任天堂Switch版エルネア王国をもとに書いています。
しばらくは明絃さんと共同で書かせていただいております。
アーサーに手を引かれながら滝をあとにするセシリアだが、寒さでガタガタと身体が震えてきた、
アーサーは、平然を装っているが手は冷たくて寒そうだった。
セシリア
「ねぇ、ねぇ、アーサー君。寒いからいっしょにお風呂入ろうー」
アーサー
「……いいよ……って、ええっ⁉︎」
アーサーは困ったようにした。流石に幼女だからとはいえ、王太女とは。
セシリア
「じゃあ、早くお風呂いこー!」
アーサーの困惑に全く気づいていない、というか寒さから逃れたいとしか思っていないセシリアはアーサーの手を引っ張ってバシアス浴場に転移魔法で向かった。
バシアス浴場までくるとアーサーは困ったような様子だった。そんなアーサーの心中など全く分からないセシリアは不思議そうにアーサーを見上げた。
セシリア
「アーサー君どうしたの?寒くて泣きそうなの?」
アーサー
「あのさ……ここはパパとかママに連れて行ってもらうべきだと思うんだけど」
セシリアは悲しそうな顔をした。
セシリア
「ママは怪我して動けないし………パパは……多分、女の人と…」
セシリアにとって、
今日が子供最後の日。
でも両親はそばにいない。
アーサー
「……」
アーサーはよく分からないまま、セシリアの見下ろした。
アーサー
「ーー分かった。行こう、寒いもんねー!滝に連れて行ってごめんねー」
セシリアの顔がパッと明るくなった。
「やったー!!じゃあ、お風呂入ろう!」
といったあと
「ーーあ、でも滝に一緒に行ったのは楽しかったよ♪」
と、セシリアは笑った。
お湯に身体を沈めるとセシリアは幸せそうそうな表情を浮かべた。
セシリア
「あったかいねー!」
アーサー
「……これはね、末梢神経って言って身体の隅々まであるんだ。それが血管近くにあるから血の流れが良くなると痺れるんだよ。だから、よく温まろうね」
セシリア
「アーサー君はものしりなんだね!いっぱいお勉強してるの?」
アーサー
「ーーまあ……そうだね」
アーサーは微笑んだ。
セシリアは読んでる本がドクシンキゾクでちょっと恥ずかしいと思った。
セシリア
「それはカピトリーナさんのためなの??」
アーサー
「ーーえっ、ちょっと!何でカピトリーナちゃんが出てくるんだよ!!」
アーサーは顔真っ赤にして、思わず水飛沫を上げて顔を手の甲で隠した。
セシリア
「だってアーサーくんみてたらカピトリーナさんが大好きそうだからそうなのかなーって思ったんだもん」
セシリアは悪戯っぽく笑った。
アーサー
「ーーそりゃあ……そうだけど」
アーサーは顔を横に向けた。
恥ずかしそうに頭をかいたアーサーの右手に光る銀の指輪が目に入った。
紋様が入ったもので、セシリアが初めてみるタイプのものだった。
セシリア
「…カピトリーナさんは、幸せだね。そんなにアーサー君に想ってもらえて…」
セシリアは無邪気にいった。
アーサー
「……だけどね。お互いがどんなに思っていたってうまくいかない事もあるのー」
アーサーは呆れたようにした。
セシリア
「………そうなんだ」
セシリアの瞳が暗くなったが、すぐにその瞳には銀の指輪が映っていた。
セシリア
「その指輪、綺麗だね!」
アーサー
「ーーあ……これ?曽爺さんの形見らしい」
アーサーはその指輪をセシリアに近づけて、見えやすいようにした。
アーサー
「どこの国の言葉か分かんない文字が彫られててさ……解読不可能」
セシリア
「どっかの国のことばなの??あ、だったら物知りなXさんに聞いてみたら??いっぱい色んなことを知ってるんだよ!」
アーサー
「ーーX……」
アーサーはもとからXに疑念を抱いていた。
セシリア
「??どうしたの?」
アーサー
「ーーあー……いや、俺も変わった人だなー。知りたいなーと思ってた人なんだ」
アーサーは笑って誤魔化す
セシリア
「Xさんはねーすごいんだよ。お水の魔法を使ったり、変な機械いっぱい作ったりしてるの。パパはね、Xさんにはペコペコしてるの。あ、これはみんなに内緒だよ」
アーサー
