任天堂Switch版エルネア王国をもとに書いています。
武術職の中でも選りすぐりの精鋭が集められ、禁断の森に集結していた。
隊列を作り整列する者たちの前に龍騎士が並び、張り詰めた空気が漂う中、バルナバが一歩前に出て皆に向かって口を開いた。
バルナバ
「セシリア殿下を襲い、王妃様をその爪で傷つけた魔獣は退治したが、依然として高濃度の瘴気が漂い、禁断の遺跡は以前より魔獣どもがその数を増やしながら我が物顔で跋扈し(ばっこ)、いつ国民を襲うか分からない危険極まりない状況にある。」
バルナバ兵団顧問が声を張り上げる。皆真剣な様子でバルナバの言葉を聞いていた。
バルナバ
「多くの勇敢な仲間たちによって、保たれてきた平穏を幾度となく脅かされてきたが、魔獣ごときに屈する我らではない!」
バルナバ
「これ以上の犠牲を出してはならない!最深部で爪を研いでいる魔獣のその腕ごと切り落とし、再びの平穏を取り戻そう!」
バルナバは愛用している龍騎士の斧を空に向かって突き上げた。
バルナバ
「ーー出陣する!ーー我らの手で元凶を討つ!」
おおー!とバルナバに応じる声が森に響き渡る。
各々言葉を交わしながら、バルナバ兵団顧問を先頭に隊列が動いた。
バルナバ
「陛下、セシリア殿下、いって参ります」
バルナバはヴェルンヘルとセシリアを交互にみると会釈をした。
ヴェルンヘル
「………武運を祈る」
神妙な面持ちで頷く。
セシリア
「皆さんにシズニの加護がありますように」
突入隊がバルナバを先頭に禁断の遺跡の中へと入っていき、最後尾の人たちが見えなくなった。
ガブリエル
「……あれだけの人数で行くんだから余裕で勝てるんじゃない?」
各組織、選りすぐりの強者ばかりが揃っている。ダンジョンで細切れにされる魔獣に哀れみさえ感じた。
リンゴ
「何かあれば我々が最後の防衛線。油断しないで」
自分たちの出番なんて、なくていい。
出番があるとしたらその時は……
考えたくはないが最悪のケースである可能性が高い。
強者揃いの突入隊を破り、ここに辿り着くとしたら。
ーー自分たちでそれを食い止められるのだろうか
禁断の遺跡の前で待機する部隊を率いるのはリンゴだった。
いつもの笑顔は封印し、緊張した面持ちで佇んでいる。その様子にガブリエルたち守備隊も表情を引き締めた。
空は夏らしく澄み切った群青色が広がり、ジリジリと熱い日差しが地面に照りつけている。
禁断の森の中は、日差しは木々に遮られ、涼しい風が吹き抜けていた。
リンゴ
(……どうかみんな無事に帰ってきますように)
゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.
大人数でダンジョンに入っているため、途中に出現する魔物は問題なく撃破していく。
リリーの斬撃に、魔物が真っ二つに斬られ、ティアゴの魔銃の攻撃に空中で霧散する。
ティアゴ
「瘴気の濃度はここまでは基準値ですが……問題はここから先です」
空気がだんだんと淀んでくる。ティアゴが腰にある予備の銃をホルスターから出すと空中に向かって放った。
瘴気を、中和する薬が散布される。
一行は問題なくすすみ、通常のボスを撃破する。いつもなら三人で突破するダンジョンを大人数で攻略しているのだから全く苦戦することはない。
ここでダンジョンは終了のはずだった。
バルナバ
「本番はここからだ」
一歩前に踏み出すと、なにもない空間がぐらぐらと歪む。そして、この先がないと思われていた場所に、奥に続く道がみえた。
その道に足を踏み入れた瞬間、バルナバの身体がグラリと傾く。隣にいた娘のメーベルが咄嗟に支えた。
ティアゴが、慌てて中和剤を散布し、すぐさま新しいカートリッジを装填する。
アラルコス
「近い……気配がする」
さらに進むとがらんと何もない広い空間に出る。一行は訝しげに辺りを見回す。
イマノル「……なんもいないね」
バルナバ「……………いや」
バルナバの声が低くなる。
リリー「上にいる」
リリーたちの頭上、天井に黒いかげが蠢いた。
バルナバ「散開!」
バルナバの掛け声とともに、全員が散り散りになっていく。
ちょうどさっきまでみんなが立っていた場所に、魔獣が落ちてきた。
砂埃が舞い散り、その中を何か大きなものが振り回されている。
長くて大きな漆黒の尾が凶器のように自身の周りを円を描くようにして空気を切っていた。
犬のような顔をした魔獣は大きな口を開け、耳が痛くなるような咆哮が響きわたり壁に反響した。
思わず皆が片耳を塞いだり顔をしかめたりする。
ティアゴ「放て!」
