は無理なのか?」
「何度言ったら分かる!?分量は正確に量れ!この誤差で効能が変わるんだからな!!」
「あんなに時間をかけてこの出来か。こんなものは使い物にならない」
「薬ができただと?てっきり、くさいスープだと思った。やり直し」
作った薬剤は容赦なく捨てられた。
怒涛の攻撃に俺の心は折れそうになる。
散々な言われようだ……ひどい……
毒舌導師の噂は本当だった。
ガブリエル
「……リンゴさんはどうなるんですか?リンゴさんだって調合は簡単なやつしかできないじゃないですか」
導師と仲の良いリンゴさんの名前を出してみる。王妃であるあの人のことは貶しにくいだろう、どうするんだと思って毒舌導師の言葉を待つ。
ティアゴ
「アイツはそれ以前の問題だ。才能のカケラもない」
予想に反して導師は辛辣に言った。俺でもひどいと思った。
ティアゴ
「リンゴはな、無理するとこの建物が燃えてなくなる。だから、調合なんてしなくていいんだよ」
もっともだと思った。
でも俺は知っている。
導師は女の子には優しいということを。
以前リンゴさんにこんな奴のなにがいいのかと聞いたら、「ティアゴ君は優しい」って言っていたことがある。
リンゴさんにもこんな態度なら、あんなに懐くこともないとおもう。
そうだ、導師とリンゴさんは昔から仲がいい。俺がリンゴさんに会いにいくと高確率で一緒にいる。
前にたまたまとか導師は言っていたけど、そんなにたまたま俺が行った時に導師もたまたま毎回いるなんておかしくか?
釣りしてたり、幸運の塔で話していたり…
ガブリエル
「導師って、リンゴさんとかなり親しいですね」
ティアゴ
「…別に、普通の友人だよ」
ビーカーに薬剤の液体を注ぎながら導師は顔色一つ変えず答える。
ガブリエル
「レドリー君とセシリア様が付き合いだしたのは導師がそう仕向けたとか?」
ティアゴ
「そんなわけがあるか。俺は2人が付き合いだすまでそんなこと知らなかったんだから」
そんなことを言われるのは心外だという顔をして反論してきた。
ガブリエル
「そうですか……」
ティアゴ
「お前、そんなくだらないことを考えて随分余裕だな?手が止まってるぞ!」
導師は俺を睨みつけてきた。
ガブリエル
「すいません!」
慌てて、調合に思考を集中させる。
ティアゴ
「この瘴気中和剤は大量に必要だ。余裕そうにしているなら今日中に20回分作れ!いいな!」
ガブリエル
「えー!」
不満を言っても導師はツンとして意見を変えなかった。
一見この人は分かりにくいと誤解されるが、実は分かりやすい。
都合の悪い話題をするとこうやって話を逸らせてくる。
ガブリエル
「リンゴさんって胸けっこう大きいですね?」
俺は普段平然としているこの人が、こんな話を振ったらどんな反応するんだろうと訊いてみる。
仲の良い友人のこんな話をしたらどうなるだろうか。
ティアゴ
「………は?」
真剣な様子で調合をしていた導師はピタっと手を止めて俺を見てきた。
ガブリエル
「アスセナちゃんもなかなかいいと思うけど…リンゴさんは腰が細いから余計に胸が大きくみえるような」
ティアゴ
「……真面目にやれ…」
導師はなんともいえない複雑な表情を浮かべている。
俺はさらに知っていることを口にすることにした。
ガブリエル
「導師は胸より足のほうが好きでしたね!」
目にも留まらぬ速さで導師は俺にゲンコツを落とした。
龍騎士なだけあって、避けることができない見事な一撃だ。
俺は痛みでクラクラして殴られた場所を手で抑えながら蹲った。
ティアゴ
「なんでそれを知ってる」
恥ずかしさと怒りが入り交じった声が上からした。
ガブリエル
「イマノル隊長が……」
見上げると導師は恐ろしい形相で俺を見下ろしていた。
ティアゴ
「ったくアイツ……」
導師は苦々しく呟いた。イマノル隊長ごめん、思わずバラしちゃった。
ティアゴ
「………この調合が終わったらダンジョンに行くぞ。さっさと終わらせろ」
不機嫌そうに導師は言うとあっという間に今作ってる分を仕上げた。
凄い、と俺は感心していたが、ん?今導師なんて言った??
