任天堂Switch版エルネア王国をもとに書いています。
しばらく明絃さんと共同で書かせてもらっています。
前回は
[終わりなき旅の果てに]成人したセシリアの恋路&ドクシンキゾクを巡る王国レース
今回はこの↑の少し前からのセシリア目線のお話です。
情念の炎。
手に持って想いを伝えた相手を恋人と別れさせる
このアイテムを使っても、相手が自分のことを好きでなければ、その効力を発揮しない
(好感度が低いと告白は成功せず、情念の炎は消費されない)
ーーーーーセシリア目線
2日の朝。
朝一でたずねてきたのは、子供時代からの仲良しのニーノ君だった。
ニーノ
「あのさ……二人でどっか行かない?」
セシリア
「………ごめんね、今から行かなきゃならないところがあるから」
断り、慌ててその場をあとにした。
ロング
「これ……差し入れ」
ロング君からは差し入れを貰った。美味しそうなチーズケーキ。
嬉しいけれど、セシリアはやはりこの二人にはときめかくことがない…
考え込みながら歩いているといつの間にか幸運の塔にいた。
まだ冬の寒さが残る2日の日。吹きつける風は冷たくて吐く息は白かった。
そこに見知らぬ男の子が現れて、セシリアに声をかけてきた。
??
「おはようございます。
あなたのことを紹介されたので、会いに来ました」
セシリア(紹介?誰から…?)
「えっ?……それでわざわざ……?」
??
「不躾ですみません。
でもこれをご縁に、これからもお話しできたらと思います」
彼はジョーティ・モリエンテス
彼のお母さんの血筋を辿ると、亡きバーニスちゃんの妹さんにあたる。というのを彼に会って、プレイヤーも気づいたのです。
(バーニスちゃんと妹さんは全然似ていない……
バーニスちゃんはお母さん似、妹さんはお父さん似)
セシリア
「そうだね。わたくしもモリエンテス君のこと色々知りたいし」
わざわざきてくれたのだからとセシリアはジョーディと少し立ち話をした。
話が終わってジョーディが去ると、
「おはよう」
誰かに声をかけられ振り返るとレドリーがいた。
セシリア
「お、おはようござます…!」
探していた人が突然現れてセシリアは驚いてしまった。
レドリー
「……さっきの人に告白でもされてたの?」
幸運の塔で話をしていたので、レドリーはセシリアがジョーディに告白されたのだと勘違いしたようだ。
セシリア
「ううん、誰かに紹介されたから会いにきてくれたの。それで少しお話を…」
レドリー
「ふぅん……そうなんだ……」
レドリーはなんだか面白くなさそうな顔をする。
レドリー
「………東の方の森でキノコや薬草でも探そうかと思ってるんだけど」
セシリア
「……う、うん!行く!」
セシリアはぱぁと目を輝かせた。
レドリー
「髪型変えたの?似合ってるね」
セシリア
「そ、そうかな…?」
セシリアはなんとなく髪の毛を触った。
レドリー
「うん、すごく可愛いよ」
セシリア
「ーーー」
自分の身体が熱くなるのを感じた。
「あ、ありがとう……」
しばらくキノコを採るとレドリーは
「じゃあ、またね」と、去っていった。
ーー言わなきゃ
このまま、言わないで、後悔したくない…!
