これは、ニンテンドースイッチ版エルネア
王国の日々でのプレイを基にした物語です。

▼登場人物




しばらくの間、イムゆめさんと共同制作を
させて頂いております。




前回はイムゆめさんが担当です。










マーリンはよく分からないXという名の
女性と対峙していた。



ーーこの人は…あんな不透明な父さんの
何を知っていると言うんだ?




「これアーサー先生からの手紙」




鞄からまるで骨董品でも扱うかのように
取り出した手紙をざっと目を通してから
Xは読みあげた。



『次男マーリンがかねてから話をしていた
アリス王女とようやく結婚した。結婚に
怯えていた姪を結婚へと誘導するのは骨が
折れるものだった。陛下と姉貴で話した
結果、シャーフ家は畳まざるを得ないよ
うだーーもはや未来はない。魔銃師家系と
して名高い一族だったが、これも俺が招い
た結果なのだろう』





「ーーえっ、どういう事ですか⁉︎」





驚いたマーリンは思わず遮ってしまった。





「……… アーサー先生は陛下に忌み嫌わ
れていて、魔銃師家系のシャーフ家を強制
的に畳ませた。その横にはセーラ王妃もいた」




Xは腕を組み、その語調には静かな怒りを
込めていた。



「ーーセーラ⁉︎セーラって…父さんの姉貴
で…俺の伯母ですよ⁉︎」



マーリンは衝撃のあまり、椅子から落ち
そうになった。




「……そのセーラ王妃ね」

 

Xは静観するかのように呟いた。




マーリンは絶句して言葉が出ない。




「………知らなかった?変な話聞かせちゃ
ってごめんなさい」


Xはチラッとこちらの様子を伺うように
しながら、酒を飲み進めた。



「ーーいえ…そんな噂は耳にした事があり
ましたが…まさか、王家が絡んでいたなんて」



マーリンは過去にアリスがシャーフ家は
断絶されたのだと噂されていたと言ってい
た事を思い出していた。




「……自分の娘を守ってくれた弟に、よく
もそんなことができたわよねぇ………」



Xは酒を煽りながら、小馬鹿にするかのよ
うに言った。



怒りの矛先はなぜかセーラに向けられて
いた。それは魔銃師アーサーに憐みを感じ
ての発言に聞こえた。



マーリンは伯母を貶されたとしても、父
アーサーに憐みを向けているのは何故なの
かと気になり、不思議と怒りを感じなかった。




「……そんな。まさかセーラが…セーラが
そんなはず…!」



それ以上に突きつけられた真実にマーリン
は狼狽した。



「セーラ王妃は、マンハリン陛下に逆らえ
なかったとしてもーーシャーフ姓が断絶
するなら、断絶は避けるべきだと進言くらい
できるでしょう?あなたが助けたリンゴ
ちゃんは、ヴェルンヘル陛下にそれをし
たわ。ティアゴのバーナード姓が危ないか
ら息子のイラリオ君の姓をバーナード姓に
してほしいと。なぜ、セーラ王妃は身内
すら守れないの?王妃なら、姓の断絶に
気づいたら進言してもおかしくないでしょう?」




ーーこれは国によって、考え方も違うだろうが。




Xの怒りは、シャーフ家を断絶させた王家
ではなく、あくまでもセーラに向けられて
いたのは明白だった。




「……まさか。セーラは…俺の家は…幼い
頃から両親が魔銃師で、仕事が忙しくて…
よく代わりに面倒をみてくれていたんです
…そんなセーラが…父さんに」



マーリンは信じられないまま、優しかった
セーラの事を理解を求めようとした。



「………そう。優しい人だったのね、マー
リン君には」



Xはグイッと一気に酒を飲み干した。




「ーーXさんは…セーラもご存知で?」




マーリンも酒を飲み、慎重に聞いた。




「見かけたことがあるくらい。あとは…
アーサー先生から話を聞く程度。とっても
可憐で綺麗な人だったわね。本当にお人形
みたいでーーまるで……操り人形」



吐き捨てるように言うと、Xは笑っていた。



セーラに対して良い印象を抱いていない事
は明らかだった。

 