掛け声ともに魔銃が一斉に放たれる。
バルナバとリリーが一気に魔獣との距離を縮め、斬りつける。
ティアゴ「中和剤散布!」
魔銃師たちは、予備の魔銃に素早くかえると中和剤を一斉に散布する。
アラルコス
「コイツ、硬い…!」
屈強な山岳兵の振り落とす一振りの斧が、魔獣の皮膚にあたると跳ね返った。
リリーが再び斬りかかると、魔獣の手が振り払われ、リリーの身体が空中に投げ出される。
サブリーナ「リリー隊長!」
リリーは空中で身体の向きを変え、壁に激突する瞬間壁を蹴り地面に着地した。
魔獣は素早い動きで騎士隊に近づくと、騎兵のアートに殴りかかる。アートの身体が壁の方に転がった。さらに追撃しようとするところを
ティアゴ「放て!!」
魔銃の一斉攻撃で動きを止める。魔獣はザッと下がり、突入隊と睨み合った。
禍々しい黒いオーラが放たれている。目に見えるほどの濃い瘴気が身体から放たれていた。
ダッとリリーが駆け出した。スキルを発動しようとしたところでガクンと視界が反転した。
地面からツルが突然伸びてきてリリーの足に絡みついていた。魔獣がゆらりと動き、リリーに近づこうとしている。
アラルコス「リリー隊長!!」
ティアゴが素早くカートリッジを別のものに装填し
「皆さん!目を閉じて下さい!!」
皆が慌てて目を閉じた瞬間、魔銃を撃つ。辺りに眩い光が発光した。
目眩しの閃光弾だった。魔獣の動きが止まってる間に、リリーはツルを剣で斬り脱出する。
闇しか映していないような魔獣の黒い眸がジッと誰かを見据えた。
まるで獲物を選んで決めたような、そんな風に思えた。
魔獣が口を開け咆哮を上げる。空気が振動し、突入隊は息を呑んだ。
口から大きな丸い何かが吐き出され、ティアゴたちは身を翻して避ける。
ぱちんと破れると中から黒い液体が出てきた。
ーー毒と瘴気が混じったもの
食らえば身体を動かすことも苦労するだろう。
魔獣は何発もそれを繰り出し、突入隊は間一髪避けていく。
リリー
「気をつけて!あいつ、誰かに狙いを定めてる!」
リリーではない誰かを狙っている。
瘴気の濃度が上がっていくのを感じ、ティアゴは攻撃をかわしつつ、魔銃にカートリッジを装填し、中和剤を散布する。
魔獣の太い腕がティアゴのすぐ後ろの空気を切った。
ティアゴ
「!!!」
前方にもう片方の腕が突き出され、壁にドンとついた。
前にも後ろにも下がれなくなっていた。ティアゴのすぐ横に魔獣の顔があり、魔獣はその口を開いた。瘴気か毒か、あるいはその両方を吐き出そうとしている。
バルナバ「やらせるな!」
バルナバは魔獣の足を、リリーは騎士隊の1人の身体に飛び乗って、跳躍しながら剣を振り落とし魔獣の頭を狙った。ローデリックとサブリーナが同時に斬りかかった。
魔獣は攻撃を中断してティアゴから離れた。
イマノル
「導師ったら、モテモテじゃ〜ん。魔獣に壁ドンされるなんていいねー」
ティアゴ「……冗談言ってないで攻撃しろ💢」
バルナバはティアゴの真横まで走り込むと、魔獣の攻撃を斧で受け流した。
バルナバ
「あの魔獣、どうやらティアゴ君を標的にしてるみたいだ」
ティアゴ「なぜでしょう…」
イマノル「マタタビでもつけてんじゃないの?」
メーベル「魔獣はネコじゃないから」
バルナバ
「そういえば、掃討作戦のあとにリンゴちゃんが、魔物たちがティアゴ君のいる導師隊を狙った気がする、そんなことを言ってたよ」
リリー
「魔獣はよく分かってるじゃないーー後方支援も攻撃もできる魔銃師会が厄介だってこと」
バルナバ
「ーーだが」
バルナバは攻撃をかわしつつ、跳躍すると斧を魔獣の腕に振り落とした。
「山岳兵団だって、負けてないよ」
魔獣の硬い皮膚にヒビが割れ、血が吹き出した。
バルナバ
「よそ見する隙を与えるな!」
「おおー!」と掛け声とともに皆が一斉に斬りかかる。
ティアゴはその隙に別のカートリッジを装填し、魔獣に何発も撃ち込む。
ティアゴ
「麻痺弾を撃ち込みました!数分で効果が出るはずです」
イマノル
「魔獣が導師から潰したい気持ちがよーく分かったよ」
魔獣が苦しげに咆哮をあげ、勢いよく身を翻すと、大きな尾が回転し、何人かが巻き添えをくらい、地面に叩きつけられた。
追撃しようとするのはアラルコスやメーベル、イマノルが尾を斧で受け止めようとするが身体が吹き飛ばされた。
魔獣の身体が一瞬震え、口から毒が吐き出された。一瞬で辺りに広がり一同は毒状態になる。
ティアゴ
「アンチドート装填!」
魔銃師会のメンバーは慌ててカートリッジを装填しようとするが、何人かは魔獣の攻撃を避けるのに中断される。
