欲が無い、と言う状態は生きている心地を奪う。
ほんの一瞬の抱擁しか出来ずに、彼はまた出掛けていった。
この街に来て、1人だけで食べる食事はもう数えきれないほどあるが、未だに慣れることは無かった。その度に空腹感があるにも関わらず、食欲は湧いてこなかった。今日も変わらずにそうだった。
冷蔵庫の中身と睨めっこをしながら、自分の余力も計算した。普段は何気なくしている作業でも自分の為となると急に億劫になるものだ。
キャベツと昼食の残りのハムを刻み、小麦粉など残りの材料を混ぜてフライパンに流し込んだ。材料さえ揃っていればお好み焼きが一番楽な料理だと私は思っている。
弱火でじっくりと加熱している間、私はキッチンとPCの前を行ったり来たりしていた。何をする訳でもなく、ただそわそわと。まるで動いていないと時間が止まってしまいそうな気がしていた。
出来上がったお好み焼きを頬張りながら、本を読んだ。本の内容はあまり頭に入って来ず、お好み焼きの味はあまり感じられなかった。
時計にチラリと目をやると5時間ズレたまま、変わらずに動き続けていた。ゆっくり、ゆっくりと時間だけが過ぎていく。彼の帰りは何時になるのだろう。そんなことを考えながら再び本に目を落とした。