ガブリエル
「ダンジョン?中和剤は……」
ティアゴ
「煩悩にまみれたガブリエルは少しダンジョンでその穢れを落とした方がいいと思ってな。その前に練習試合だ。顔を貸せ」
龍騎士の魔銃にガチャリとカートリッジを装填すると導師は意地悪そうに笑った。
……やっぱり。この人は分かりやすいと思う。
゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.
俺たち魔銃師会が担当している遺跡のダンジョンはカルネの遺跡でも瘴気が多少濃くなっていていつもより難易度が上がっていた。
俺がヘロヘロになっても導師は表情をほとんど変えず平然としている。
「俺も昔は弱かった」
って導師は言うけど、そんな時代があったなんて思えない……
ダンジョンが終えると夕日が沈みかけていた。
今日はこれで解散になって、ヘトヘトの身体を引きずって酒場にいく。
イマノルが酒を買いにきていたので奴の腕を引っ張って席に座らせてさっきの話をした。
ガブリエル
「導師の好みが足って話、イマノルから聞いたってさっき本人に言っちゃた……ごめん」
イマノル
「ふーん、ティアゴさん怒ってたでしょー!」
嫌な顔をするわけでもなくイマノルは楽しそうに笑った。
この男は滅多なことでは怒らない。全てをポジティブに捉える男、イマノル……
人は彼を、頭のネジを大量にどこかにばらまいた男と呼んでいる。
ガブリエル
「多少……」
多少どころかゲンコツくらったけど。
イマノル
「アイツはうるさいけど身体のライン、特に足が綺麗だからなー」
ガブリエル「ん?誰の話?」
誰の話をしているんだ?
イマノル「こっちの話」
イマノルはニヤニヤしていた。コイツはいい奴だけどかなりスケベだ。どうせまた何か想像している…
ガブリエル
「俺、さっき気づいたことがあってイマノルに聞いてもらいたいんだ」
ーーそう
俺はヤバいことに気づいてしまった。
イマノル
「なになに?」
イマノルは楽しげにテーブルに身を乗り出してきた。
ガブリエル
「導師とリンゴさんのことなんだ」
一瞬イマノルの固まったような気がしたがすぐにいつものように表情を和らげた。
イマノル
「あの2人がどうした?」
ガブリエル
「あの2人って、俺がガキの頃からよく一緒にいんだ………忘れもしない星の日、リンゴさんはまだ魔銃師会に入る前……幸運の塔で話をしていたけど妙な雰囲気だったんだ」
イマノル「それで?」
ガブリエル
「その後もリンゴさんに会いにいくと高確率で側には導師がいる……リンゴさんにくっついたら怒るし……」
イマノル「へぇー」
イマノルはニヤニヤしていた。
ガブリエル
「俺は気付いてしまった」
問題はここからだ。
イマノル「なにに?」
ガブリエル
「あの2人は……」
イマノル「あの2人は……?」
ガブリエル「実は………」
イマノル「実は…?」
ガブリエル
「………クーデターを起こそうとしている」
よく歴史であるやつだ。
多くの国がそれで戦乱に巻き込まれたという…
イマノル
「………」
この推理に驚いたのか、イマノルは目を瞬かせた。
ガブリエル
「………」
俺はイマノルの言葉を待った。
イマノル
「ご愛読ありがとうございました!ガブリエル先生の次回作にご期待下さい!」
イマノルはゲラゲラ笑っていた。俺が真剣に話をしているのになんてやつだ。まさかと思いイマノルを睨む。
ガブリエル
「イマノルは、導師の仲間?!そういえばイマノルと導師ってデキてるって噂があった!!」
敵に情報を流してしまうとは!
俺の言葉を受けてさらにイマノルは笑った。
ガブリエル
「あれ!?導師って陛下ともよからぬ関係だって噂だよね?!どうなってんの?!」
クーデター起こす理由ないじゃん!?
この日、ガブリエルはとんちんかんな男とイマノルに認識されることとなる……
ーー余談ーー
ガブリエル
「導師って、興味あることなさそーな顔してない?胸の話してものってこないしさー」
イマノル
「お前が想像する以上に、
導師は煩悩まみれだよー」
意味深にイマノルは笑った。
ガブリエル
「そうなの?」
イマノル
「あの人は欲望に忠実だよ」
一瞬イマノルが遠くを見るような目をした。
ガブリエル
「お前……やっぱり導師とデキてるのか!!」
イマノルはまた笑った。存分に笑った。
゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+
あとがき
急に書きたくなったガブリエル視点の話
普段存在感ないしいい機会かなとw
ここまでの閲覧ありがとうございました!
ガブリエル先生の次回作にご期待下さい(笑)