任天堂Switch版エルネア王国をもとに書いています。
リリー、リンゴ、バーニスの三人娘。
すぐ後ろに、黒い魔物がいる___
このままじゃ開門できない、帰れない。
リンゴは馬の向きを国とは違う方に向けた。
自分たちのせいで、国のみんなを危険な目に遭わせられない。
リンゴ
「バーニス、ごめんね...危険な目に遭わせて」
バーニス
「なに言ってんの!私はね、自分の意志でリンゴについてきたんだよ!」
バーニスはこんな状況だというのに、明るい声で恨み言一つ言わなかった。
「それに、助けたいって思ったのはわたしも同じだった。リンゴと一緒なんだよ」
バーニスの言葉にリンゴは救われるような気持ちだった。
リンゴ
「ありがとう、バーニス..」
バーニス
「この赤ちゃん、、エルネアでシズニ様たちにお願いしてガノスに連れていってもらおう。諦めちゃだめだよ」
リンゴ
「うん...!」
リンゴは力強く頷いた。
「リンゴー!!」
遠くから、聞き慣れた声が聞こえた。
「お父さん..?」
国の松明の光で僅かに分かるくらいだが、父親が馬に乗って近づいてきた。
ジェレマイア
「俺が引きつけるから、タイミングはかって門の内側に行くんだ!」
リンゴ
「お父さんは?!」
ジェレマイア
「俺のことはいいから!どのみち、二人乗りしてたら馬が疲れ果てて二人とも喰われるぞ!!」
リンゴたちが乗っている馬の息が上がっている..
リンゴ
「___分かった..必ず戻るから、お父さん、それまで持ち堪えてね」
ジェレマイア
「戻ってこなくていい!それより、早くいけ!」
黒い魔物の行く手をジェレマイアが乗った馬が塞いだ。
その間に、リンゴは方向をエルネア王国に向け、馬を走らせる。
イマノル
「開門ーー!」
リンゴたちの姿が近づいてきたのを確認して、門が開かれる。
まるで雪崩れ込むように門内に走り込んだ。リンゴたちが帰還するとすぐさま門が閉じられた。
馬は完全に息が上がり、乗っていたリンゴとバーニスは汗だくだった。
バーニーたちが帰還した二人に駆け寄り、バーニスは抱っこしていた赤ちゃんを馬から降りるため一度バーニーに託した。
バルナバ
「その子...」
リンゴ
「...せめて、シズニ様たちにガノスに連れていってもらおうと思って..後で神官様にお願いしようと思います」
すでに息をしていないということに一同は沈痛な面持ちになった。
リリー
「二人とも、無事で良かった..」
リリーは少しホッとした顔をしていたが、表情はかたかった。
外にはまだジェレマイアが取り残されている。
ガラが駆け寄ってきて、桶の水を馬に飲ませてくれた。
リンゴ
「私は一度、城に戻る」
リンゴは転移魔法で城に戻った。
エルネア城の地下には武器庫がある。普段、そこを利用することなどないのだが、ギオルギーはここから爆弾を出していた。
「あった..」
目的の物を見つけて、それを全部鞄に放り込んだ。すぐに転移魔法で、みんなの所に戻った。
X
「何をするつもりなの?」
リンゴ
「爆弾魔の真似をしてみようかと」
リンゴは馬の頭を撫でた。
「お願い、もう少し頑張って」
リンゴは馬に跨った。
「開門して下さい」
「だめだ」
異を唱える者がいて、リンゴは声のする方を振り返った。
リンゴ
「早くしないと、お父さんが危ないの」
馬上から見下ろすと、険しい顔をしたティアゴがリンゴを見上げていた。
ティアゴ
「あの魔物、普通じゃない。リンゴが行くのは反対だ」
武術職のメンバーが勢ぞろいしたこの場所で、二人に視線が集まった。
リンゴ
「この国で馬を操れるのはほかにいるの?見殺しにしろと?」
ティアゴは返答に困って視線をそらせた。
リンゴ
「アートさん、開門」
アートが困った顔をして立ちすくんでいる。
リンゴ
「開門して下さい」
ティアゴ
「開門しないでください」
リンゴ「・・・」
ティアゴ「・・・」
二人は無言でにらみ合った。
リンゴ「ティアゴ君、お願い、行かせて」
懇願するがティアゴも頑なに反対した。
ティアゴ
「リンゴは王妃だよ。これ以上危ない目に遭わすわけにはいかない」
誰も口を挟まずに見守っていた。リンゴが行くという意見も、ティアゴが反対する理由も間違ってない。
リンゴ「・・・」
リンゴは素早く銃を抜くと、一発発砲した。
低い銃声が辺りに響き渡った。
イマノル
「うわ、あいつ味方に向けて撃ちやがった..」
銃声に皆が驚いた顔をしている。リンゴの放った魔銃は、アートの足元に着弾し、地面を抉っていた。
威嚇射撃だとはいえ、威力は十分にある。
アラルコス
「リンゴさん?!」
山岳兵団の隊長アラルコスは驚愕して声をあげた。
リンゴ
「アート、開門しなさい!これは、王妃命令です!!」
リンゴの魔銃は、アートに向けられていた。
(こんなところで時間をとられるわけにはいかない!!)
