217年 [訳ありの旅人]マーリンと魔銃師会の女 | エルネア王国モニカ国の暮らし。

エルネア王国モニカ国の暮らし。

エルネア王国の日々の備忘録です。妄想もかなりあります。モニカ国。他のゲームの事も気ままに書いていこうと思います。
多忙のためのんびり更新中です。アイコンは旧都なぎ様のきゅーとなクラシックメーカーより。

任天堂Switch版エルネア王国をもとに書いています。


前回は



この続きからとなります。




 



※ 手術描写や医療面に関しまして。
あくまでも、明絃さんの個人的な考えに基づく
ものです。






麻酔という薬のおかけでぐっすりと眠っているリンゴの傍にティアゴはついていた。

リンゴは規則正しい呼吸をして今は痛みを感じずに深い眠りについている。

 
アリスもリンゴのすぐ近くで様子を見ていて急変したときに備えて待機していてくれていた。


こんな状況で、なにかをする気はないのになぜだろう。
 
 
アリスのピュアな瞳でジッと見られるとティアゴは落ち着かない気持ちになった。
 
 
きっとティアゴは穢れているんだな
 
 
そうこうしているうちに、誰か王家の居室に入ってきた。
 
 
血を飲むとかアホなことを言うやつは誰なんだとこっそり見るとティムだった。
 
 
ティアゴ
(…この国はアホしかいないと思われそうだ…)
 
アホの代表格=イマノル
 
 
輸血の説明を受けてもバルナバは動じていない様子だったが、輸血のために再び針を刺されるとティムは不安そうな顔をしていた。
 
 
ティアゴ
「……そんな顔するなって。すぐに終わるよ」
 
 
 
バルナバ
「リンゴちゃんは?!大丈夫?」
 
ティアゴの姿を見るなりバルナバは勢いよく聞いてきた。
 
 
ティアゴ
「マーリンさんとアリスさんのおかげで助かりました。今は薬が効いてぐっすり寝ています」
 
 
ティム
「………よかった」
 
ティムが安堵のため息をついた。
 
 
 
ティアゴ
「魔獣のほうはどうなってますか?」
 
 
バルナバ
「遺跡から何体か出てけっこう騒ぎになったよ。Xさんたちが遺跡の森、薬師の森、禁断の森、各遺跡のダンジョンは安全が確認できるまで立ち入り禁止にするって」
 
ティアゴ
「それが懸命ですね……」
 
バルナバ
「ここにいるのが陛下じゃなくて、ティアゴ君なんだ…」
 
何が言いたいのか察してティアゴは、
 
ティアゴ
「あー……陛下は………手術?が怖かったみたいで出ていかれました。俺は輸血したあとここで休んでたんですよ」
 
と説明するが「そうなんだ」と言うバルナバは意味深な目でティアゴを見ていた。
 
 
 
マーリン
「ティアゴさんは俺がここで休めと言ったのですよ。緊急事態だったので、ティアゴさんからはかなり多めの血液を頂いたのであまり身体を動かして頂く訳にはいきませんでしたから」
 