マーリンは眉を歪ませた。




ーーセーラの事なのに、なぜか悔しくて
涙が出そうだった。



「……そうですね…俺が知る限り、セーラ
は甥の立場から見ても、本当に美しい人でした…」



マーリンは少し冷静さを取り戻しながら、
冗談っぽく笑った。



「ーーあの人は本当に父さんの姉か?なん
て思った事もあります」




「……アーサーさんだって、モテてたわよ?」




Xが笑顔で言った。




「ーー両親揃ってエナの子だと周りから
聞いてはいましたから…まあモテなかった
という訳ではないでしょうね」




マーリンはあの父アーサーは確かにモテて
もおかしくはないだろうなと思いつつ、
誤魔化しながら酒を飲み進めた。



それに対し、Xは含んだ笑い方をした後、
いきなり席を立った。



「…こちらから飲み比べ提案したけど、
明日武術職合同の討伐作戦があるから、
帰ろうかな」



Xは潔く鞄の中に書類が入っているかを
確認していた。





「ーー父さんの死因は毒殺です」





マーリンは声を低くし、Xの注意を引く
ようにした。




ーーXはどこまで知っているのか、知って
いたとすれば味方になってくれるのだろう
か確認するためだ。





「………毒殺?!………アーサーは殺され
たっていうの?」



Xは息をするのかを忘れたのではないかと
疑うくらいに目を見開き、大声を上げた。




マーリンは慌てて周りを気にした。




「Xさん、声が大きいです」




「ーーごめんなさい」



Xは謝ると、座り直してマーリンを見つめた。




「………その話は本当なの?」




マーリンはこの人物には全てを話しても
問題ないだろうと思った。



「ーー本当です。俺達…もとはアリスが
気づいた事なのですが、父さんの死には
不自然な点がいくつもありました」



Xは訝しげに眉を潜めた。




「不自然な点?」



マーリンは滑らかな口調で説明した。



「ーー一般的な老衰による死ならば、だん
だん眠くなっていき息を忘れていくような
安らかな死でしょう」



マーリンは続けた。



「しかし、父さんの場合は違いました…
呼吸困難に陥り、アリスによれば胸痛も
あったそうです」



Xは辛そうにし、その声は震えていた。



「………………………なんて惨い………」



マーリンもやり切れない思いだったが、
淡々と話す義務に専念した。


「ーー俺達は真相を究明しました。原因は
カエン茸による毒殺。なぜ分かったのか
というと…それも俺の母、イレーネの吐瀉
物から検出されたからです」



Xは呆気にとられた表情を浮かべた。



「アーサー先生の奥様まで毒殺されたって
事…?なぜ…奥様まで殺さなきゃならない
の…」
 


マーリンは淡々と言った。



「ーー大きな声では言えませんが…あの
ソレイダ評議会を追放された父さんと、
その評議会で何かあったらしいと母に伝え
てくれた、母の兄であるロバートが死んだ
…その伯父の死も早すぎるし…父さんは、
皆が死を意識し始める20歳になった翌日
に死んだ…それと同時に王太孫が誕生した」



マーリンは自身の声が震えるのを感じた。



「母さんは…父さんの死の真相を追求
していたら…亡くなった」



「犯人に繋がる何かに気づいたか、真相に
辿りつく前に消されたかーー犯人は、王家
の関係者か命じられた誰か………」



Xは考えるようにしながら顔を歪ませた。



「さっき、カエン茸による毒殺って言っ
たわよね?そっちの国の魔銃師会は、殺し
を請け負うって事…?」



「ーー!祖国の魔銃師会は…祖父が医学の
礎を築いた、崇高な団体です!そんな殺し
なんて滅相もない!」




マーリンは思わず感情的になってしまった。





Xは頬杖をつくと、なぜか顔を綻ばせた。




「カエン茸って、国民ではなかなか扱うの
が難しいものだけど、それが使われた事に
ついてマーリン先生はどう思っているの?」




Xの言葉にマーリンは我に返った。



「ーーもちろん。まずは魔銃師会の人間を
疑いました。その中でも医学知識のある
医療班を。祖国の魔銃師会は2つの担当に
分かれていまして…医療班と遺跡研究班と
いった具合に。しかし、誰も見つける事が
出来ませんでした。やり口からすれば、
医学知識のある人間が絡んでいる事は明確です」



