いつもより少しだけ早く起き、洗濯機を回した。ただ、それだけ。
 洗濯機を回しつつベッドに戻ると、まだ自分の体温が残っていて寝転がると背中が汗ばむ感覚がした。
 隣にはまだ眠りに付いている彼がいた。そっと近付き、背中に顔を埋めると柔らかな落ち着く香りがして、再び目を閉じた。
 ほんの数分足らずの出来事ではあったが、彼の傍に寄り添って眠る時間は私の心を幸福で満たしていった。
 目が覚めてからはいつもと変わらずに彼を見送り、たっぷりの洗濯物を干した。
 晴れの予報にも関わらず空は曇っていたが、気持ちは晴れ晴れとしていた。TVで気象予報士が秋の香りがすると言っていたのを思い出し、空気を吸うと確かに秋の香りがした。
 朝の数分の余裕は1日を心地良く始めてくれる。そんな気がする朝だった。




 ここ最近、日が暮れるのが早くなったように感じる。じわりじわりと冬の足音が聞こえるような気さえしていた。
 夕暮れ時と曇り空が相俟って外はやけに暗く、部屋の中だけ浮き上がるように明るかった。
 遠くの方で最後の力を振り絞るかのようにか細く蝉が鳴いていた。
 ふとテーブルの上に残されたお椀を眺めながら、つい先ほどまで彼がこの部屋にいたことがまるで夢だったかのように思えた。柔らかな肌の感触も、心地良い体温も、全てが幸せな夢のようだった。
 夢の余韻に浸りながら、私はぼんやりと今夜の夕食のことを考えていた。食事を作ればまた彼が帰って来てくれる。だから私は毎日、食事を作るのだと思った。
 遠くの方で蝉が鳴き続けていた。


 枕をどうにかしなければ、と思ったのは昨夜。クタクタのクッションではもう心地の良い睡眠は出来なくなっていた。
 案の定、酷い肩こりを頭痛で目覚めたのが今朝。
 肩こりの薬は一向に効かず、副作用だけが喉の奥からせり上がってきていた。
 これから幾らでも変えられる未来を悲観している人や母親面ばかりしている愛の少ない人の言葉が私の頭痛を刺激していた。
 ほんの些細なことが少しずつ少しずつ私を攻撃しているようで、何もかもが煩わしく思えた。
 これだから天気の悪い日は憂鬱だ、と外を見ていた。