バルナバの様子に何か感じたのかマーリンが説明するとバルナバは納得したような顔をした。
 
 
バルナバ
「なるほど……」
 
 
そこにパタパタと足音が聞こえてきて、入室制限をしているこの王家の居室に遠慮なしに誰かが入ってきた。
 
セシリア
「ママー!!」
 
手術が終わったと人づてに聞いたセシリアは、いてもたってもいられず、リンゴの様子をみにきた。
 
バルナバとティムが針を刺していて一瞬驚いた様子だったが、セシリアはまだ血を抜いているマーリンに駆け寄った。
 
 
セシリア
「ママは?!ママは大丈夫なの?」
 
 
マーリン
「ーーあ…セシリアちゃん。ママは大丈夫だよ。でも、まだ眠たいみたいだから、起こさないで顔だけ見てあげてね」
 
 
疲労の色を滲ませ、目の下にクマができているマーリンはセシリアを安心させるように微笑んだ。
 
 
セシリア
「うん!」
マーリンさんなんか顔かわった?
コクリと頷いてセシリアは隣の部屋のベッドに向かう。
 
マーリン
「焦るのは分かるけど、大人しくしててね」
 
セシリア
「はーい!」
 
 
リンゴが横たわるベッドのそばにアリスが立っていた。
 
 
アリスをチラッと見て立ち止まり、リンゴのところに向かった。
 
 
リンゴはぐっすりと眠っていてセシリアはそっと頰に触れた。
 
 
ティアゴ
「あれ、セシリア様。手、すりむいてますよ」
 
 
セシリアたちの方にきたティアゴが、セシリアの手がすりむいているのに気づく。
 
 
セシリア
「あ…ほんとだ。きづかなかった…」
 
それどころじゃなかったからなのか、指摘されるまで気づかず、指摘された途端に少し痛みを感じた。
 
 
ティアゴ
「薬を塗って差し上げますからこちらへ」
 
 
セシリア
「うん」
 
 
リンゴから離れるさいに名残惜しそうに振り返り、ティアゴと共に隣の部屋に行く。
 
椅子に座ってティアゴが薬をつけおわるとマーリンがセシリアを手招きした。
 
マーリン
「ーーあ、セシリアちゃん。薬塗ってもらったなら、こっらにおいで。傷口をガーゼで覆ってあげるよ」
 
 
セシリア
「ありがとうマーリンさん!ティアゴさんもありがとうー!」
 
 
ティアゴ
「どういたしまして。………なんか外がうるさいな?」
 
玉座の間から声が、聞こえてきた。
 
 
イマノル
「ここは今、立ち入りが制限されてだなーって聞いてる?」
 
制止しているイマノルを無視して誰かが入ってくる。
 
息を切らせながら、駆け込んできた人物にティアゴはキョトンとした。
 
 
 
レドリー
「セシリアちゃんは…魔物に襲われたって聞いて…リンゴさんが怪我をされたのは聞いたけど、セシリアちゃんは無事なんですか⁉︎」
 
 
セシリアはマーリンにガーゼをつけてもらって機嫌良さそうに笑っていた。
 
 
ティアゴ
(なんで怪我したリンゴよりセシリア様…?)
 
 
バルナバ
「セシリア様は、かすり傷ですんだみたいだよ」
 
黙ってしまったティアゴのかわりにバルナバが答える。
 
 
セシリア
「あ、レドリー君!」
 
レドリーの姿を見つけてセシリアは驚いた顔をした。
 
 
レドリー
「………あ…無事で良かった……」
 
ホッとしたように顔を綻ばせるがすぐに、
その人誰?という目でレドリーはマーリンを見ている。
 
 
セシリア
「この人はマーリンさん!とってもすごい人なの」
 
医者なのかよくわからないセシリアはとってもすごいと人と紹介した。
 
 
マーリン
「初めまして、マーリンと申します」
 
 
マーリンは僅かに表情が固くなった気がした。
 
セシリアが泣いた原因を作ったレドリーに対してマーリンは内心怒っていた。
 
 
レドリー
「……はじめまして。レドリーと申します」
 
挨拶をしながらかすかに感じるマーリンからの威圧。
 
____なぜここにきたんだ、そう言われているような気がしてレドリーは身体を強張らせた。
 
 
バルナバ
(………マーリンさんが、なにか怒ってらっしゃる…?)
 
輸血中で動くことはできないバルナバは居心地悪そうにした。
 
 
 
マルティナ
「レドリーさん…こんなところでどうしたの?皆の邪魔になるから、帰ろう」
 
 
レドリーの後を追ってきたのだろう、マルティナが入ってきて部屋の中の雰囲気に少したじろいでいた。(主にマーリンから発せられるなにか)
 
 
レドリー
「……あぁ、うん……そうだね」
 
目の前の謎の「とってもすごい人」が今度は睨んできてる気がしてレドリーは困惑した。

お前がきたことで、余計な奴がついてきたとマーリンは更に怒っている。
 
 
レドリー
「セシリア様お大事に」
 
セシリア
「うん……ありがとう」
 
レドリーはマルティナと一緒に帰っていった。
 
 
せっかくレドリーがきてくれても、マルティナまできたのでセシリアは気分が沈んだ。
 
 
____2人一緒なのは見たくない___
 
 
 
ティアゴ
「あのー……うちの馬鹿息子がなにかマーリンさんにご迷惑を………?」
 
 
ティアゴは遠慮がちに、恐る恐るという様子でマーリンに聞いた。
 
 
マーリン
「ーーあの青年がティアゴさんの家のご子息だって…?」
 
少し驚いた様子のマーリンにティアゴはあいつなにかやりやがったなと思った。
 
 
ティアゴ
「次男のレドリーです。成人してすぐに奏士になったのでもう家から出ています___息子がなにかしてしまったようですみません」
 
まさか泥団子投げてないだろうな?とティアゴは心配になった。
 *ティアゴのレドリーのイメージはまだ子供の時のまま
ローデリックの顔面に泥団子を投げつけたことがある。
 