Xは気難しそうな顔をした。



「…犯人は既に他界してるかもしれない。
そうだとしたら、永遠に分からないかも…
…命じたのはマンハリン陛下…だったのか
しらね…?」



マーリンは拳を握った。




「ーーそう…。遅すぎたという事は分かっ
ていますよ。誰だったのか…」





「仕方ないわ…まさかそんな事をする人間
がいるなんて思わないもの。毒殺である事
を見抜いた、それだけで凄い事よ」



俯いているマーリンの肩にXは軽く触れた。




「……今日は疲れたでしょう。そろそろ
休みましょうか」




マーリンは顔を上げた。





「ーー飲み比べの勝敗は?」


 

Xは少し困ったようにしながら、肩をトン
トンと叩いてきた。



「それはまた今度にしましょう?明日合同
で討伐作戦がーーあ、さっきティアゴに
会ってきたけどフラフラしてたの。リンゴ
ちゃんに輸血したとか言って。ティアゴ
って、明日戦えるのかしら……?」




マーリンは首を横に振った。



「ーー無理です。あの時はティアゴさん
しかリンゴさんの血液型に合う人がいなか
ったので規定量の2倍採血しました。造血
を待つために安静にしないと危険です」



Xは呆れたように笑った。



「やっぱり……本人は陣頭指揮とるき満々
だったけど」




ーー頼むから無茶しないでくれ。




マーリンは溜息を吐いた。




「うちトップ2人が不在かぁ……戦力的に
困ったわね…」 




Xは本当に困り果てているようだ。




「ーー承知しました。では、代わりに俺が
指揮を取りましょう」



もう闘うつもりもなかったマーリンだが、
落ち着き払った声で言った。



「………それはすごく助かるけど…マーリ
ン君だって相当疲れてるでしょう?無理し
なくていいのよ?」



Xは驚いた様子だが、心配そうにした。




マーリンは姿勢を正し、威厳と落ち着きを
加えた声で言った。




「ーーいえ。このまま引き下がる訳には
参りません」




Xは誇らしげに目を細めると、声を震わせた。




「その正義感、お父様そっくりね………
こちらとしては助かるわ。魔獣の数が増え
すぎて困ってるし…お願い…できますか?」



「…Xさん…?」



マーリンは今にも泣きそうなXを見て、
目を見開いた。



「ーー ちょっと…今日は…酔っちゃた
みたいねー……」




Xは誤魔化すようにして笑った。




マーリンは戸惑ったが、ハンカチを胸元
から取り出すと、Xのプライドを傷つけ
ないためにそれを無言で手渡した。




Xはハンカチを受け取ると、靴音を響かせ
ながら会計に向かっていった。




テーブルに置いてあったままの手紙が
目に入った。



手紙は丸められており、あまり見えないが
宛名がXが通った反動でヒラヒラしていた
ので垣間見えた。





ーー『親愛なるレイラへ』





ーーえっ…?





マーリンは思わず目を見開いた。




流れるような綺麗な文字だが、急いでいる
かのように字体が崩れている。




ーー父アーサーからの手紙に違いなかった。




Xは何事もなかったかのようにして戻ってきた。




「ーーじゃあ、私は帰るわ」




Xは気まずそうにしながら笑顔で去ろうとした。





「ーーレイラさんというお名前なのですね」




Xーーレイラは驚いてマーリンを見た後、
テーブルに置いたままの手紙を見た。




「あ、見えちゃった?」




レイラは苦笑した。





「ーーええ…見るつもりはなかったのですが」




マーリンは見えた事は気まずかったが、
父アーサーがレイラに親しみを抱いていた
ように感じた。



レイラはいきなり抑揚なく答えた。



「私、祖国から逃げてきた身だから違う
名前を名乗ってるの。レイラは本名」



マーリンは訝しげに目を細めた。



「ーーだから、俺達に理解があると?…
それにしても、なぜ父さんが貴女の真の名を…?」



「アーサー先生がいた国では1年もいたか
ら……アーサー先生は私を哀れに思ったの
か相談に乗ってくれたの。その時に名前を
うっかり言ってしまって……貴方達がどん
な事情でここにきたのかは知らないけど、
我が国に害がなく、王妃を救ってくれた
人に対して、できる限りのことをしようと
しただけよーーこの答えじゃ不満?」