「……そう。魔法を?」
アーサーは顔つきが変わった。
セシリア
「うん!前に怖い魔物がきたとき、ママの魔法で燃やして、Xさんのお水の魔法がこの国を守ってくれたの!とっても凄かったんだよ」
アーサー
「ーーそれは……Xさんの考えかな」
アーサーの表情が少し硬くなったような気がした。
セシリア
「??わかんない……でも、ママは、Xさんに魔法を教わってたよ。ママ、最初は下手くそだったから」
アーサー
「ーー魔法協定違反……」
ボソリと独り言のように呟くとセシリアは首を傾げた。
セシリア
「なあにそれ??」
アーサー
「ーーいや、何もないよ」
アーサーはパッと明るく笑った。
セシリア
「なんでもなくないよー」
と言っていると、セシリアのお腹がクゥ〜と音を立てたのでセシリアは真っ赤になってぶくぶくとお湯の中に沈んだ。
アーサー
「よし、ご飯食べに行こう」
アーサーはニッと笑い、酒場に向かった。
アーサーはウィアラを見て驚くが、魔銃師アーサーの掟を思い出していた。
ウィアラさんには必要以上に絡むな。普段通りにしろと言われいるのでアーサーは動揺をなんとか隠し平然を装って料理を注文した。
セシリア
「アーサー君はベラスシチューが好き??」
アーサー
「んー……好きというか温まるよね」
アーサーは微笑んだ。
「セシリアちゃんはバーナ好き?」
セシリア
「うん、大好きー!!お魚美味しいよね」
アーサー
「ーーお魚は栄養がいっぱいだからねー」
2人はしばらく他愛のない話をしているのと、夜の帳がいつの間に降りていた。
食べ終わるとセシリアはぺこりと頭を下げた
「とっても楽しかったー!今日はありがとうございました♪」
アーサー
「元気になってもらえてよかった。こちらこそ楽しかったよ。じゃあまた明日。おやすみ」
アーサーは目を細めた。
セシリアはアーサーに手を振りながら酒場から出て行った。
入れ違いに、Xが酒場に入ってくる。セシリアと笑顔で挨拶を交わしたあと、
「あら、アーサー君。セシリア様と一緒だったの?」
とアーサーに声をかけてきた
アーサー
「こんばんは」
アーサーは顔色変えずに挨拶した。
「ええ、さっきまで」
Xは周囲に視線を走らせた。
「1人で大丈夫?さっきのリリーさんたちに会うと攫われちゃうわよ?」
アーサー
「……そうですね。どうせ、この酒場が彼らの今夜の宿でしょう」
アーサーは近くにあった席に座り溜め息を吐いた。
X
「彼女たちも、仕事できてるんだろうから仕方ないけどね」
彼らは誰かの命令で仕方なくきているんだろうとXも彼らの立場に多少理解を示していた。
X
「アーサー君はお酒飲める?とっておきのお酒があるんだけど」
アーサー
「飲めない訳ではありませんが……お付き合いさせて頂きます」
Xはウィアラに声をかけて、普段ではみることさえない高い酒瓶が数本テーブルの上に並んだ。
アーサー
「ーー何かの余興でしょうか?」
アーサーは聞いた。
X
「余興??お疲れであろうアーサー君をもてなしてるだけだけど。
………アーサー君はこわーい顔してるけど何かいいたそうね?」
アーサーのコップにお酒を注ぎながらXはいう。
アーサー
「ありがとうございます……頂きます」
アーサーは酒を一口飲んだ。
「いえ特には……ただ。なぜこんな青二才相手に酒を酌み交わすのかが分かりかねまして」
X
「このまま1人だとトア君たちに連れ去られちゃうんじゃないかと思って。帰るにしても自分の意思で帰りたいでしょ?」
Xは笑った。
アーサー
「……お気遣いに感謝致します……俺には居場所などあの国には母と同じでありませんから」
アーサーはふと微笑む。
X
「ーー居場所がないの?ーーそうーーお母様も貴方も辛い生活を送ってらっしゃったのね?」
アーサー
「……ええ。そうかもしれませんーー最近まで神に仕えていたため、禁酒だったので美味しいです」
アーサーは笑顔をXに向けた。
X
「それは良かった」
Xは微笑んだ。
「最近まで奏士だったの?偉いわね、大変なお役目を請け負って」
アーサー
「いえ……偉くはないですよ。家出した時に奏士を務めていた親友が気遣って交代してくれたんです」