 
マーリン
「ーーいえ、差し当たって俺には何も。さあ、セシリアちゃん。ママはもうちょっと寝させてあげてね」
 
マーリンはセシリアに優しく声をかけた。
 
セシリア
「はーい!」
 
 
リンゴが眠っている部屋からアリスがやってきて、アリスはパックに貯まっている血液量を確認すると、針が固定されているバルナバの腕に優しく触れた。
「あ、そろそろ終わるわね…じゃあ、バルナバさん。針を抜きますね。身体の力を抜いててくださいね」
 
バルナバ
「…ありがとうございます」
 
謎の針を抜かれる時バルナバは緊張していた。
 
ティムも同様に処置されて2人の血が入ったパックを持ってアリスは隣の部屋に戻っていった。
 
 
 
 
一連の作業を見ながら、ティアゴは先程マーリンが言っていた台詞を思い出していた。
 
 
ティアゴ
(俺には何も、ね。レドリー、お前は誰になにをした)
 
 
セシリアはマーリンに何が話かけ楽しそうに笑顔を見せている。
 
 
その様子見ていたティアゴはマーリンが子供の扱いが慣れてるなぁと感じた。
 
 
ティアゴ
「マーリンさん、子供の扱いに慣れてるようですがお子さんいらっしゃるんですか?」
 
 
マーリンは一瞬顔を硬らせた。
 
「ーーええ。4人います」
 
 
マーリンの態度に聞かないほうがよかったかなとティアゴが思った。
 
セシリア
「マーリンさんとアリスさんの子供?きっと頭良さそうー!会ってみたいな!」
 
大人たちの気持ちなど気づかないセシリアは無邪気に言った。
 
 
マーリン
「ーーそうだね。一番上の娘はサリアって言うんだ。お人好しで誰よりも優しい子だよ…」

そう説明するマーリンの目が一瞬泳いだ。

サリアの説明をしつつ、一緒に連れてきたカルミア殿下の説明をしている彼は後ろめたさを感じていた。

マーリン
「3人目はベロッドって言うんだ。穏やかで優しい男の子でね…よく差し入れをくれたものだよ。4人目はヴァレリー…アリスの目によく似た女の子さ」
 
表情を和らげて子供たちの事を話すマーリンは父親の顔をしていた。
 
セシリア
「………2人目の子は?」
 
マーリンの話す子供たちの中に、2人目の子供が入ってないことに気付いてセシリアは悪気なく聞いた。
 
ティアゴが一瞬セシリアを見たが何も言わなかった。
 
 
 
マーリン
「ーー2人目は……アーサー。俺の父の名前に因んだんだ。小賢しくて気が良い奴なんだが…色々と残念な奴でね。奏士になったと聞いたよ」
 
 
 
息子の話だというのに、その言い方にティアゴはマーリンを見つめた。
 
 
セシリア
「ざんねんってなにがざんねんなの?おべんきょうしないでいっぱいあそんてたの?」
 
更に聞こうとするセシリアにティアゴたちは内心焦った。
 
 
 
マーリンは声を上げて笑った。
「ーーあははっ!確かにあいつは遊んでもいたけど、学年一の首席だったよ!医学の勉強のセンスもあってね…あの子がいるなら、あの国も何とか…」
マーリンは虚しそうに声のトーンを落とす。
 
 
バルナバとティアゴはチラリと顔を見合わせて視線を逸らせた。
 
 
あまり触れてはいけない話題だったのだろう。
 
 
 
セシリア
「………マーリンさん、その子と喧嘩しちゃったの?」
 
 
マーリンは微笑んだ。
「…ん?何でだい?」
 
 
セシリア
「だって、マーリンさん……その子の話をした時………寂しそうな顔をしてたよ」
 
 
マーリン
「ーーああ…ごめんね。俺は間違いをしてしまったんだ。あの子の気持ちを考えず…国のためを思ってね」
 
 
目をパチクリさせて、セシリアはジッとマーリンを見た。
 
 
セシリア
「悪いことしちゃったら、ごめんなさいすればいいんだよ!」
 
 
マーリン
「ーーそうだね…でも、ごめんなさいが足りないくらいの事をおじさんはやってしまったんだよ」
 
 
セシリアの頭を撫でながら、マーリンは微笑んだ。
 
 
 