レイラは眉一つ動かす事なく言った。




「ーーうっかり名乗る?貴女ほどの用心
深そうな人がうっかり名乗るなんて事…
あるのでしょうか?」



マーリンは信じられない気持ちだった。




酒の量や飲むペースから察するに、先程か
ら飲酒に関しても、レイラは疲れて調子が
悪いらしく自制していたような人間だ。



「私も昔は若かったし、アーサー先生って
口が上手いじゃない?安心してついポロっとね……人たらしなのよ、アーサー先生は!」



レイラは必死に誤魔化そうと笑っているようだ。




「…あの…父さんと何かあったんですか?」




マーリンは怖気づきながら聞いた。




「酒場でお酒を飲みながら相談に乗って
もらったくらいだけど」



レイラはテーブル上にある手紙に手を伸ばし、丁寧に仕舞った。




「ーー聞いても良いですか?」




マーリンは切り出した。




「ーーその時。どちらが酒で潰れましたか?」




レイラの顔が一瞬強張った。




「若い女性が酔い潰れて…何もなかった
のですか」



マーリンは追い詰めるように聞いた。




「ーー私みたいなガサツな女に、アーサー
先生が手を出す訳じゃない!考えすぎよ、
マーリン君」




レイラは笑い飛ばした。




「ーーでも。言ったじゃないですか、安心
して口が滑って真の名を言ってしまったと
…その時なんじゃないですか?言ってしま
ったのは」



マーリンは眉を潜めた。




「お酒を飲んで酔っ払った席で、言った
のよ。それに…私みたいなのが言い寄っ
た所で、モテモテのアーサー先生がなびく
訳ないから」



レイラは調子良く言った。





マーリンはレイラの腕を掴み、顔を近づけた。




ーーこれは、父アーサーから教えられた
手練手管だ。




国が襲撃された時、女王に取り入るために
使った事があるが、あの時は利用する勇気
もなく魔銃師アニータに唆されてできたよ
うなものだった。



ーーだが、この力を使うのはあまり気分の
良いものではない。




「…そうですか?貴女も可愛らしい顔立ち
をされていますが?貴女に魅力を感じない
男なんていたのですかね」






「……?!」



マーリンの予想外の行動にレイラは動揺
したようだが、何とか体裁を保ったようだ。




「口が上手いのねー、マーリン君は。アー
サー先生は、祖国から逃げるしかなかった
哀れな小娘に情けをかけて相談に乗って
くれてただけなの」




マーリンはさらに近づく。



「ーーいえ、口は不器用なほうです。
そうですか…?こんなに可憐な人に相談
だけで終わるのかな?…そして…貴女も。
それくらいで真の名を口滑らすのかな…?」



 
「ーーじゃあ…その過去。教えてもらっ
ても?」




レイラは口角を上げながらも明らかに動揺
していた。



「同じ状況ならマーリン君は手を出しちゃ
うって言いたいの?アリスさんという可愛
い奥さんがいるのに…?」




マーリンはレイラの腕を掴んだまま聞いた。




「ーーアリスは関係ないだろ。ただ、どう
すれば…真の名を教えてくれるのかと思っ
てね。今、いつもの貴女としては珍しい
くらいにかなり酔っていますよね?じゃあ、どうして…貴女の過去を教えてくれないのかな?」




マーリンの考察としては、この祖国から
逃げてきたような警戒心がかなり強かった
と思われるレイラが酔い潰れて、父アーサーに真の名だけでなく、そんな人には言えなさそうな過去まで教えたという事に違和感を感じた。




ーー泥酔した事を理由にするならば、今
ここで俺にその過去を教えてくれても良い
じゃないか。




ーーただ。それ以上の感情や関係があっ
たから、教えたんじゃないのか?