セシリアはレドリーの後を追った。
噴水広場を歩いているレドリーを見つけて、セシリアは深呼吸をしてから一歩踏み出した。
セシリア
「あの、レドリー君……」
レドリー
「あれ……どうしたの?」
レドリーはセシリアをみると柔らかな笑みを浮かべた。
セシリアは恥ずかしく肝心な言葉が出てこない。
セシリアはポケットからそっとあるものを取り出した。
それをぎゅっと握りしめて、レドリーを見た。
セシリア
「あの………
二人でどこか行かない?」
心臓がバクバクとうるさかった。
レドリーが驚いた様子で大きく目を見開いた。
レドリー
「………もちろんいくよ」
くることを承諾してくれても全く楽観できなかった。
ルイスというお手本がいるように、幸運の塔で普通に振られることなんて珍しくないのだから。
心臓の音がバクバクとうるさい中、緊張しながら幸運の塔に入るとセシリアは驚きの表情を浮かべた。
セシリア
「ーー!」
(な、な…んでお父さんがここに……)
まるで、セシリアがここにくることを知っていたかのように、国王であるヴェルンヘルが幸運の塔にいた。
女が一緒にいたようにも見えるけど……多分気のせいではない…
セシリア
(ーー?!パトリックさんまで…)
気を遣ったらしいパトリックは見て見ぬ振りをして街門広場のフォモス像の方を見つめている。
ヴェルンヘルはセシリアの後ろにいるレドリーを一瞥すると、無言のまま離れていった。
セシリア
「………あ、あの…」
セシリアの声は、恥ずかしさとフラれる恐怖から震えている。
レドリー
「………うん」
レドリーはセシリアの言葉を待った。
セシリア
「レドリー君には彼女さんがいるってわかってるけど………私………レドリー君のことが好きなの…!」
言ってしまって恥ずかしさで下を向いた。
レドリーの反応がみたいのに、怖くてそれを見ることができない……
少しの沈黙のあと、
レドリー
「うん………でも、自分の気持ちだけですむことじゃないから整理つけなきゃ……返事はもうちょっとだけまってて……」
セシリアは驚いてレドリーを見つめた。
ーーえ?、どういうこと??
レドリー
「今日はもう帰ろうか」
セシリア
「………うん」
握っていたはずの情念の炎は、役目を果たしたためか忽然と消えていた。
゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜
ーーーー成功した??
告白の時の緊張が解けぬまま、考えながら歩いていると、いつの間にかさっきレドリーに声をかけた噴水通りに差し掛かった。
こちらを見ている人物がいてセシリアは思わず唾を飲み込んだ。
いつも優しげに微笑んでいる父ーーヴェルンヘルは気難しい顔をして、セシリアの前で立ち止まった。
ヴェルンヘル
「……セシリア。情念の炎使ったんだね」
セシリア
「………」
ヴェルンヘルが反対していたことは重々承知している。セシリアは押し黙って俯いた。
ヴェルンヘル
「……王位を継ぐものが、そういう物を使うのは関心しない。これからそれで苦労するのはセシリアだよ」
理由はこれだけではないだろうが、情念に炎を使うこと自体をあまりよく思っていない…
子供時代には感じることのなかった父親の冷たい態度にセシリアは怖気づきそうになった。
セシリア
「……でも……」
否定しようとすると、それを遮るようにヴェルンヘルが続ける。
ヴェルンヘル
「……それに、バーナードの次男だけは認めない」
ヴェルンヘルの声は厳しくなった。
ーーーこれが、本音…
セシリア
「……なんで?!レドリー君のなにがダメなの?!」
セシリアは泣きそうになった。
ヴェルンヘル
「他の女性と付き合ってて心変わりするような男は、王配には相応しくない」
セシリア
「……お父さんは浮気してるくせに」
ヴェルンヘルは聞こえてないフリを決め込んだ。
ーーーそれは卑怯だよお父さん…!!
目に涙をためてセシリアがヴェルンヘルを見るとヴェルンヘルは一瞬狼狽たような表情を浮かべセシリアから視線を逸らせた。
ヴェルンヘル
「バーナード家の次男とはもう接触するな。レドリー君とティアゴさんにもそう伝えておこう。」
話は終わりという風にヴェルンヘルはこの場を去ろうとしている。
セシリア
「待ってよお父さん…!」
ーーーまさか、そこまで…?!
ーー二人に圧力をかけるってこと???
ヴェルンヘル
「破れば導師にも迷惑かける…同じ魔銃師会のお母さんにも迷惑がかかる……分かるよね、セシリア。セシリアには相応しい相手をお父さんが選ぶから」
反論の余地など与えない、そういう態度で珍しく厳しい口調でいうとヴェルンヘルはマントを翻してセシリアに背を向けた。
この続きは、
[終わりなき旅の果てに]成人したセシリアの恋路&ドクシンキゾクを巡る王国レース
国王に圧力をかけられた現場に居合わせたマーリンとアーサーが口を挟んでくると、ヴェルンヘルは顔色を変えた。
ーーーお父さん……マーリンさんが苦手なのかな
そして耐えかねたようにヴェルンヘルは、あろうことか、駆け出し、逃げ出した。
ーーー逃げ…る……?