セシリア
「………ごめんなさいじゃ足りないの?マーリンさんはその子をいじめちゃったの?」
 
小首を傾げて聞いた。
 
 
マーリン
「そうだね…いじめた事には変わりないかな。彼は…ずっと我慢していたんだろうね」
 
 
セシリア
「なにを我慢してたの?」
 
 
 
マーリン
「国である事が起こって…王太女の許婚がアーサーだと決まった。俺は国のために…アーサーと彼が好きだった女の子を引き離したんだ。」
 
 
思った以上に込み入った話に、バルナバとティアゴは再度顔を見合わせて視線を逸らせた。
 
 
 
セシリア
「………それは、マーリンさんもつらかったね」
 
少し大人のように真剣な表情を浮かべた。
 
 
マーリン
「…辛くないよ。彼に比べればね」
 
マーリンはアーサーを打った右手を見ていた。
 
 
 
セシリア
「その……あーさーくんは王太女さんとけっこんするの?」
 
 
マーリン
「…分からない…」
 
 
セシリア
「………………そっかぁ。でも、、謝れるなら謝ったほうがいいよ………許してもらえなくても。私、ママにバカって言っちゃて、謝れなかったからママは怪我しちゃった」
 
セシリアは俯いた。そんなセシリアの頭をマーリンは優しく撫でた。
 
マーリン
「…本当だね。謝らなきゃね。もう遅いかもしれないけどね」
 

セシリアはコクリと頷いた。
 
 
マーリン
「ーーセシリアちゃんは謝れる?」
 
 
セシリア
「……うん……ママ、怒ってるかなぁ。セシリアのせいでいっぱい痛い思いしちゃって」
 
セシリアは悲しそうな目をした。
 
 
マーリン
「そうか、偉いね。ママは怒ってないよ。セシリアちゃんの事が大好きなだけだよ」
 
セシリア
「………………セシリアもごめんなさいと助けてくれてありがとうするから、マーリンさんもざんねんなあーさー君にごめんなさいするの。やくそくだよ」
 
セシリアはゆびきりげんまんだよ、とマーリンに小指を差し出してきた。
 
 
マーリン
「今度会えたら、謝るって約束するよ。シズニの神に誓って」
 
小指を絡めてゆびきりげんまんをした。
 
 
 
 
その様子を3人の男たちがジッと見ていた。
 
 
 
ティアゴ
「これでちゃんと謝らないといけませんねセシリア様。セシリア様が約束を破ると、ざんねんなあーさー君がパパと仲直りできなくなってしまいます」
 
 
マーリン
「でも、ママに謝るのは明日以降だからね」
 
 
セシリア
「……う、うん……ざ、ざんねんなあーさー君のためにもママに謝るよ」
 
セシリアは責任重大だと思い謝る決心を固める。
 
バルナバ
「ざんねん、ってとってあげた方が……」
 
 
そこに何人かが王家の居室に入ってきた。リリーがセイ、モモ、ジェレマイアの兄のフランシスコを連れてきた。
 
 
リリー
「連れてきました。あれ、バルナバなんでここでくつろいでるの?」
 
王家の居室のソファーに座っているバルナバの姿はとても違和感を感じた。
 
珍しすぎる光景というのだろうか。
 
 
バルナバ
「血を抜かれた…」
 
けしてのんびりしている訳ではないとバルナバは言いたかった。
 
 
ティアゴ
「バルナバさんとティム君の血液型がリンゴと一致したので輸血に協力してもらったんです」
 
 
リリー
「2人とも…あとティアゴもありがとう。」
 

リリーはマーリンに向き直ると深々と頭を下げた。


リリー
「娘の命を救っていただきありがとうございました」


マーリン
「……当然のことをしたまでですよ」

マーリンは優しげに微笑んだ。




 
 
 
リンゴの状態が安定していることもあり、リンゴをアリスに任せてマーリンは酒場に向かった。
 
 
酒場ではXが独りで酒を飲んでいた。
 
その後ろ姿がかつてのマーリンの母に重なり、声をかけた。
 
 
マーリン
「Xさん、こんばんは。本日はお疲れ様でした。
 夕食も今からご馳走になります」
 
 
X
「……マーリン先生、お疲れ様。ーー少し話があるんだけどいい?」
 
 Xは自分の席の向かいに座るように促すと、マーリンはそのまま座った。
 
二人のところに酒と食事が運ばれてきた。
 
 
 