アーサーは困ったように笑った。
X
「家出したの?気にすることないわよー、年頃の男の子ならよくある話じゃない」
そんなこと大したことじゃないから深刻になる必要はないとXは言っているようだった。
アーサー
「……そうですか?」
アーサーは少し笑った。
X
「そうそう。私も家出して、この国に住みついちゃったから。だからそんなに気にしなくていいのよ。落ち着いたらマーリンさんと話をしてみたら?」
アーサー
「ーーそうですね」
アーサーはどうせそこに戻るんだろうという顔をした。
X
「よほどマーリンさんの名前は出されてたくないのね?」
不機嫌そうな表情のアーサーにXはクスクス笑った。
アーサーは口元を歪ませた。
Xは空になりかけたアーサーのグラスにお酒を注いだ。
アーサー
「ーーあの……Xさん」
アーサーはXを真っ直ぐ見た。
「……いえ、レイラさん」
Xはアーサーを見つめた。
アーサー
「ーー貴女はアーサー・シャーフ先生をご存知でしょうか?」
X
「ーーなぜその名前を?」
マーリンがこの名前を知ったのは、生前のアーサーからの手紙が見えてしまったのに対して、このアーサーは最初から知っていた。
アーサー
「ーー直接本人から聞きました。味方にするには本人を名で縛れと」
Xーーーレイラは、ふぅとため息をついた。
名前を彼が教えたということは、レイラを頼れとこのアーサーに言ったのだろう。
レイラ
「ったく、あの人はろくでもないことを教えてるのねー」
レイラは呆れたように笑いながら、窓の外に見える星座に視線を向けた。
「…知ってるわよ、アーサー先生を」
星空を見ながらレイラは認めた。
レイラ
「もしかして……
カレイドスコープが発動したの?」
この若いアーサーが産まれる前にアーサー・シャーフは亡くなってるはずだ。
自分をレイラと教えられるのは、記憶で作られた幻影のアーサー・シャーフくらいしかいない。
アーサー
「ーーええ」
アーサーは確信を持ったかのように頷いた。
レイラ
「ちゃんと喋ったりしてるの?」
アーサー
「ーーへ?どこまでご存知なんですか」
アーサーは目を見開いた。
「もちろん。あの爺さんですよ?生きているかのようです。意地悪も言うし」
レイラ
「ーーどこまで?うーん……少し話は聞いてたくらいだけど、まさか、本当に発動する日がくるとは思ってなかった………でも、そう………魔法のアーサー先生もそんなに生意気な口を聞いてるのねー」
レイラは昔を思いだしながら懐かしそうに言った。
アーサー
「ーーレイラさんに会いたいと言ってました」
アーサーは魔銃師アーサーを引き合いに出した時のレイラの行動を試した。
レイラ
「ーーこんな年をとった私に会っても……」
レイラは僅かに動揺した。
「……アーサー先生は、相変わらず口がうまいわねー」
動揺を誤魔化すようにレイラは笑った。
その反応にアーサーは少し驚いた顔をしていた。
アーサー
「ーーどんなババアになってるか見て来てって」
アーサーは思わず笑ってしまった。
レイラ
「あらそう、帰ったらしっかり報告しておいてね。見る価値もないババアになってたって」
レイラは特に怒る様子もなく淡々と言った。
アーサーは少し笑ってから、切り出した。
アーサー
「ーーいえ。そんな事はないはずです」
レイラ
「………カレイドスコープが発動したということは………あなたの国は今、あまりよくない状態にある………ということなの?」
周囲に聞こえないよう、声をひそめて聞いた。
アーサー
「ーーはるか西の最果ての軍事国家の国が海賊を従えて襲撃してきました。爺さんが予言した通りです」
レイラの顔が強張った。
「………みんな無事なの?被害状況は?」
アーサー
「ーー皆無事です。しかし、平和と引き換えに1人の女性がグァバメキアの壮年の大佐と結婚させられます」
レイラはただのエルネアの女との結婚でグァバメキアが攻撃をやめるのか?と内心驚いていた。
ーーよほどの美女なのか、特別な力を秘めていたとしても、あの国はそんなに優しくはない…
レイラ
「ーーーーなぜ、その女性が結婚させられることになったの?」