重い鎧を身に纏っているというのに、ヴェルンヘルはものすごいスピードで走り去っていく。
それをアーサーが追い、やれやれというように余裕そうに笑いながらマーリンが追い、パトリックはヒーヒー言いながら追いかけている。
パトリック以外は、凄いスピードで遠ざかっている。
呆気にとられながらもみんなを追いかけようとしたときため息が聞こえてきた。
「……あのおっかない人がいれば大丈夫だと思うけど……」
一部始終を見てしまったらしいローデリックがいつものように無愛想な顔で言った。
セシリア
「おっかない人、ですか?」
ローデリック
「…マーリンさん……あの人の知り合いはみんな変わってるけど」
ローデリックさんも少し変わってますよ、と言いたいところだがセシリアはその言葉を飲み込んだ。
しばらくすると、アーサーが戻ってきて、ヴェルンヘルがセシリアの自由にしていいと言ったらしい。
ずっと反対してきたヴェルンヘルを説得するなんて…
セシリアは驚きを隠せなかった。
アーサーたちに感謝するとともに、
ーーーお父さんはなにをされたんだろう…
と思ったが怖くて確かめることができなかった。
゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜

ーーその日の夜
Xことレイラ宅ではテーブルに酒や料理が並べられていた。
レイラはぼんやりと窓の外を見ている。
アーサー
「レイラさーん?早く飲みましょうー」
レイラ
「………そうね、そろそろ飲みましょうか」
視線をアーサーにらうつし、レイラは椅子に座った。
アーサー
「大丈夫?飲むのやめる?」
アーサーは物思いにふけっていたレイラを心配そうに見ている。
レイラ
「飲んだ方がきっと精神衛生上いいと思う。さあ、飲みましょう」
レイラはコップに注がれた酒をグビッと飲んだ。
アーサー
「えー!それ絶対ウソ!根拠ないじゃん!……って、ああ……飲んじゃった」
レイラ
「私にとってお酒は水みたいなものよ。」
アーサー
「そ……そうですか。飲み過ぎは良くないので気をつけてくださいね」
レイラ
「ありがとう。アーサー君は優しいわね…」
アーサー
「………気になりますよね、アーサー爺さん……」
レイラはまだ考え事をしているようだったので、それを察したアーサーは言った。
「心配しなくて大丈夫です!あの人は」
アーサーは自身にも言い聞かせるかのように澄み切った青い瞳をしていた。
レイラ
「……そうね………」
レイラは少し表情を柔らかくして頷いた。
アーサー
「これでも飲みましょう!わが国に輸入された酒です」
アーサーは酒を2本取り出した。
「こちらは甘くて、こちらはアルコールの原液を飲んでいるような味ですが、口当たりは良いです」
レイラ
「美味しそうね」
この国にはないお酒なので興味深そうにレイラは酒瓶を見る
アーサー
「ーーと言っても。前に言った国の酒なんですけど」
アーサーは苦い顔で笑った。
レイラ
「あの国の……」
レイラは懐かしそうにお酒を一口飲んだ。
アーサー
「ーーレイラさんはあの国をご存知なんですよね?」
レイラはすぐには答えず暫くしてから口を開いた。
「私はあの国の出身なの」
アーサー
「そうですか」
アーサーは良い国イメージを持ってないので、気まずさを回避しようと、話題を探した。
「ーー何で……この国に?」
レイラ
「………私はあの国が、嫌だった………だから、逃げた……
ーー逃げまわって、色んな国を転々としてこの国に辿りついたの」
レイラの口調は淡々としていた。
アーサー
「……そうですか」
アーサーは相槌を打つと、レイラのコップに強いほうの酒を注ぐ。
レイラ
「偉そうな事言ってるくせに、国を捨てて逃げ出してるなんて、なんで女なんだーって感じよね」
レイラは自嘲気味に笑った
アーサー
「前にも言ったけどーー許せない事があったなら、それが人だとしても許さなくて良いし、許してはいけない事だってあるんですよ……
ーー捨てるべき国だったんでしょう……別に俺は祖国を捨てたからと言って、レイラさんを軽蔑したりなんてしません」
真剣な様子で一生懸命言うアーサーにレイラは哀しそう笑った時、外に人の気配がした。
「こんばんは。夜分遅くにすみません……」