攻撃を免れたティアゴたち数名がアンチドートの入ったカートリッジを空中に向かって発射する。
アンチドートは瞬く間に広がりポイズン状態が解消した。
魔獣の足元に魔法陣が現れる。
リリー「なにをする気?」
嫌な予感がした。
魔獣の周りを怪しい光が包み込むと、光が広がり一瞬なにもみえなくなった。
光が収まり目を開くと、魔獣の姿がなかった。
リリー
「一体、どこに…?」
キョロキョロしていたリリーの視線が何もない空間で止まる。
リリー
「セシリア……なぜセシリア殿下がここに!?」
リリーの言葉に周りの人が訝しげな顔をする。
ローデリック
「………セシリア殿下?」
バルナバ
「……セシリア様の姿は、みえないよ」
アラルコス
「グラディス…?」
アラルコスは娘の名前を呟いた。
「グラディスがあんな場所に?!」
幼い娘の名前を叫んで走り出した。ハッとしてバルナバは口を開いた。
バルナバ「待て!幻覚だ!!」
叫び声と共に鈍い光を放った爪が足を止めたアラルコスの眼前を切り裂いた。
さらに攻撃が繰り出され、アラルコスは応戦するが力に押されて地面に転がる。バルナバが危ないところを間一髪で攻撃を受け止めて追撃からアラルコスを守った。
サブリーナ
「私はアビーの姿が見える…」
剣を構えたまま、サブリーナは固まってしまった。サブリーナには娘の姿が見えるらしい。
他の者も子供や孫の名前、あるいは配偶者の名前を呟いた。
ローデリック
「……俺には魔獣の姿にしか見えない」
バルナバ「同じく」
イマノル
「俺も〜…潜在意識から攻撃しにくい誰かに見えちゃう幻覚系の魔法かぁ〜」
ティアゴ「これは厄介ですね……」
モーディ
「この魔法に効きにくい人もいるんですね……魔獣と分かっていても戦いにくいです!人間にみえると、魔獣の尻尾を視認できなくて危険です」
ティアゴ
「幻覚系の対処はできません…」
ティアゴが苦しげに魔獣を睨みつけた。
魔獣が一瞬よろめき、ティアゴの目がスッと細められた。
ティアゴ
「ーー麻痺の効果が現れたようです」
メーベル
「一気に攻撃しましょう!」
メーベルの声にバルナバ、イマノル、リリー、メーベル本人も駆け出す。
そのメンバーだけだった。皆大切な人に見える魔獣に攻撃ができないでいる。
ティアゴは銃口を魔獣に向け、可能な限り叩き込む。撃たれて魔獣が怯んだ隙にバルナバが強烈な一撃を叩き込んだ。
リリー
「しまった…!」
尻尾の凄まじい攻撃をまともにくらい、リリーの身体が空中に投げ出された。魔獣は無防備になった隙を見逃さない。リリーに重い拳の攻撃が当てられた。
声にならない声をあげながら、リリーは態勢を立て直し、壁を蹴ると目にも止まらぬ速さで魔獣に向かい、その首に剣を突き刺した。
空気が揺れるような魔獣の悲鳴が辺りに響き渡る。魔獣はリリーの腕を掴むと乱暴に放り投げた。
リリーは身を翻し地面に着地した。
バルナバ「大丈夫?!」
リリー
「大丈夫だけど、剣が……」
ティアゴ「リリーさん、俺の剣を」
ティアゴは接近戦のために持っていた剣を鞘ごとリリーに投げ渡した。
リリー
「ありがとう、あとで返す」
サブリーナ
「やっと幻覚が収まった……」
目の前に魔獣の姿を視認できてほっとした声をだす。恐ろしい光景には違いないが、娘にみえるよりはマシである。
ティアゴ
「また幻覚系の魔法を使ってくるかもしれません。その前に終わらせましょう」
ティアゴたち魔銃師会が魔銃を構える。
ティアゴ「放て!」
おびただしい数の弾丸が、魔獣に浴びせられる。砂煙が舞い散り、魔銃から放たれる光が遺跡内を不気味に照らす。
バルナバ「突撃だ!」
魔銃師会の攻撃が一度終わったところでバルナバの掛け声と共に接近戦の者たちが走りこむ。
攻撃を続けてしばらくして、魔獣の太い首が地面に転がった。
大きな巨大がゆらりと揺れ、ゆっくりと地面に前のめりに倒れ込んだ。
首を落としたのはバルナバの斧だった。
皆肩で大きく息をつきながら、首をみつめ、一瞬静まり返る。
「倒した…!」
「やった…!」
ワァと歓声がわきおこった。
戦いが終わったと皆が喜ぶ中、龍騎士たちは安堵の表情を浮かべる。
その中で、イマノルが訝しげに何もない空間を見つめた。ティアゴも同じ方向を見て、表情を険しくさせる。
その様子にバルナバとリリーが気付いて2人のもとに近づいてきた。
ティアゴ「まだやれますか?」
リリー「もちろん」
バルナバ
「ーー今のは、前哨戦…か」
イマノル
「ラスボスはこの先みたいだねー」
勝利の喜びは束の間だった。