アーサー
「ーー父親がグァバメキアの偉い人だったからだそうです。それに、自国は俺の曽祖父コーデリアス・クルーもグァバメキア出身でもありましたから。これ以上の襲撃を避けたいなら、この国を縁のある国という事にし、その娘と結婚しよう。これが交換条件だとグァバメキアの大佐が持ち掛けて来たんです」
レイラ
「ーーーーそれは大変だったわね……
………その条件は、現場指揮官の独断……かしら。あの国が、不用意にそんな攻撃をして、中途半端に攻撃をやめる……」
レイラは独り言のように呟いた
アーサー
「ーー俺も変だと思うんです……悪者なのに……俺、止めが刺せなかった。だけど、時々何気なく優しくしてくれたりして……自国を占領してる踏ん反り返った敵にも思えなくて…憎めない自分が悔しくて
ーーここに来る時も……爺さんと手を組んで俺を逃してくれました」
レイラ
「ーーーそんなにひどいことに……あの国にもいろんな人がいるんだとおもうーー他国の人々を苦しめることに疑問を抱く人もいる。もしかしたら、そういう人だったのかもしれない………」
アーサー
「ーーその人もその地位に登り詰めるの、大変だったようです。ご両親は任地先で亡くなり、今までの生活を追われたと。小さな妹さんの手を引いて軍需工場では冷遇されながら働いて勉強をしたようです」
レイラ
「…その指揮官の名前は?」
アーサー
「ーーキリル……あ、発音が間違った。えと……キリル・ラルクロワ大佐」
レイラ
「ラルクロワ………?」
レイラの声がかすかに震えた。
アーサー
「ーーはい」
アーサーはレイラの様子に息を潜めた
レイラ
「そのひとのご両親は任地先で亡くなった?」
アーサー
「最近まで…キリルさんはそう信じておられました……しかし、ご両親はご存命だったんです。自国に」
アーサーはキリルの思いと彼の両親の思いに胸が痛んだ。
だが、カピトリーナがそのせいで重症になったのは何ともやるせない気持ちだった。
レイラ
「……アーサー君の国に?」
アーサー
「………元諜報員だったキリルさんのお母様はあの時に王妃に活動が見つかった、と祖国を捨て生きるのか殺されるのか決めろ、と言われたと」
レイラは一瞬ひどく暗澹とした瞳になったがそれはほんの僅かの間だった。
レイラ
「ーーーその方も大変だったわけか……
ーーでもアーサー君たちには関係のないこと。辛い思いをしたわね」
アーサー
「ーーカンケー。大アリですよ」
アーサーは不機嫌そのものの顔で言った
レイラ
「聞かせて」
アーサー
「そのキリルさんがお母様と再会してしまって……魔力が暴発した。その時に俺の仲良しの女の子が電撃傷を負い、重症になった」
レイラ
「ーーもしかてその子が結婚させられる子?」
アーサー
「ーーその時に俺は姉に助けを求めた。だが、姉は小さな子どもは手術できないと一点張り。すると、グァバメキアなら助けられるだろうと俺はキリルさんに言った。キリルさんは自国の国民でないと医療機械などは貸せないと言った。
ーーそう。それでさっきの平和の交換条件に戻る。カピトリーナちゃんは身体の健康と国の平和。それと引き換えにそのキリルさんと結婚させられるんだよ」
レイラ
「………なるほど…」
レイラは酒を一口飲み考えながら言った。
「キリルさんだっけ?グァバメキアの人にしては、結婚して彼女の身の安全を確保しようとしてるのね……」
レイラはキリルがあの国にしては珍しいタイプの人間なのだろうか?と不思議がっていた。
アーサー
「ーーそう?」
アーサーは面白くなさそうにいった。
レイラ
「ーーもしかしてその子のこと好きだったりするの?」
アーサーの態度をみて察したレイラはニヤリと笑って聞いた。
アーサー
「ーー好きですよ。呆れるくらいにね」
意外にもあっさりと認めたアーサーは哀しそうに笑った。
目の前のアーサーが魔銃師アーサーと重なった。
レイラ
「……………………そっかぁ……」
レイラは辛そうに呟くとグラスに入っている酒を身体に流し込んだ。
アーサー
「ーーレイラさんは?そんな話の一つや二つ、あるんでしょう?」
アーサーはふざけたようにレイラの杯に酒を注いだ。