可愛らしい声が聞こえてきて、アリスが扉の向こうからチラッと顔を出した。
レイラ
「こんばんは、アリスさん。寒かったでしょう、中に入って」
レイラは訪ねてきたアリスを歓迎して中に入るよう促した。
アリス
「お邪魔します……ええ。今夜は冷えますね。息子がお世話になっております……お手数おかけして申し訳ありません」
レイラ
「いえいえ寝るところ貸してるくらいであとは何にもしてないわよー。アリスさんは何飲む?好きなの飲んでね」
レイラはアリスを椅子に座らせると、テーブルにジュースや酒を適当に置いた。
アリス
「本当に良くして頂いているみたいで…ありがとうございます」
テーブルに並べられた酒の中に、変わった酒があることにアリスは気づいた。
「あら……ライチ酒。アーサー君が国から持ってきたの?」
アーサー
「……あ、うん。ちょっと前に買ったやつ」
アーサーは酒を飲んだ事を咎められないかと気まずそうにしていた。
レイラ
「アリスさんのお家は、お酒を飲んではダメなの?」
アーサーの態度をみてレイラがアリスに聞いた。
アリス
「……え?いいえ」
アリスは驚いたようにしたが、すぐに微笑んだ。
「アーサー君はなぜかわたくしの前でお酒を飲む事に遠慮してるみたいね。怒らないのに」
レイラ
「ご両親の前では飲みにくいの?お酒は大人の嗜みなんだから、飲みすぎなきゃいいのよ」
アーサーの心中を察していうとアーサーは曖昧に笑った。
レイラ
「……アリスさん、イデアさんとはずっとうまくいってないの?」
アリス
「………どうして、そんな事をご存知で?」
アーサー
「母さん、このレイラさんはアーサー爺さんの古い知り合いみたいなんだ」
レイラ
「この国に辿り着く前に立ち寄った国で知り合ったの。アーサー先生は、ずっとアリスさんのことを気にかけての」
アリス
「まあ……恥ずかしい。幼い頃のわたくしに会われていないかしら?それだったら良いのだけど……」
アリスは恥ずかしそうに顔を両手で覆い隠した。
「母さん……どんな子ども時代だったの」
アーサーは少し驚いたように言った。
アリス
「………学校では普段大人しいけど、気になる事があれば教師や王族教育係を質問攻め……毎日のように森の小道以外のダンジョンに探索に行くような子どもだった……口癖は『わたしはいつかお城から出なきゃいけないの。弱いなんて思われたくない』だったわ」
アーサー
「母さんが……?」
アーサーはイデア女王に頭が上がらないアリスしか見てこなかったので、驚いた。
レイラ
「ーーあなたの国は……王族は生きづらい国なのね」
レイラは悲しそうに言った。
アーサー
「ーー違うよ、レイラさん。わが国の王族に限らず…どんな世界でも同じように生きやすい人間もいれば、生きにくい人間がいるだけ……真面目で勤勉な人間の優しさを漬け込む……そんな社会なだけ」
そう語るアーサーには哀愁が帯びて大人びていた。まだ若いのに苦労して可哀想だとレイラは感じた。
レイラ
「なるほどね……あの国には帰りにくいでしょう。好きなだけこの国にいるといいわ。マーリンさんがいると陛下はとっても喜ぶだろうから」
レイラは最後のほうは笑いながら言った。
アーサー
「ええ。大喜びでしょうとも」
アーサーは察してクスクス笑った。
アリス
「……まあ、この国の皆さんはお優しいのね。では、お言葉に甘えさせて頂きますわ」
アリスは無邪気に微笑んだ。
レイラ
「アリスさんがいたらイマノルが大喜びね……」
イマノルの喜びぶりを想像してレイラは苦笑した。
アーサー
「ええっ……母さんにもそんなゲスい話ーー 」
アリス
「ーーそんな訳……ないでしょーー!!」
アーサーが驚いたように言い終わるまでにアリスは顔を真っ赤にしてアーサーを突き飛ばした。
突然起きたことにレイラは唖然とした。アリスは自分のしたことに慌てている様子だった。
レイラ
「ところでアリスさん。相談があるの。アーサー君は近々この国を出て、留学する必要があるの」
笑いを堪えながら、気を取り直してレイラは話をしておかなければないないとアリスに切り出す。
アリス
「ごめんなさい、アーサー君。ついーーえっ……留学?どこに?どうして?」
アリスは伸びたアーサーを助け起こしながら聞いた。
レイラ