X
「今日はリンゴちゃんを助けてくださってありがとうございました。あなた方がいなければ今頃リンゴちゃんは………この国の国民として、感謝しています。本当にありがとうございます」
 
 
マーリン
「ーーとんでもございません。俺達にできる限りの事を尽くしただけです」


 
Xは酒を少し飲んでから切り出した。
 
X
「単刀直入に言うけど」
 
Xは3人の入国時に書いた書類をテーブルに置いた。
 
 
X
「ここに書かれてる苗字……変えた方がいいんじゃないかと思って。」
 
 
マーリン
「ーーご指摘ありがとうございます」
 
 
 
X
「なんでそんな提案するって聞かないの?」
 
 Xは無表情で聞いた。

マーリン
「ーーでは。お聞かせ願いましょう」
 
 
X
「最初に聞かないところをみると、私が何か気付いてることに気付いてるのね?____クラフ姓は目立つわよ。アリス・クラフ、マーリン・クラフは特に」
 
 
 
マーリン
「ーーご忠告頂きましてありがとうございます」
 
マーリンは落ち着いた声を出しているがXを注意深くみている。

 
X
「じゃあ、テキトーな姓に書き変えちゃう?面倒なら私が勝手に変えておくけど…」
 

マーリン
「ーークルーと名乗ります」
 
 
X
「素敵な姓だけど、クルーも……やめた方がいいんじゃないかしら…」
 
 
マーリン
「ーーお見通しという事でしょうか?」
 
真顔のマーリンが怒っているのかと思ったXは説明することにした。
 

X
「___嫌な気分になるわよねぇ。元々情報をいれてるの。とある国に襲撃されたことがある関係でね。たまたま有名人がきたから気づいた、ってだけなの」
一度言葉を切って、酒を飲んで続けた。
 
「そっちの国は荒れてる?んでしょう?あなたたちお忍びにきてるみたいだけど、目立つんだもの………ああ、言いたくないだろうから詳細言わなくていいわよ」
 

ベラベラとしゃべり、どうする?と書類をマーリンの方へ押しやった。
 
 
 
マーリンは目を閉じた。
「ーーどこまでご存知なのでしょう」
 
 
Xはすぐには答えなかった。思案しているのか、しゃべるのが面倒なのか………
 
 
 
X
「………瓜二つの姉妹がいる国で、マーリンさんが龍騎士になったこと……」
 
コップのお酒をコクリと飲んでから、
 
「マーリンさんたちの息子さんが
ざんねんなあーさーくんだということ、かしら」
 
Xはニヤリと笑った。
 
 
マーリン
「ーー俺達の素性はお見通しという訳だ?」
 
 
X
「さあ………でも気持ちいいものじゃないわよね。ベラベラ喋られるのは」
 
Xはあくまで書類を書き直してもらいたいだけで別に正体を暴きにきたわけではない。
 
 
ーーアーサーの息子のマーリンたちの身を案じただけであり、彼らの邪魔になりたいわけではない。
 
 
マーリン
「ーーいえ、貴方達も決して気分の良いものではないでしょうから…俺達の事をどこまでご存知なのかは知りたいところです」
 
 
マーリンという男はジッとXを見ていた。警戒しているのか、興味本位で知りたいのか、両方なのか。
 
 
 
X
「………私が知ってるのはセーラという名の女性の噂。
本当に美しくて聡明な王妃が王家入りした。その王妃は魔銃師だったが、騎士隊入りし、評議会議長の座を譲らなかった。龍騎士の座も。王と手を組み、独裁政治を行い、弟でさえも評議会を追放した…」 

例え美しく聡明な王妃であったとしても、Xはあまり好きな女性とは思えなかった。
 
「…アーサー・シャーフという魔銃師の噂。
端正な顔立ちをした緑色の髪を持ち、女だけでなく人々を惑わしたという。頭脳明晰で魔術と医術の腕も抜群だが、世渡り上手。早死だったという。龍騎士の称号も得た男」
 
