子供たちの笑い声が遠くに聞こえて、明るくて快適な家では家族との楽しい会話が続けられている。それでも私は心から幸せだと思わなかった。
 顔が見えないこと、声が聞けないこと。それらがこんなにも私を不安にさせていることに驚いた。
 この古い家ではゆっくりと時間が流れる。穏やかな川のようにゆっくり、ゆっくり。
 小さな旅だと考えようと思った。旅先ではいつだって不安なものだから。



 心のこもって無い言葉を延々と――如何にも心を込めて話していますと言った顔をしながら――話す女子の薄っぺらな会話を聞いていた。
 甲高い声で――まるで超音波のように――しか会話のできない女達にウンザリした。
 きっと彼女たちは1人になれば相手に対しての文句を心のなかで呟き家に帰るのだろう。そして眠る頃には会話の殆どを忘れるだろう。
 別の席には汚い言葉ばかり口にする女がいた。隣にいる恋人であろう男は彼女の言葉をどう思っているのだろう、と一瞬だけ考えたがそんなこと無駄だとすぐに思った。恋は盲目、と言う様に周りからどう思われようとも愛さえあれば全てが良く見えてしまうのだ。
 店内には忙しなく、少し威圧的に店員が動き回っていた。甲高い声で会話を続ける女子達と黙々とPCに向かう自分とどちらが嫌な客なのだろう、と思ったがどちらも変わらずに迷惑な筈だ。それでもただ見て見ぬふりをして忙しなく歩き続けるのだった。
 彼が目の前の席から離れてから、時間がやけに遅く流れていく様に思えた。まだ30分しか経っていないにも関わらずもう1時間も2時間もこの場所にいる様に思えた。現に私の腕は冷房で冷え、血の巡りが悪くなっていた。
 あと少し経ったらこの場所を離れようと思った。冷房も女の甲高い声も身体に悪影響な気がしていた。


 空は晴れもせず気温も上がることなく、今朝の自分が嘘つきになっていく。誰も私を責めることは無いが少し心地が悪かった。
 向かいのマンションは夕日が当たり、橙に染まっていく。その様子を見ながら少しずつ日が暮れていくのを感じた。
 お願いだから雨だけは降らないで、と空を見上げながら願う。空には意地悪そうな重たい雲がいて私の心を不安にさせた。
 まだ乾かない2度目の洗濯物に触れながら、軽く溜息を漏らす。
 天気予報はずっと曇りマークが続いていた。