そもそも、と思った。
 図書館からの帰り道も、頭を抱えながらノラ・ジョーンズの歌声を聞いている時も、眠りにつく直前も、目が覚めてからも何度も何度も考えた。
――そもそも、今まで創り上げてきたものは必要無いのではないだろうか。
 小さくても良いから自分の城が欲しいとせっせと築き上げてきたものは結局、砂の城だった。脆く、今にも壊れそうな城だった。
 きっと私は疲れているんだ、と思いながら砂の城にスコップを突き刺した。


 頭の中では不幸しか描けなくなっていた。




――怖い。切ない。苦しい。辛い。
 そんな負の感情を全部含みながら夢は進んでいった。
 ここ十年近くで変わった環境の全てが夢の中では元通りになっていた。亡くなった筈の人は何事もなかったかの様に生きていて、私はとても幼かった。
 恐怖を感じながら何度も何度も目が覚めた。
 その度に隣にはグッスリと眠る彼がいて、私は心の底から安心した。目を覚ませば怖いことなんて何にも無いのだと教えてくれているような気がした。
 そしてまた私は眠りについた。

 つい昨日まで傍にいた文字達は部屋の何処かに隠れてしまったようだった。部屋中をグルグルと歩き回っても文字達は一向に姿を見せなかった。
――もう好きにしなさい。
 半ば諦めかけて泥だらけの彼の靴を洗うことに専念した。

 それからと言うもの、靴を干してみても、お湯を沸かしてみても、ノラ・ジョーンズを口ずさんでみてもダメだった。
 完全に文字達は姿を見せない。
 暫く頬杖を付きながら画面と睨めっこを続けていた。刻々と時間だけが過ぎていった。
 私がガクリとうな垂れる度に、文字達は遠くからチラチラとからこちらを窺っているようだった。
――隠れてないで出てくれば良いのに。
 気まぐれな文字達は姿を表すまで放置しておくことに決め,、パソコンを閉じた。
 小雨の中、私はのんびりと図書館へ向かった。