 
アーサー・シャーフ…マーリンの表情が少し変わったような気がしたのをXは横目で見ていた。
 
「コーデリアス・クルー
どこの国から来たのか、医術をある国に広める。だが、クルーという家名を聞いて、知らぬ者はいない………氷を操り、危険視されている家系だったからだ。だからクルー姓は、念のため避けた方がいいかしら」
 
 
Xはにこやかに笑った。
「これが私の知ってる代表的な噂かしら。言っておくけど、みんなが知ってるわけじゃないのよ?特定の、ルートで頼んで仕入れてるの」
 
 
しゃべり疲れたXはふうと息をついて、
 
「マーリンさんって、アーサーさんによく似てるわよねぇ……」
 
とグラスの中で氷が溶けて、沈んでいくのを見つめた。
 
 
マーリン
「……そうですか?Xさんはアーサー先生に会った事があるんですか?」
 
 
X
「私は昔旅人だったの。この国にくる前にお会いしたことがあって……アーサーさんもまだ若かった頃ね」
 
 
 
 
マーリン
「ーー随分とご苦労されたようですね。アーサー先生も若い時代があったんですね」
 
 
X
「私が会った頃はチャラかったかしら」
 
当時を懐かしむというより、苦笑いしていた。
 
 
 
 
マーリン
「……えっ、あのアーサー先生が……まあ、確かに口は上手い世渡り上手な人でしたが」
 
 
 
X
「……人には若くてちょっぴり弾けちゃう(?)時があるのよ、アーサーにも。あの頃はまだ子供っぽさが抜けなくて?」
 
言い終わった瞬間、Xは固まった。それはほんの一瞬で、
 
 
X
「で、名前どーするの?書かないなら変なやつにするわよ?」
 
書類を書くように、書類を指でトントンとつついた。
 
 
マーリン
「ーーアーサー…?」

マーリンはXを訝しげに見つめる。
 
 
X
「マーリン・アーサーって名乗るの?」
 
 
マーリンはムスッとして
「…っ!ーーいえ、マーリン・シャーフと名乗ります」
 
 
X
「怒らないでよ、可愛い顔が台無しよ?マーリン先生」

Xは茶化すように言う。
 
 
マーリンは顔を真っ赤にした。
「ーーっ!」
 
 
顔を真っ赤にするマーリンの様子にXは笑いながら、じゃあ、書類書いてねとぺんを渡してきた。
 
 
三人分の書類を書いてもらうとXは大事そうにそれを鞄にしまった。
 
 
X
(これ以上、ボロが出ないうちに撤退ね……)
 
 
X
「書類も書いてもらったし、じゃあ、またねー」
 
 立ち上がるとふと思い出したようにマーリンに向き直る。
 
 
X
「あ、そうだマーリンさん。あなたお酒に強いんですって?」
 
 
マーリン
「…嗜み程度ですよ」
 
 
 
X
「この前はイマノルがお世話になったそうで。山岳隊長を沈ませたんだから、今度は私と飲み比べしてくれない?」
 
Xは明るい声で言った。

 
マーリンは笑いながら
「買いかぶりすぎですよ」
 
 
 
X
「この国の人ってお酒よわいでしょ?私、自分より強い人みたことないから、気が向いたらちょっとだけ付き合ってよ。こんな機会でもないと他の国の人と飲む機会ないし」
 
 
マーリン
「俺では役足らずになるかもしれませんよ」
 
 
 そう言いながら、マーリンは店主のウィアラに酒を追加で注文した。
 
 
X
「今日でいいの?大丈夫なの、疲れてるでしょう?」
 
後日に飲み比べをしようと思っていたXは少し驚いている。
 
マーリン
「かまいませんよ…またとない機会です。お受け致しましょう」
 
 
X
「じゃあ、付き合っていただこうかしらマーリン先生」
 
 
帰ろうとしていたXは座りなおし、ウィアラが運んできたお酒に手を伸ばした。
 
 
 
マーリンは帽子をとり、上着を脱いだ。
「それで…Xさんの気が済むなら」
 
 
 
帽子をとったマーリンの姿にXは目を開いたが視線が合う前にそっぽを向いた。
 
 
X(似てる似てるとは思ってたけどここまでとは………)
 
