――胸糞悪い。
本を閉じて一番最初にそう思った。口の奥で血の味がするような感覚に似た気持ち悪さだった。
ミステリー小説を読む際に殺人事件は付きものだと言うことは理解していた。しかし、もっとマシな表現の仕方があっただろう、と思うことがある。血しぶきが上がるだの肉片が飛び散るだの、やたらグロテスクに描写した所でまったくリアリティ。そういった文章はいくら読み進んでいっても面白みが無い。結局は作者のネガティブな妄想を延々と聞かされているだけに過ぎない。
私は絶対にこうなりたくない。読み終わった本の表紙を眺めながらそう思った。3部作だと書かれている作品の続きを読むことはきっと無いだろう。
不倫すらも美しく書けるあの人の様に、何度だって恋をしたいと思えるそんな文章を書けるようになりたいと改めて感じた。
少しだけ嫌なものを見て、少しだけ前に進めた。そう思ったら1冊の本に費やした時間は無駄じゃないと思えた。