ティアゴ「リンゴ!!」
抗議するようにティアゴが馬上にいるリンゴに叫んでいる。
アート
「は、はい!!」
アートは反射的に頷き、慌てて開門する。リンゴはすぐさま馬を走らせた。
ティアゴ「あのバカ..」
暗闇に消えていくリンゴの背中に、ティアゴは苦々しく呟いた。
リンゴが飛び出したあと、ヴェルンヘル陛下が到着した。
バーニー
「陛下!ここは危ないので、どうか城までお戻り下さい」
ヴェルンヘル
「・・今見張り台から見えたが...あの魔物、北の国から討伐依頼が出ているNO354じゃないだろうか」
ヴェルンヘルが一枚の紙をみんなに見えるように出した。
ヴェルンヘル
「つい先程、知人から寄せられたものだ。
この魔物、動きが俊敏、噛み砕く力、振るう腕の力はほかの魔物を凌駕する。
小さな村は一晩で食い殺され、大きな国でも多くの犠牲者をだし、討伐に失敗した。
奴は___女性の血肉を好んで食べる」
ヴェルンヘルの言葉に、皆が言葉を失った。
バルナバ
「・・・そんなやつが、この国の周辺に..」
アート
「陛下..申し訳ありません..リンゴ様を行かせてしまいました...」
アートは真っ青な顔をしていた。髪の毛も青いのに顔まで青いと境界線が分からなくてどこから顔だが分からなくなりそうだ。
ヴェルンヘル
「妻は王妃でもあり、魔銃導師であり、龍騎士でもある。龍騎士として、戦いに赴くのを誰が止められるだろう。アート、何も気にすることはない」
ヴェルンヘルは優しい笑みを浮かべた。
リンゴの乗った馬が、黒い魔物とデットヒートを繰り広げているジェレマイアに接近した。
リンゴ
「お父さん!!!」
ジェレマイア
「バカ!なんで戻ってきた!!?」
リンゴ
「城から手榴弾を持ってきた!爆弾を投げたら徐々に後退して!タイミングをみて、お父さんは門内に!お父さんが後退できれば投げまくって、奴に大ダメージを与えるから!」
ジェレマイア
「手榴弾..?そんなもの、城にあったのか..」
ジェレマイアは少し思案してから、
「爆弾なんて、使える?大丈夫か?」
リンゴ
「大丈夫、勉強しましたから」
ふふん、と自信ありげに笑ったが内心自信なんてない。
この日のためにではないが、以前爆弾魔になると宣言した時に多少知識はいれた。
が
使うのは初めてだということは、ジェレマイアには秘密だ..
ここでジェレマイアを信用させないと、彼を助けることは出来ないとリンゴは思った。
ジェレマイア
「不安しかないけど..それでいこう」
不安が拭いきれない表情を浮かべているが、これ以外方法が思いつかない。
リンゴは魔物距離を少しとった。
魔銃を構えて発砲すると、魔物は俊敏に動き、弾を避けた。
リンゴ
(速い..!..速すぎる..!)
二発、三発続けて撃つが、魔物は流れるように避け、跳躍した。
着地地点は、リンゴがいる場所。
リンゴ「!!避けて!」
手綱を引いて、馬が駆け出した。危うく馬ごと引き裂かれるところだった。
魔物は着地すると、そのまま風のように走って追いかけてくる。
魔物の口からなにが吐き出され、リンゴたちのすぐ近くに着弾した。
リンゴ「!!!」
一瞬、息が出来なくなった。
リンゴ
(あの魔物..瘴気を吐いた...あれをまともに受けたら身動きとれなくなって喰われる..)
生きた心地がしなかった。
まるで、この魔物は、死神にみえた。
ジェレマイアを乗せた馬がエルネア王国方面に走り去り、距離があいたのを確認すると、リンゴは手榴弾のピンを抜き、魔物に向かった投げた。
手榴弾の威力は、思っていた以上に凄まじかった。
ジェレマイアやリンゴに砂煙が襲う。
リンゴ(ギオルギー君、これを投げてたの?怖..)
元祖?爆弾魔のギオルギーに畏れと敬意を抱くリンゴであった。
砂塵で視界が奪われるなか、リンゴは手綱を素早く動かした。
馬が避けたその場所に、黒い魔物が飛び出してきた。
リンゴ「・・無傷?」
直撃してなくてもダメージは与えたはず。
しかし、ピンピンしているではないか。
黒い魔物の動きをよく見ると、足を少し引きずっているように見えた。
リンゴは馬を走らせた。
距離を少し開けて、もう一度手榴弾を投げつける。
夜中の荒野に、何度も凄まじい爆発音が響き渡った。