レイラ
「ないない、普通の平凡なものよ私なんて。」
小さく手を振りながらレイラは笑うと話題をアーサー本人にまた戻した。
「その子もアーサー君のこと好きだったんじゃない…?」
アーサー
「さあ?……それはどうか」
アーサーは笑いながら首を傾げた。
レイラ
「好きな人と一緒になるのって…
難しい事なのね…」
レイラは無表情で呟いた。
アーサー
「ーー1番好きな人とは結婚できないんじゃないかな……でも。両親を見てたら、全ての人がそうなのではないのかもしれないとも思います」
レイラ
「……マーリンさんはアリスさんにベタ惚れみたいね。」
少ししか見ていなくてもマーリンがアリスを大切にする様子がレイラにもよく分かった。
「………あなたのおじいさんであるアーサー先生は、天賦の才の研究をしているコーデリアスさんに言われるまま、イレーネさんと結婚したけど、その結婚生活はあまり幸せなものではなかったんだって……
だからあなたのお父さんのマーリンさんは家族をとても大切にするんだと思う」
アーサー
「ーーどうして……天賦の才の研究の事を……?」
アーサーは驚きを隠せなかった。
天賦の才による研究成果の本は魔銃導師居室に隠されていたので、アーサーは自分達だけが発見したと思っていたからだ
レイラ
「…本人たちがそんなことを言ってたから」
アーサー
「……そうなんですか」
レイラ
「ねぇ、アーサー君。マーリン先生を許せないようだけど、その理由って何なの?差し支えなかったら教えてくれない?」
アーサー
「ーーご存知ですよね。俺が将来の王配になる事」
レイラ
「そういえばさっきトア君が言ってたわね」
アーサー
「ーー俺は国が襲撃された時……ある事件を目の当たりにしてしまって……王太女に守るって約束してしまったんです」
レイラは黙って聞いていた
アーサー
「ーー王太女は俺以外の男性には心を開けなくなりました。このままでは王家断絶の危機です」
レイラ
「それであなたが将来の王配なの……」
王女に何があったのか詳細は聞かなかったが男性に心を開けなくなる状況になるようなことにレイラはなんとなく察した。
アーサー
「両親は俺の自由を尊重し、大切に育ててくれました。だけど、俺は成人したはずなのにおかしな事が起こったんです」
レイラ
「おかしな事?」
アーサー
「ーー時間が戻っていた。つまり、成人した記憶が僅かにあるのにまるで夢を見ていたかのように目を覚ますと国は襲撃されていなくて、そこには元通りの日常がありました。赤い軍服を着た戦士が国中にいる事以外は」
ーー同時に俺の好きな子の名前も住民台帳から消されていました」
アーサーは苦しげな表情を浮かべた。
「ーー夢だったのか?と何度も思いながら成人式に臨み、成人しました。だけど、変だったんです。それで、ある大人が教えてくれたんです。これは仕組まれた事だ。君は記憶を操作されたんだよ、と………
ーー全ては……国のために俺を王配にさせなければならないと、俺を思いやった父が行った事でした」
酒場ということもあり、アーサーの声はそれほど大きくないが、怒りがこめられていた。
「ーー俺はどうしてもその子の事を忘れられず、殿下と付き合いながらも、その子と会っていました。それが父にバレたんです」
聞き終えてレイラは少しの間、無表情で何か考えている様子だった。
レイラ
「………カレイドスコープのアーサー先生もそれでいいと思ったの……?」
アーサー
「ーーアーサー爺さんは何も言わない人ですから」
アーサーは静かに言い放った。
誰かが階段を降りてくる足音が聞こえた。
階段からおりるという所作だけでも洗練された身のこなしの只者ではない雰囲気を纏った男と女がやってきた。
一斉に他の旅人の注目を集める。
「こんばんは」
トアはにこやかに挨拶をし、後ろにいたリリーは気まずそうに膝を曲げて挨拶をした。
導師が生徒にある宿題を出したらしいけど、
セシリア様が書いたものを見て顔が引きつってたらしい。
セシリア様は何書いたのかなー?
聞いたら
セシリア
「ぜったいひみつって導師様とやくそくしたの」
だって。気になるなー。