「リリーさんはアーサー君に味方してくれるけど……トア君を説得するのは難しいと思う。アーサー君を無事に留学させるために、アリスさんやマーリンさんの力を貸してほしい」
アリス
「……どうしてなの、アーサー君」
アリスは透き通る蒼い瞳でアーサーを見つめた。
アーサー
「ーーキリル大佐が……カピトリーナちゃんを救うには俺が超難関の医学を学ぶしかないって……」
アリス
「ーー分かったわ……お母さんは協力する」
アリスは大きく頷いた。
アーサー
「母さん………」
アーサーは目を見開いた。
レイラ
「…アーサー君を追ってきたリリーさんはアーサー君に味方してくれるけど……トア君を説得するのは難しいと思う。アーサー君を無事に留学させるために、アリスさんやマーリンさんの力を貸してほしい」
アリス
「ーー言われなくても……大丈夫よ、アーサー君」
アリスは笑みを浮かべていたが、手が震えている事にアーサーは気づいた。
アーサー
「ありがとう……母さん。ごめんね」
アーサーはアリスの震える手の上に自分の手を重ねると、その目を見つめ返した。
レイラはその様子を辛そうに見つめた。
レイラ
「ーーそれでね、協力を要請するためにもマーリンさんとアーサー君には色々事情があるんだろうけど、一度話した方がいいとおもうの。留学の件は、アーサー君、自分で伝えないとね。話せるようにアリスさんに協力してもらうとか必要ならしてもらわないといけない。
………アーサー君は長くここに留まるわけにはいかないから、早めにしないと…」
アリス
「……ええ。そうね……マーリンさんが帰ってきたら伝えるわ」
アリスはハッとした顔をした。
「ーーあら、もうこんな時間!マーリンさん、帰ってるかも!」
アリスはレイラにお礼を言うと隣の家に帰っていった。
アーサーはこれから留学して、医療技術を学ぶ時間が必要ならば、一刻も早くこの国から出なくてはならない。
母のアリスは子供の気持ちを大切にする性格らしく止めることもなく協力を承諾してくれた。
ーー問題は、未だに仲直りしてない面倒な男たちだけ……
面倒な男の一人である目の前のアーサーをチラリと見た時、コップを持つ手にきらりと光る指輪が目に入った。
レイラ
「ーーこのまえから気になってたんだけどなんで指輪つけてるの?」
あんまり未婚の男性が指輪をつけているところを見かけないのでレイラは不思議に思ってきいた。
「ーーやだな、レイラさん。俺が嵌めてるのは右手ですよ」
アーサーはレイラに右手の指輪を見せた。
レイラ
「……うちの国には、ファッションで指輪をする人はほとんどいないから、目立つのよ」
といいながら指輪を見る。
「それ、グァバメキアの文字じゃない?ーーそういえばコーデリアスさんがしていた指輪に似てるような」
アーサー
「え……ご存知で?確かにーーコーデリアス曽爺さんの物です」
指輪は全体的に文字が横断して刻まれているようだった。
レイラ
「それなんて書いてあるの?」
レイラは興味本位できいた。
アーサー
「ーー分からないので丁度レイラさんに聞こうかと……老視は大丈夫ですか?」
アーサーはレイラのピントが合うように指輪を見せた。
レイラは不機嫌そうな顔をした。
「あのねぇ、指輪っていうのはぐるって全部見ないと文字は見えないの」
アーサー
「……あ、すみません。どうぞ」
アーサーは潔く指輪を取り、レイラに見せた。レイラは指輪を回しながら書かれた文字を口にした。
『我はクルー家の正統な後継者である。知恵を求める者は学者に訊ねよ。歌を知らぬ者は詩人に訊ねよ。見えぬものを信じるのなら星を知る者に訊ねよ。我を知らぬ者は我に訊ねよ。』
アーサー
「んーと……とりあえず、訊ねる人がいっぱい?」
アーサーは首を傾げた。
レイラ
「そうね……その道に秀でた人を頼りなさい、っていうことかしら。餅は餅屋みたいな」
レイラは指輪をアーサーに返した。
アーサー
「ありがとうございます……もっと良い事書いてあるかと思ってたのになー」
アーサーはテーブルに置いた指輪を弾いた。
レイラ
「………コーデリアスさんの家らしいわね…」
レイラはお酒を一気に飲むと椅子から立ち上がった。
レイラ
「そろそろ寝ましょう。私の老眼もひどくなっちゃいそうだし」
レイラは言われたことを根に持つ面倒なタイプだった。
明絃さん担当に続きます。