 
マーリン
「…?」
 
マーリンは訝しげにXに視線を向ける。

 
X
「………あぁ、お父様によく似てるなぁと思って。よく言われるでしょう?」
 
 
マーリンは突然の振りに驚きつつ、冷静に答える。
「…ええ。まるで生き写しだと」
 
 
X
「そうでしょうね……」
 
 
マーリンは不思議そうな目で見つめる
 
 
X
「お父さんの話ばかりされてもいい気しないわよね?ごめんなさい。酒代もアリスさんたちの食事代も出すから遠慮なく飲んで」
 
 
 
マーリン
「ーーアーサー先生が、俺の父だといつ分かったんです?」
 
 マーリンは真っ直ぐにXを見た。
 
X
「___え?」
 
Xは僅かに動揺した。
 
「さっき言ってなかった?」
 
 
マーリン
「ーー俺はあくまでも『アーサー先生』と父の事を呼んでおりました」
 
 
冷静に言うマーリンの態度にXは乾いた笑い声を出した。
 
 
X
(自分じゃきづいてなかったけど……私は今冷静じゃない……)
 
 
失態にXは自嘲気味に笑った。
 
X
「シャーフ姓。あれ見たときに確信したの、アーサーの息子さんだって」
 
隠すのも面倒だと説明した。
 
 
マーリン
「ーーアーサー…?」
 
 
X
「……?………!」
 
 
Xは焦った。
 
 
まさか、少し酔いだした?ザルの自分が?
 
 
今日はずっとダンジョンでボス級と連戦だった。疲れ果てていたのは自分だった。
 
だが今更、引き下がれない…
 
 
 
マーリン
「シャーフ姓…?俺はただもとの姓からシャーフに変えただけだけど?」
 
 
マーリンの言葉にXは失態に失態を重ねたことに気付いた。
 
 
X
「あっ……」
 
Xのグラスの氷がカランと沈んでいく。
 
「………少し酔ったのかもしれない」
 
 
マーリン
「…そう?」
 
 
信じてない様子のマーリンを尻目にXは酒を煽った。
 
 
しばらく2人は無言で酒を飲んでいた。
 
 
 
X
「マーリン先生………」
 
 
Xは階段をみて誰もいないことを確認すると切り出した。
 
 
X
「………アーサーは…殺されたの……?」
 
Xは、それは嘘であってほしい、と思いながら口にしたがそれはマーリンの反応ですぐにかき消された。
 
 
マーリンは動揺していた。
「…っ!」
 
 
 
そんな動揺しているところもアーサーに似てるなと懐かしく思いながら____その噂は本当であることを思い知らされてXは辛くなった。
 
 
X
「____本当、なのね。ごめんなさい、嫌なことを聞いてしまって」
 
 
Xは表情を悟られたくなくて目を閉じた。
 
 
 
 
X
「あのアーサーが、私に何も言わず亡くなるなんて思わなかったの……」
 
 
 
 
Xの言葉にマーリンは訝しげに目を細めた。
 
 
 
 
マーリン
「ーーその情報をどこで?数少ない仲間しか知り得ません」
 
 
 
X
「………あなたのお父さんとはたまに手紙のやり取りをしていたんだけど、突然途絶えたから何かあったのかと思って調べさせてたの。ごめんなさい」
 
Xは調べていたことを謝った。
 
 
マーリン
「ーーなるほど。それにしても、手紙…だけですか?俺は貴女を何度かどこかで見かけた事がある気がするのですが。」
 
 
X
「私は一年くらいそっちの国にいたからその頃?」
 
 
マーリン
「ーーいえ…1年間だけじゃなく…何度も」
 
 
X
「人違いじゃないかしら」
 
 
マーリン
「ーーそうですか」
 
マーリンは表情なく酒を飲むと、愛想良く微笑んだ。
 
マーリン
「…失礼。人違いですね」
 
 
Xもとりあえず笑うとおもむろに鞄から一通の手紙を取り出して、手紙を広げた。
 
 
X
「これアーサーさんからの手紙」
 
ざっと目を通してからXは読みあげた。
 
 
『次男マーリンがかねてから噂をしていたアリス王女とようやく結婚した。結婚に怯えていた姪を結婚へと誘導するのは骨が折れるものだった。陛下と姉貴で話した結果、シャーフ家は畳まざるを得ないようだ。未来はない。魔銃師家系として名高い一族だったが、これも俺が招いた結果なのだろう。』
 
 
 亡きアーサー・シャーフが生前書いた手紙の内容に、マーリンは驚きを隠せなかった。




この話の続きは


→明絃さん担当に続きます♪