レイラは早口に言った。





「……アリスさんは関係なくはないでしょ?あんな可愛い奥さんがいたらそこらの女に手を出す必要なはい。アーサー先生も同じだったと思うけど」



レイラは糸口が見つかったかのように話す。



「あと、教えてくれないの?とは真の名の
事?アーサー先生とは何度か話して何度も
飲んだから、それで油断してポロっと出ち
ゃったの。こんな私でも昔はただの小娘
だったのよ」




マーリンは口許をキュッと噛んだ。




「ーー家庭が冷えきってるなら話は別ですよ。ご存知でしょうが、うちの家は冷え冷えとしていましたから」



マーリンは幼い頃の自身を思い出していた。



「ーー泥酔した事を理由にするならば、
今ここで俺にその過去を教えてくれても
良いんじゃないですか?へえ…何度も飲む
くらい仲良かったんだ?」




レイラは極まりが悪そうな顔をしていた。




「……アーサー先生は家庭の話はあまり
しなかったからそれはうまくいってないと
かそんなことは知らなかった。何度も飲ん
だけど、お互い酒場で飲んでる所を偶然
会っただけでーーアーサー先生は、あの国で
1人ぼっちの私に気を遣って声をかけてく
れたの。ほら、人たらしなところあった
でしょ?あの人」



レイラはこれで話は終わりだと言わんばか
り笑みを浮かべていた。




人誑しなところあったでしょ?という部分
ではますます笑みを深めた。




ーー人誑し…これが切り札だったのだろう。





だが、マーリンは引き下がらなかった。




「ーーあの父さん…実は独りか、セーラと
しか飲まなかったのですよ。人誑しなの
ですが、他人には気を許さない人でした。
という事は…貴女には気を許していた」



「それは貴方が生まれてからの話でしょ?
昔は違かったのかも」



レイラは視線を彷徨わせた。




「…どういう意味ですか?」



マーリンはさらに聞いた。



「昔はそこまで人を遠ざけてなかったん
じゃないの?私みたいな奴でも話を聞いて
くれたんだし……」



ーー本当にそう思ってるのか?




マーリンは真剣な眼差しで聞いた。




「ーーレイラさんが知っている、アーサー
・シャーフは本当にそんな人でしたか?」




レイラは顔色を変えたが、やがて自嘲する
ように笑った。



「……そうね。彼は私に同情してただけ。
さっき私の過去なことを聞きたいみたいな
話を言ってたけど、気分の良い話じゃないわ。私は両親に、産まれた時から兵器を作る仕事をさせることを決められて、幼い時から宿舎に入れられていた。唯一の友人は、母に毒殺されそうになるし、嫌になって国を出た。祖国に戻れば多分処刑されるわね。そういう国なのよーーアーサー先生はそれを哀れんでたまに一緒に飲んでくれた…ただそれだけ」




しかし、その声は再び震え始めていた。





ーー先程の父の死を偲ぶ震えとは違う事に
気づいた。




ーー少なからずとも、父さんが哀れな彼女
の心を大きく占めていたのは事実なのだろう。





ーー俺の負けだな。





マーリンは自嘲するかのように独り笑うと
静かに頭を下げた。




「…そんな過去があったなんて…失礼な事
をお聞きして申し訳ありません」




それに対し、レイラは首を横に振った。





「別に大した話じゃないから気にしないで」




レイラは震える声をそのままにして、背中
を向けた。



「………そろそろ帰るわ。明日、掃討作戦
よろしくね、マーリン君」




「…何かあったんですか?」



レイラの背後に丁度、酒場に入ってきた
山岳兵団バルナバと遭遇した。




ーーマズイな。





マーリンは平静を装い、紳士的に振る舞った。




「実は先程まで飲み比べをしていて…2人
とも勝敗がつかないほど飲んでしまいまし
て…バルナバさん、彼女を連れ帰ってあげ
て頂けませんか?」




バルナバは素っ頓狂な声を出した。




「ええぇ?あのXさんが、そこまで飲んだって?……わかりました、Xさん帰りますよ」




バルナバがレイラを呼んだ。





少し経ってから、マーリンはバルナバの
身体状況を思い出し、思わず大声を上げた。




「ちょっと待った!バルナバさん、400cc
を採血してるので安静にしててください!」




「ーーわ、分かりました!」




バルナバは慌てて返事をした。




「………マーリン君、またね。おやすみな
さい」



レイラは少し表情を和らげた。




それに対し、マーリンは無表情だったが、
少し微笑んだ。




「おやすみなさい」